アントニオーニの時代:『欲望』1966とジェーン・バーキン(前編)
フランスで活躍したイギリス人女優、ジェーン・バーキン先生が亡くなられて、一ヶ月が経ちました。
お元気でいてほしかったです。合掌。
さて、バーキン先生。
バーキン先生といえば、無名時代に、ミケランジェロ・アントニオーニ監督による『欲望』Blowupへ出演していました。
バーキン先生は1946年生まれなので、1966年の映画公開時は20歳前後。
18歳で、最初の夫である映画音楽家ジョン・バリーと結婚し、1967年4月に長女を出産しているので、『欲望』出演は、結婚、初産という、人生の一大事とほぼ重なっています。
ちなみに『欲望』でのバーキン先生の役どころは、モデル志望の10代の女の子。
シナリオでは ”Bronde”(金髪)、”Brunette”(ブルネット)のうちの前者です。アントニオーニ本において、バーキン先生個人への言及はほとんど見当たりません。
ところが。最近、パラパラとめくった1967年のイタリア語の本のなかに、こんな衝撃的な一節を見つけました:
「アントニオーニは当初、主人公にテレンス・スタンプとジェーン・バーキンを選んだと予告していた」
・・・そうなんだ!
なぜ、これが、衝撃的?
あくまで、個人的に、衝撃的なだけですが。
理由は、わたくしが長年抱いていた個人的な謎が氷解するからです。
オ・カピート!って感じでしょうか。
個人的疑問、というのは、『欲望』のシナリオなどみると、
主役の女性が”Girl”(少女)と指定されているのですが、
実際に主役を演じたヴァネッサ・レッドグレイヴ先生がちっともgirlっぽくないからです。
レッドグレイヴ先生といえば、1937年にイギリスを代表する有名舞台俳優一家に生まれ、演劇学校を出た後シェークスピア劇を皮切りに、舞台、テレビ、スクリーンで活躍しつつ、政治活動も行ってきた、バリバリ、硬派で実力派の女優です。girlとか、あの誇り高きヴァネッサ先生の風貌にはそぐわないなあ、と、20年以上、ずっと、個人的に思っていました。
それに、男性主人公デイヴィッド・ヘミングス役のテレンス・スタンプ先生は、
イギリス人男性としては小柄で童顔。
長身のレッドグレイブ先生とならぶと、さながら姉と弟のようです。。
なにかがおかしい、、、。
まさに『欲望』のストーリー的な、解けない謎。
作品として成立しているかぎり、
実際のフィルムがすべてであり、
スクリプトにこだわる必要もないのかもしれませんが。
swinging Londonに包まれたオシャレな雰囲気に飲まれて、
あまり問われることのなかった、『欲望』における配役の謎です。
…しかし。
1967年イタリア本の記述が正しいとすれば。
アントニオーニがバーキン先生を想定してシナリオを書いていたりして。
もしそうだったら。
バーキン先生、実年齢は19歳くらいのはずです。
渡仏後は、セルジュ・ゲーンズブールとともにロリータ一時代?を確立したくらいですし、ロリータでガーリッシュな女性を代表する存在。
"Lolita Go Home", 1975
映画における配役は流動的な要素もあるだろうから、主演(予定)俳優の交替は珍しいことではないかもしれません。
とはいえ、シナリオで当て書きまでされながら(おそらく)、
バーキン先生の個人史に少しひきつけて考えると、1960年代と2020年代の現代が、つながって見えてくる気もします。
(後半に続きます。長くなったので。。)
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