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翻訳と私:韓日翻訳者 加藤慧さん

プロフィール
加藤 慧 (かとう けい)
宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部卒業、同大学院博士課程科目修了退学。大学院在学中に漢陽大学校大学院に交換留学し、韓国建築史を学ぶ。現在はオンラインで韓国語レッスンを行うほか、仙台市内の大学で韓国・朝鮮語の授業を担当。訳書に『僕の狂ったフェミ彼女』(イースト・プレス)、共訳書に『なかなかな今日 ほどほどに生きても、それなりに素敵な毎日だから。』(朝日新聞出版)がある。
twitter: chamchi_kay

外国語と私
 初めての海外文学との出会いは、小学生のときに読んだミヒャエル・エンデの『モモ』でした。そして初めて〝翻訳〟を意識した作品は中学生の頃に読んだ『スウィート・メモリーズ』です。もともと日本語ではなかったとは信じられないほど、ダイレクトに物語のメッセージが伝わる感覚に感動しました。翻訳した金原瑞人さんという方はなんてすごい方なんだろう、なんて素敵なお仕事なんだろうと、翻訳の世界に思いを馳せたことを今でも覚えています。
 英語が得意科目だったので、この頃は漠然と英語に関する仕事がしたいと思っていたと思います。ところがその後、高校での理系科目の勉強がそこそこ面白くなり、就職にも有利らしいという安易な理由から工学部に進んでしまいました。建築学科に入り、単位がとりやすいらしいというこれまた安易な理由からスペイン語を選択。これが大きな転機でした。幼い頃自然と身につけた英語と違って、ゼロから外国語を学んだ初めての経験だったため、楽しくて仕方なかったのです。この頃、自分は語学が好きなのかもしれない、と気が付きはじめました。

韓国語と私
 韓国との出会いは、大学で留学生の友人ができたことでした。その友人をきっかけに、韓国ドラマやK-POPにも興味を持ち始め、趣味として韓国語の勉強を始めました。単なる趣味だったはずが、徐々に大学での勉強よりものめり込んでしまいます。何とか専攻の内容と結びつけたくて韓国建築史を学びましたが、結局は韓国語講師としての道に進むことになります。
 実際に翻訳というものに取り組んだのも、講師としてのスキルアップの一環で、同じ大学の非常勤講師仲間の先生と始めた勉強会が最初でした。ネイティブの先生と二人で、決めておいた範囲を翻訳して見せ合い、意見交換をするというものです。題材にしたのは、当時は邦訳の刊行前だったイ・ギジュ『言葉の温度』。原書とひたすら向き合い、時間をかけてディスカッションをしました。訳語を選んだ理由を聞かれても全く答えられず、〝なんとなく〟で訳していたことに気がつき、これではいけないと根拠を持って訳語を選ぶ習慣がつきました。その先生は韓国語、私は日本語の、お互いネイティブとして感じるニュアンスの違いを説明し合ったりして、本当に濃い時間を過ごすことができました。

翻訳と私
 ちょうどこの頃に、韓国の友人の長編小説デビュー作が発表されました。
 初めての訳書『僕の狂ったフェミ彼女』との出会いです。読んですぐに、日本でも早く読まれてほしいな、翻訳してみたいな、と漠然と思ったことを覚えています。
 SNSでつながった編集者さんにダメもとで作品を紹介し、運良く翻訳できることになったはいいものの、あるのは「とにかくこれを早く読んでもらいたい」という熱意のみで、翻訳の知識は皆無でした。
 慌ててオンラインで受講できる翻訳スクールに入り、実際の作業と並行して翻訳の勉強を始めます。第一線で活躍されている翻訳家の先生方の授業は本当に学ぶことが多く、また素晴らしいクラスメイトの皆さんにも刺激をもらうことができました。
 とにかく情報が欲しくて、韓日翻訳にかぎらず、さまざまな翻訳関係のサイトを見たり、オンラインセミナーなどに積極的に参加していました。そのうちのひとつである「洋書の森」の「おしゃべりサロン」では、悩みごとやわからないことの相談に乗っていただけて、大変感謝しています。
 そんな手探り状態でのスタートでしたが、その後もありがたいことにご縁が重なり、現在も翻訳のお仕事を続けることができています。私にとって翻訳は、難しく苦しいけれどそれ以上に、韓国語と日本語、大好きな〝ことば〟とじっくり向き合える至福の時間です。いかに著者のメッセージを自然な日本語で伝えられるか、学びは尽きることがありません。まだまだスタート地点に立ったばかりですが、これからももがき苦しみながら、でも楽しみながら、精進を続けたいと思います。
 
プロフィール
加藤 慧 (かとう けい)
宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部卒業、同大学院博士課程科目修了退学。大学院在学中に漢陽大学校大学院に交換留学し、韓国建築史を学ぶ。現在はオンラインで韓国語レッスンを行うほか、仙台市内の大学で韓国・朝鮮語の授業を担当。訳書に『僕の狂ったフェミ彼女』(イースト・プレス)、共訳書に『なかなかな今日 ほどほどに生きても、それなりに素敵な毎日だから。』(朝日新聞出版)がある。
twitter: chamchi_kay

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