【読書感想】 シャガクに訊け!

図書館で見つけたこちらの本の感想&まとめを簡単に書いてみようと思います。ちなみに一気読みかつとんでもない乱文の完全自分用メモです。

シャガクに訊け! 大石大/著

自分自身社会科学部(通称シャガク)卒ということもあり、完全にタイトルに惹かれて読んでみました。

あらすじ

留年を回避するための条件として主人公(松岡)は変わり者の先生(上庭)のゼミに入ることになる。
ゼミと言いつつも、実態はなんと学生相談室で学生の悩みを聞くこと。
学生の相談を社会学の考えに照らしながら華麗に解決していく、そしてその様子を学生相談室の助手として間近でみていく、そんな物語である。

構成は7章 + αに分かれており、それぞれ社会学の理論が章題となっています。
以下、勉強になった点を中心に章ごとにまとめていきます。

1時限目:ラベリング理論

ラベリング理論とは、特定の者を逸脱者だとラベル付けをするその行為が逸脱者を生んでいると考える理論のこと。

今回の相談者は心理学部の院生。
高校入学前は素直でかわいかった弟が、不良高校に通った途端に非行に走るようになってしまったという相談。
てっきり不良高校に通ったがために非行に走るようになったのかと思われたが、実際は家族が「不良高校に行ったらお前も不良になる」「こんな行いをするなんてお前も不良だ」とラベル付けをしたことが大きな原因だと上庭は指摘。
こうしたラベル付けをされたことで、弟は自分が逸脱者だと考えるようになり、結果ラベル付けされた通りに逸脱者として振る舞うようになってしまったのである。
この指摘を踏まえて、相談者は弟を一人の人間として対等に扱おうと決意する。

2時限目:文化人類学

相談者はイケメンな経済学部の男子大学生。
この相談者のお悩みは、2人の女性を同時に愛してしまいどうしたらいいかわからなくなってしまったというもの。
主人公はそんな相談者に対して「そんなの人としておかしい」などとついキレてしまったが、相談者も「自分でもそう思っている、だが自分は2人とも愛してしまったのだからどうしていいのかわからない」と返す。

そんな2人に上庭は「2人の女性を同時に愛したらおかしい、間違っていると決めているのはあくまで社会であり、社会が違えばこの物差しは容易に変わるものである」と指摘する。
現代社会では人殺しは重い罪だが、戦争となればその価値観は逆転する。
同性愛にしたって、今でこそ受け入れられつつあるが、時代や国が違えば犯罪として扱われていたそう。

現代の日本において間違っていると言われる道を選ぶのか、それとも自分の感情に従って2人の女性を愛するのかは相談者自身が決めることだと上庭は言うが、その言葉を聞いた相談者の顔は晴れ晴れとしていた。

3時限目:認知的不協和の理論

今回の相談者は就活中のチアリーダー部の女学生。
彼女は家族の希望に沿って医者の道を志したが、2浪の末断念。
文系学部に進み、部活やバイトに精を出し、就活も大手企業の最終面接まで進んでおり順調。
一見すると何が悩みなのかわからないようだが、彼女は就活を進めれば進めるほど苦しくて苦しくて仕方がなくなるという。事実、主人公の松岡はテラスから飛び降りようとした相談者をすんでのところで引き止めたことがある。

上庭はこの状況を、「本当は医学の道に進みたかったのに、それを叶えられず違う道に進もうとしているから苦しいのだ」と指摘する。
この相談者は医学部に進めなかった挫折経験を見て見ぬふりをして、「部活やバイトに精を出して、最終的に安定した大手企業に進むのが自分にとって正しい道なのだ」と自分を納得させようとしていたのだ。
これは矛盾した心理が同時に発生しており、認知的不協和に陥っているといえる。
認知的不協和とは、自分が認知した事柄や感情に矛盾が生じた状態である。
この認知的不協和を解消させるために自分を納得させることが章題の「認知的不協和の理論」である。
この例として、よくイソップ童話の「酸っぱいブドウ」が用いられる。
キツネは木に実っているブドウを食べたいと思う。
しかしブドウは高いところにあり取ることができない。
この2つの事象には認知的不協和が生じている。
キツネは「あのブドウはどうせ酸っぱいから食べない方がいいんだ」と自分を納得させることにした。この思考の変え方が認知的不協和の理論である。

この相談者も、認知的不協和を解消するために大手企業を受けて「これこそが正しい道だ」と信じていたのだが、それにも限界が来ていたために心が悲鳴をあげていたのだろう。

4時限目:スケープゴート

本章は主人公を取り巻く環境がメインで語られる。
集団は共通の敵を作ることで一体感を生む。その敵のことを「スケープゴート」と呼ぶ。
例えば戦争の場合、外部に敵を作ることで国は一体感を生む。
いじめは内部に敵を作ることでグループ間の繋がりを強固にしている。
主人公のサークルも、スケープゴートを作り出している状況である。
だが主人公はそのスケープゴートにされた学生のことを嫌いになりきれない。だが集団として生活するにはその学生を敵として認識しないといけない。そんな葛藤が描かれた章である。

5時限目:準拠集団

この辺りから物語のネタバレになりそうな部分が増えてくるので、簡単な理論の説明に留めておきます。
準拠集団とは自分が理想とする集団であったり、自分の思考や考え方に影響を与える集団のこと。
人は準拠集団を模範とし、その集団の規範や価値観を取り入れて思考・行動するようになる。

6時限目:服従

人は意外に権威に簡単に従ってしまうものである。
それを証明したのがアイヒマン実験である。
アイヒマン実験の内容はこうだ。
まず被験者は教師役と生徒役に分かれる。
生徒役はクイズに答え、間違えたら教師役から罰を与えられる。
教師役は生徒役がクイズを間違えるたびに罰を重くする。
生徒役の罰はどんどん重くなるが、実験者はそれでも教師役に罰をやめないよう指示する。
教師役は何度も実験をやめるよう訴えるが、多くの場合権力に屈して罰を与え続けてしまうというのだ。

また、本章では傍観者効果についても言及されている。
事件についての目撃者が多ければ多いほど、「誰かが対処してくれるだろう」「自分は関わり合いを持ちたくないし目立ちたくない」といった心理が働いてしまい、傍観するだけの者が多くなってしまう効果のことだ。
ただ、次章では傍観者効果について学んだ人は同様の状況下でも積極的に手を差し伸べる傾向にあるとの記述がある。

7時限目:自己成就的予言

将来について思い込んだり言及した内容が現実になってしまうという現象を「自己成就的予言」という。
例えば「あの銀行は破綻する」と国のお偉いさんが言ったがために多くの人がそう思い込み、預金を引き出して本当に銀行が破綻してしまった事件も自己成就的予言に分類される。
これは必ずしもマイナスに働くのではなく、子供に対してIQが高いと思い込んで接すると本当に子供のIQが高くなったという実験結果もあるそうだ。

全体を通して

社会学の理論が物語の中でわかりやすく散りばめられており、初めてこうした理論を見聞きする人であっても理解しやすい形でまとめられているなと思いました。
自分としては、授業の中で学んだはずなのに忘れかけていた理論がいくつかあったので、復習にもなってよかったです。せっかくnoteにまとめたのでなるべく忘れないようにしたいです。
スケープゴートに関してはちょうどコテンラジオのアメリカの章で似たような話をしていたので、「あの現象に名前あったんだ〜」という感じでより理解が深まりました。

物語としても、主人公と教員のキャラが立っており、普通に小説として面白いなという感想でした。


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