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産後の娘への対応@源氏物語

 今日は『源氏物語』の一場面について簡単に。

 「若菜上」巻で、明石の上の娘の、明石の女御が帝の子供を出産する。
 ちなみに明石の上とは、光源氏が政敵の娘朧月夜と密通していたことがきっかけで流された地、須磨で出会った聡明な女性である。改めてきっかけが酷い。なお、朧月夜と密通していた時点で、既に家には紫の上もいる。

 話を戻そう。ママになった明石の女御目線で登場人物を整理すると、

帝=夫(光源氏の兄の子)
紫の上=養母(幼少の明石の女御を実の娘として愛情をもって育てた)
明石の上=実母(娘の入内後、会えるようになった)
光源氏=実父

 この場面に義両親は出てきません。

 さて、無事に皇子を出産した明石の女御。出産に際して、実家である光源氏邸に里帰りして、ゆっくり休んでいる。
 出産後の儀式を諸々終えた頃、帝(夫)から「君に会いたいから早く戻ってきてよ!」という手紙がしょっちゅう届く。
 この時期が具体的には書かれていないのだが、少し前に生まれて七日目の儀式をした、という記述があるので、多分産後1ヶ月経ったか否かというところではないだろうか…。生まれて五十日の儀式などもあるので、少なくとも3ヶ月は経っていないはず。

 夫からの手紙を見た明石の女御は

「体もしんどいし、もうちょっと実家(光源氏宅)でゆっくりしたい……あの人、普段なかなか実家に帰るの許してくれないし……」

と思っていた。
 平安時代は出産も命がけであり、当然医療も充実していないので、産後の体への負担はひどく大きい。実際、光源氏のママも出産後から体調を崩して死んでしまう。

 この明石の女御に対して、紫の上、明石の上、光源氏の三者三様の対応を見てみよう。

①紫の上
 「帝があの子に会いたがっているのも当然のことです。会うのをどんなに待ち遠しく思っているでしょう」

と言って、光源氏と一緒に内緒で、帝のところに戻る準備を始める。

 これ、出産直後で体調が悪いママ目線で見たら鬼かよ……って感じだけれども、多分、紫の上は全然悪気はないと思う。むしろ、里帰りしている間に帝の寵愛が薄れたら可哀想……という心配をしてのことかなという感じ。
 ただ、ちょっと関係がありそうなのは、紫の上には出産経験がないということ。自分の母も幼い頃に亡くなっていて、十歳かそこらで光源氏にさらわれるように結婚したので、産後の体調を知らないのである。

②明石の上
「まだやつれていらっしゃるし、もう少しこちらで休んで、体調が回復してからお戻りなった方が良いかと思います」

 こちらは実母。出産のつらさを知っているからこそ、娘の体調を気にかけているのかなと。帝の寵愛も大事だけれど、娘の命と健康が一番優先という親心を感じてしまう。
 紫式部が意図して書いたかはわからないけれど、ここで、一生懸命お母さんをしようとしていた紫の上と、実の母明石の上で娘への対応に差が出ているのが興味深い。

③ 光源氏
「大丈夫大丈夫!女の子はちょっとやつれてるくらいが可愛いから帝ももっと好きになってくれるよ☆彡」

 控えめに言って殴りたくなりますよね。意図的にウザく訳しましたが、マジで概ねこのようなことを言っています。
 光源氏お前そういうとこだぞ。


 この出産後の娘に対する三者三様の対応はなかなか面白く、なんとなく現代に通ずるものもあるような気がする。
 紫式部自身もこの場面を書いたときには既に娘がいたので、もしかしたら、ちょっとノーテンキな男性陣にイラッとしたことがあったのかも知れない。なんとなく、紫の上や光源氏と同じ意見をもっている人は、このように差をつけて書くことはできないと思うので、紫式部は明石の上と同じ価値観だったのかなあと思うのである。

 源氏物語は遠い過去の話のようだけれども、現代に通じる価値観も時々出てくる。私はどちらかというと実際の話をもとに書かれた説話集が好きなのだが、『源氏物語』の心理描写や人間関係における事件などは面白いので、もう一度ゆっくり読み直してみたい。

 関連としてカクヨムの方で書いた『源氏物語』の紹介記事も上げさせていただく。
 noteでは「だ・である調」で淡々と書くことが多いのだけれど、向こうの記事は、話し口調で書いているので、ちょっとハイテンションめ。なので、こちらに引用するときは少し照れるような感じがする。


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皐月あやめ
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