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映画試写:『ノートルダム 炎の大聖堂』

試写で拝見しました:
『ノートルダム 炎の大聖堂』ジャン=ジャック・アノー監督、2022


ジャンルとしては、いわゆるパニック映画でしょうか。


2019年4月15日に、パリ、フランスで発生したノートルダム大聖堂の大火災は世界に大きな衝撃を与えました。
本作品は、避難、鎮火活動を通じて、「犠牲者ゼロ」がいかに達成されたか、火災発生から沈下まで、フィクションをまじえつつ、事件の真相にせまります。現場におけるチームプレイと個々の消防士の勇敢で俊敏な判断など、全編IMAX撮影による大迫力の画面で、息もつかせぬ2時間を多彩に仕上げています。

・・・とはいえ。

これだけだと、勇敢な消防士たちの感動物語にとどまりそうなものですが。
名匠アノー監督、西欧カトリックの中枢であるノートルダム大火災の特殊性を浮き彫りにすることで、ノートルダム教会、ならびフランス社会の複雑さにカメラを向けていきます。

消防チームの鎮火活動が行われる中で、教会側が重視したのは、教会堂内部に秘匿された聖遺物の保護でした。

聖遺物は、カトリック教会の存在律であり教義の基盤となる一方、ノートルダムに保存された遺産の数々は国有財産であるようです。教会堂建築そのものは、過去にも火災で塔屋が崩壊して再建されるなど、基本的には建て替え可能ですが、聖遺物は、その唯一性が存在を支えています。

一方で、磔刑図でキリストが頭にかぶる「茨の冠」といわれてもピンとこない指揮官など、フランス社会の多層性、聖俗の認識の違いが浮き彫りにされます。

本作を見る限り、ノートルダムにおける聖遺物の管理は、同教会ディレクターRégisseur généralであるロラン・プラド氏Laurent Pradesが行なっていたようです。

https://www.youtube.com/watch?v=NZaCfKOVBS0

教会堂では、歴代の担当管理者が、おそらく、数百年以前から教会内で続けられてきたであろう古めかしい方法で保管を行なっています。そして、驚かされるのは、保管場所や鍵のありか、開け方も、ごく限られた数の担当者の間で、口伝によってしか、把握されていないところ(SMSは可?)。ゆえに、映画の結末のような奇跡的な結末がもたらされるわけです。

とはいえ、ノートルダム再建後、今回救出された(本物の)聖遺物の管理方法は、一体どうなるのかなあ、ノートルダムがハイテク化されるか、はたまた別の頑丈な保管庫に移されるのかもなあ、などと、想像を膨らませられますね。。

ちなみに、劇中で、現場の指揮官たちが「〜将軍」Général などと呼称されているのはなんでだろう、、、と思って、ウィキペディアなどで調べてみました。

彼らは陸軍Général de brigade直属のパリ消防旅団Brigade des sapeurs-pompiers de Paris(BSPP)に所属する軍人であるようですね。パリ消防旅団は首都パリを危機から守る専門部隊として、パリ市の管轄に入るようです。

一方、パリでおみかけする消防士さんたち(ポンピエ)は、パリ消防旅団の下のパリ消防署casernes de pompiers de Paris に属する?パリと地方都市とでは、消防組織のシステムが違いそうですね。

(以上、間違ってたらすみません)

映画のなかでは、パリ消防旅団の軍人が指揮官となり、その指示のもとで消防署勤務の消防士さんたちが消火活動を行っているようです。


劇中で、若いエリート指揮官と、同い年くらいの消防士(幼少からノートルダムに通っていた)が、消火方法をめぐってもめる場面がありますが、このあたりはフランスの階級社会の側面をよく伝えています。大きな物語の内部で描かれる、こうした数々の小さな物語が、群像劇としての大作に輪郭とリアリティを与えています。



https://lannuaire.service-public.fr/navigation/sdis


ちなみに、消火消防プロジェクトのトップとして活躍したゴンティエ将軍は、実在の人物であられるようですね。

2019年9月にパリ消防旅団のトップに抜擢され、2022年まで要職にありました。ウィキ情報によれば、パリ1大学出身の軍人官僚で、グランゼコールのひとつであるポリテクの校長先生(?)もなさっていたようなので、相当優秀な実力派です。ゴンティエ将軍役を演じたのは、コメディ・フランセーズ出身のサミュエル・ラバルト。

こちらで、ノートルダムの再建の現状が見られるようなので、ご興味のある方は是非。。


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