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【エッセイ】魅惑の朝ラー

前回に引き続き、またもラーメン好きの彼に連れられて行った、ラーメンの話。
今回は、初めての「朝ラー」について。

私は段々と、ラーメンの魅力に引き込まれていく。



その日、朝から遠出をしようということで、8時には家を出た。

車に乗って駐車場を出ると、いつも通りの会話が行われる。

私:「お腹すいた」
彼:「先にご飯食べよう。何食べたい?」
私:「ん〜なんだろう」
彼:「ラーメン食べるか」
私:「うん」

相変わらず決断が早い彼は、私が考えている様子を見せると、速攻で決めてしまう。
そしてこれといった希望がすぐに思いつかない私は、大体それに乗ってしまう。


しかし、朝からラーメン屋なんて空いてるのか、と思ったが、「朝ラーメンが安く食べられる店がある」とのことで、行くことになった。



車を走らせ数分、国道沿いにその店はあった。

都会で生き残るには必須であるように思わせる「コンセプト」というものに、一切振り回されていない店だった。

醤油やら豚骨やら冷やし中華やら、色んな種類のラーメンがあり、
「なんでもあるから好きなの食べて」と様々なジャンルのお菓子たちを、籠に入れて出してくれる、おばあちゃんちの居間のような雰囲気だった。

食券の券売機を見ると、トッピングが盛り盛り乗ったラーメンの写真に、
「おすすめ!特製醤油1000円」
「特製みそ1000円」
と、冠かぶった王様よろしく、ラーメンのメニュー達が並んでいた。

え、全然安くないじゃん。

と思っていると、
彼の手が、券売機の下の方に伸びていって、

『ピ』

「朝ラーメン500円」という、
他のボタンと比べても圧倒的にプラスチックが擦り切れて半透明に曇っているボタンを押した。

なるほど、こんなところに潜んでいたのか。
こんなに目立たないところにあるにも関わらず、この変色ぶりは、一番多く押されているのではないか。

私も少しドキドキしながら、ソワソワしながら、そのボタンを押した。



店内の奥の、テーブル席に座ることにした。
明るい色の分厚い木の椅子に座った。テーブルも揃いだった。

店員が来て、食券を渡し、お冷やが置かれた。   

今日初めての飲食物だな〜と思いながら、少し熱った喉と、まだ寝ぼけている頭をさまそうと、水を半分ほど一気に流し入れた時、

『どん』

先ほどと同じ店員が戻ってきて、目の前に丼二つ、ラーメンが置かれた。

……脅威のスピード。
注文の多さと回転の速さを感じた。

これは、絶対美味しい。
しかも明るい色の分厚い木の椅子の店なんて、絶対美味しい。


そして、美味しかった。


ほんのり煮干しを感じる醤油ベースのスープは、優しい味で、ほぼダシ。

昼に食べるには、量が足りないかもしれない。
飲んだ後に食べるには、パンチが足りないかもしれない。

朝に食べるには、最高だった。



それでもしっかり塩見のあるラーメンを、スープまでほぼ飲み切ってしまった。

身体は温まり、頭は酸素と塩分で冴え冴えとしている。

これは間違いない、「整った」。

ラーメンで整うということを、この時初めて感じた。

ただただカロリーと満腹感を得ただけにも関わらず、やりきったという達成感までついてきてしまう。

その充足感と爽快感は、スポーツやサウナをした後のようだった。

彼の上司は、土日のゴルフ前にはいつも、近くの銭湯のサウナに入り、ここの朝ラーメンを食べて、ゴルフに行くという。
最高に整いすぎて、そのあとはどうにも気合が入らず、いつもものすごく低いスコアを叩き出すらしい。

たしかに、勝負なんて、どっちでも良くなってしまうような、
これだけで世界は完結していると、思わせるような、そんなラーメンだった。

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