見出し画像

ちょっとニッチな児童文学④ 『野原できみとピクニック』

このnoteを開いてくださってありがとうございます。Maemichiと申します。

なぜこのnoteを開いてくださったのでしょうか?

まさかとは思いますが、タイトルの「ちょっとニッチ」を「ちょっとエッチ」と見間違えたわけではありませんよね?

もしそうなら、そのような煩悩は脳内から振り払ってください。

このnoteのタイトルは
『ちょっと「ニッチな」児童文学』です。
(念のためお伝えしておくと、「ニッチ」とは隙間という意味です。)

このnoteはわたくしMaemichiが世間様にあまり認知されていないであろう児童文学作品を、つらつらと紹介していく場でございます。

大量のネタバレも含みます。物語の詳細な内容や結末を知りたくないという方はネタバレ部分を飛ばしてお読みください。

今回は濱野京子さん作『野原できみとピクニック 』をご紹介します。

本の帯には「遠かったんじゃない、見えてなかったんだ」の一言。
優弥(ゆうや)は地域でもトップクラスの学力を誇るS学園の生徒。一方 稀星(きらら)は底辺高校L校の生徒です。
 

毎朝線路をへだてて上りのホームにはL高校の生徒たちが、下りのホームにはS学園の生徒たちが立っています。
どちらも高校生ですが、この2つの高校の生徒が交わることはありません。

 双方に関心がなく、周りの先生や親からは向こう側の生徒とは付き合わないように言われています。特にS学園の生徒たちは「駅の南側の治安が悪いところには行かないように」と忠告を受けているからです。

優弥と稀星(きらら)の出会い

 優弥が写真部の活動のために駅の南側の地域に足を踏み入れた時、ガラの悪いL高生に絡まれます。その時に稀星が優弥を助け、それが互いを意識し合うきっかけになります。

 何度か会うことになっても、予想通り話が合いません。特に優弥が稀星の行動に驚いている様子が見られます。金銭感覚の違いや受けてきた教育、知っている言葉の数。優弥も稀星も社会格差を感じずにはいられません。 

ふたりの違い

物語の中でふたりの違いが折に触れて描かれています。

稀星(きらら)はコンビニでアルバイトをして弟の面倒をみる。

優弥はバイトはせず裕福な生活。一人っ子。

稀星は習い事をしたことがない。

優弥はバイオリンとピアノを習っていた。

稀星の制服は膝上丈のスカートで休日に化粧をする。

優弥は姿勢が良く、地味だけど質の良い服を着る。

優弥の周りの友達は金持ちで上品。

稀星の周りの友達は厳しい経済状況で口も悪い。

優弥は進学が当たり前。

稀星は高校を卒業したら働くつもりでいる。
もしくは働きながら夜学に通って保育士の資格を取ろうとしている。

優弥の飲み物はミネラルウォーターかお茶かコーヒー。

稀星の好きな飲み物はコーラ。

そんな違いばかりのふたりは、友人たちと協力して互いの通う高校が交流できる場を作ろうとします。

「はもれびカフェ」で交流パーティー(ここからはネタバレ注意)


「はもれびカフェ」はL高生がよく利用するブックカフェで、優弥と稀星がL高生とS学園の交流パーティを開こうとした場所です。

L高がある地域の子供たちのために子ども食堂をしていたり、高校生が小中学生にボランティアで勉強を教えています。

 優弥ははじめて稀星に連れてきてもらった時にその雰囲気に驚きました。子供が自由に遊んでいたり、セルフの飲み物が100円で飲み放題。

物語の後半、二校が交流することをよく思わない大人たち(主にL高の先生)にやめるよう言われてしまいます。
結果、はもれびカフェで交流パーティーを開くことはできませんでした。
それでもあきらめられないふたりは、他のメンバーの発案で「反省会」と称して、はもれびカフェで二校の交流会を持ちました。

ここからはMaemichiの感想です


はもれびカフェで親交を深めていく2つの高校の生徒たち。なぜ二つの高校には今まで交流がなかったのか?
それは親や先生たちが二つの学校の生徒たちが交友関係を持つことに消極的だったからからではないでしょうか。どうせ住む世界が違うから、分かり合えないからと決めつけていたからに他なりません。

特に優弥の通っているS学園の大人たちは、S学園の生徒たちが悪い影響を受けてしまう、と心配しています。大人たちの考えることはいつだって後ろ向き。

大人たちの心配をわかっていながら、優弥は稀星と会うことをやめません。周りの大人や親友の心配にも反発してしまいます。交流パーティーを開こうと集まっていたメンバーも同じです。

違うから、時にはぶつかるし、新しい発見もある。育った環境が全く違う二つの高校の生徒同士が良い影響を受け合う。
人は影響を受けます。周りいる人や、自分が置かれている環境から、良くも悪くも。大人たちはマイナスな考えばかりでプラス影響を受け合うとはあまり考えていないように思います。

「共感できることとできないことを知りたい。何に共感して何に共感できないのか。」
物語の中にあったこの台詞のように、相手を認めた上で共感できる、できないを感じていくことが相手との距離感をほどよく保つ秘訣なのかもしれません。
遠すぎず、近すぎず。相手のことが見えている距離。

自分の半径10メートルが自分の常識にならないように、
大人の偏見が世代を超えて子供に伝わらないように、
何に共感できて、何に共感できないのか。自分の目で見て感じることで、自分も他者も知っていきたい。

長くなりましたが最後までお読みいただきありがとうございました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?