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デミアン 第五章「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う」

 前章で、差出人名も書かず、デミアンに送った、ハイタカの絵に、不思議な方法で返事が来た。本に一枚の紙きれが挟まっていたのである。それを見た時、デミアンからの返事だと確信した。
「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという」と書かれてあった。

 その後、大学から来た若い助教師がヘロドトスの講義で「アプラクサス」について語った。「アプラクサスは神的・悪魔的なものとを結合する」
アプラクサスについて調べようと本を漁るが、本からは何も得られなかった。また、繰り返し同じ夢を見た。夢で生家に戻って、家の中で待つ母を抱こうとすると、それは母ではなく、デミアンに似ていた。強そうではあるが、女性的だった。

 翌年には大学進学を控えていたが、将来、社会の何と自身を結びつけたら良いのか分からず、ただひたすら孤独にアプラクサスと夢想された女性と共に生きた。

ここで、小説の冒頭に書かれている文句が、出てくる。
私は、自分の中からひとりで出てこようとしたものを生きてみようとしたにすぎない。なぜそれがそんなに困難だったのか。

 ある時、教会から漏れてくるオルガンの音色に惹かれ、オルガン奏者のピストーリウスと知り合う。彼は監督牧師の息子として生まれたが、キリスト教の範囲を越えて「人々はどのように神々を考え出したのか?」について思索するようになっていた。彼に導かれ、キリスト教の外側にあるグノーシスやゾロアスター、プラトンやヴェーダについて学び、アプラクサスについて理解を深めていった。

「気ちがいだって、プラトンをしのばすような思想を生み出すことは出来る。ヘルンフート派の学校の小さい身心深い生徒でも、グノスティック派の人々やゾロアスターに現れる深い神話学的な関連を創造的に考える。だが、彼はそれについてなにも知らない。それを知らないかぎり、彼は木か石か、もっとも良い場合でも動物に過ぎない。この認識の最初の火花がほのめいて来るとき、彼は人間になる。」
「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名は、アブラクサスという。」
「彼らのすべての中に、人間になる可能性が存在しているが、それを察知し、その上その一部を意識的にすることを学んだときはしせめて、その可能性は彼のものになるのだ」

「自分の中からひとりで出てこようとしたもの」から、ユングの夢分析元型を思い出した。意識的にする、学習する過程なのかと思う。ピストーリウスは、デミアン2号?


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