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『あなたのくれる手紙』【短編】

            (約800字)


透明な手紙の香り。

丁寧に折り畳まれた、それは印刷されたものではない。
あなたがくれる手紙はいつも、インクの匂いはしない。

潮風でもない。
暖かい太陽の日差しを浴びた、軽やかなものでもない。
かといって、辛気臭い一カビ臭さを思わせる陰気なモノとはかけ離れている。
丁寧に書かれたその字は、読んだら一瞬で消えてしまう。
不思議で、魅惑的な手紙。

どうしてあなたが、そんな手紙を思いついたのか。
はたまた、その手紙しか書くことが出来ない環境に身を置いているのかを、何度も何度も
考えてみた。

あなたが私の元を去ってから、どれくらい経ったのでしょうか。

多分、写真が焼けてしまってから、
あの火事からはもう3年は過ぎています。

あんなに毎日、一緒にいて、
‥‥一緒に眠ったり、起きたり、笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、仲直りしたり、もう
一緒にいることが、朝ごはんを食べるくらい当たり前だったのに。

あなたの唇の形も、指の長さも、足の冷たさも、髪の柔らかい感触も、背の高い見上げる感覚も、すべて忘れてしまいました。

手紙が届いたのは、3ヶ月前から。

知らない町の消印で、名前も記さず、突然
届いた。

封を開けたら、一枚の紙。
何も書いていない手紙に、恐怖を覚えた。
そして、2通目。
それは、また、月の初日に届いていた。
3通目。
先月の一日に、郵便箱に入っていた。

明日は、来るのだろうか。

思い出した。
まだランドセルを背負っていた頃、レモンの果汁で書く手紙のこと。

私が、火事で火を見たくないのを知ったあの人は、こんな手紙を書いたんだ。

震える手で、手紙を炙ってみた。

浮き出た文字は、

1枚目、「いきている」
2枚目、「げんきか」
3枚目、「あいたい」

届く手紙を待って、眠れずに朝のカーテンをひいた。


4枚目の手紙には、数字が浮き出てきた。


私は、携帯電話を慌てて取り上げて、
その番号をうち始めた。


           〜 おしまい 〜


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