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「認める」「ほめる」「賞賛する」。人と組織を育てるアプローズマネジメント人材育成その1~


ナイトウォーク終了後スタッフたちでアプローズ お互いを讃えて拍手

アプローズとは英語のapplauseのことで、「拍手」を意味します。拍手や喝采などによって公に表現される賞賛や称賛の行為です。

アプローズマネジメントとは、私がこの言葉にマネジメントの意味を加えて作った造語で「拍手喝采で賞賛して皆で喜び合うことで、快感を刺激し、意欲を高め、提供価値を高める」ことです。

 組織においては賞賛された対象事柄が、組織が目指すお手本であることを間接的に示しますので、事業理念の理解にも役にたちます。
個人にとっては、モチベーションがあがり、積極性も出てきますし、本人の当事者意識、課題感など事業のイノベーションを生み出すマインドと姿勢が養われます。

いいことづくめのアプローズマネジメント

 私は、これまでの複数の会社と組織で編集長、課長、プロジェクトリーダー、プロデューサーとしての組織・プロジェクトマネジメント経験をしてきており、さらに近年はシニアコンサルタントや大学講師として特に意識的に若手の成長支援役をしてきました。その中で実感してきたことは、「賞賛することは対象にとってプラスになる」というシンプルな事実です。近年の若者気質として、「人前で褒められたくない」人が増えているともいわれていますが、褒め方を間違えなければ、そんなことはないというのが私の実感です。

 「認める」「ほめる」「賞賛する」

 アプローズマネジメントの本質をより正しくご理解いただきたいので、この3つの微妙な違いを記しましょう。

■「認める」・・・何かしらの行為の結果を見て、それを行った「人」(もしくはその事柄)が有用であると承認することです。

■「ほめる」・・・その人が自らの提供価値に気づかせる結果を生み出す働きかけです。

■「賞賛する」・・・「人」というより、その人の「行為」を讃えることで、集団のエネルギーを培う結果につながります。

これらはいずれも価値がある行為だと考えますが、微妙に与える影響が違うので、それをまずは紐解きます。

 

「認める」―吉田松陰の例


吉田松陰 画像元:Wikipedia

 「人を認める」ことをできる人とできない人がいます。
人を認めるには、その人に対峙して、なにかしらの「驚き」を感じることが原点です。
「こんなに上手に絵が描けるんだ」とか「あんなしんどい状態の中でも精一杯尽くしたんだ」とか。
自分にないもの、自分ではできないことなどを、相手の資質や行いから発見し「驚く」のですね。ですから、うぬぼれさんには難しく、謙虚でなければ発見できず、学ぼうという姿勢がなければ「認めるポイント」さえそもそもありません。まずは「認める」ことができるように、自らの姿勢を正す必要がある方もいるでしょう。

 幕末の思想家、吉田松陰は、国の改革を過激に志向する行いふるまいが自藩から敬遠され、危険思想の持主として「野山獄」という牢屋に収監されました。そこには囚人が11人いたといいます。根っから「人が好き」で旺盛な好奇心と向学心、そして無垢な心の持主だった松陰は、先輩の囚人たちと話をする中で、牢屋に入る前の仕事などを話してくれるようにかき口説きます。彼はその話がいちいち面白く、ついに彼の提案で、囚人の持ち回りで毎回それら囚人が先生となる勉強会を開くことになるのですね。大工だった囚人は、釘の打ち方や家の建て方を教えたり、歌を詠むのが上手な囚人は歌の手ほどきをしたり・・・。こうして、牢屋に閉じ込められ失意のどん底にいたであろう囚人たちが大げさにいえば「生きる光」を見出したのです。一人ひとりの囚人たちが、松陰のおかげで人に得意なことを教えることで「自分の有用性」を感じ、生きる喜びを取り戻したのです。囚人のうちには釈放されてからその時の心境を文に残している者や、後に松陰の活動に参加しようとした者まで出ました。彼らの生涯を変えるほどの出来事になりました。

このエピソードは、「認める」ことのすばらしさを雄弁に物語っています。

私たちも、松陰のように、自分の小さな「驚き」と素直に向かい合って、相手と対峙したいものですね。

 

「ほめる」の源泉は「ありがとう」


 先述の「認める」が、人間存在そのものを蘇生させる力があるのに対して、「ほめる」は「認める」よりは「部分的」で「意図的」かと思われます。
実は「人をほめる」という行為は、ビジネス社会の人材育成面で賛否両論があります。
「え?賛否の「否」があるってことは問題もあるってこと?」と思う方も多いと思いますが、事実ございます。
しかし、その原因は、褒め方の質がよくなかったり、相手に対する褒める側の姿勢に問題を感じる人が多いからこそ、なのだと私は推測しています。
では、先に、どんなほめ方を慎みたいかを2つ記します。

・■慎みたい二つのほめ方

①    下心をもってほめる

相手の歓心を買う(相手に好かれたいと思う)目的や、「教育のため」という驕慢な心から出るアプローズがこれにあたります。相手に見透かされ、逆効果になることさえ少なくありません。

②    作為的にほめる

相手の成長を促すために作為的にほめる。これがビジネス社会に顕著に起こりますし、部下のマネジメントを説く多くの本にも「褒めることの推奨」がされています。しかし、これは作為的で良くありません。こう意識すると「ほめる」行為にある人と相手との心の交信の価値が大きくデフレしてしまうのです。

「ほめる」の本質は、価値を気づかせること

ではどうすればいいのでしょうか?
魅力発掘プロデューサーが「ほめる」理由、それは、ずばり「価値を気づかせる」ことです。
「あなたの実施したことが、こういういいことにつながったんだよ。」と話し伝えることです。やってる当事者は意外に価値に気づかないのです。
また、そこには自分自身の「感謝」の念も入ってしかるべきです。つまり「ありがとう」なのです。ですから、相手を「ほめよう」とするのではなくて、マネジメントする側は、成果とプロセスをちゃんと見ていることが大前提。その上、そこに「感謝」があれば、作為的なほめ言葉にはなりません。
そう、「見る」ということは「愛する」ことです。
愛すれば見えるものもあるのです。
赤ちゃんの異変に最初に気づくのは、いつだって一番愛している人(お母さん)です。
そして、本人が自分のやっていることの価値に気づいたら、あとは本人次第。その価値を好ましく思ってくれていたら、その人はなりたい自分に近づくために、さらに価値を高める動きに自発的に取り組むでしょう。

 

「賞賛する」―讃える、労う、そして明日に向かう

「認める」「ほめる」が個人に向けてされることが大きい行為であるのに対して、「賞賛する」がユニークな点は、仮にそれが個人に向けてされても、周りへの影響が大きいということです。つまり組織に対する影響が大きい。これが、私が「賞賛する」をアプローズマネジメントの最上段に持ってきている理由です。
例えば
「みんなががんばったから成功した」とか
「お互いの健闘を讃えて皆で拍手」とかですね。

そう、この「場と機会の設定」が大事で、「(一定の成果を出して)皆で喜びあおう」という機会をちゃんと持っておこうというのがアプローズマネジメントの原則です。
日々、一日の仕事を皆で振り返り、そして、できればその中から、どんなに小さなことでもいいから「良いこと」「今後の成長につながること」を見つけて、それを皆で認め、明日への糧にしていきたいものですね。そしてそれを「拍手」しあえたらいいですね。
私は自分が携わったプロジェクトでは、ほぼこの機会を採り入れておりました。(写真もその一コマです)
大体は一日の成果(アンケート結果だったり、目標の達成度だったり)を皆で振り返って、「お疲れ様、明日もまたがんばろう」という意味で拍手で締めくくっていました。会社では「終礼」の場がこれにあたりますね(最近は少なくなってきていますね)。

これは会社だけではなくて、たとえば、体験型観光プランなどでも効果を発揮します。

たとえば、バードウォッチングツアー。
最後に主催者が参加客と輪になって、
「今日は天気が悪く見えるかなと思いましたが、●●もいた、〇〇も、■■も見ました。珍しい◎◎まで、▲さんが見つけて、皆に教えてくれたので、その美しい姿を堪能できました。寒い中、みなさんの辛抱があってのこと。みなさん、今日は一日、どうもお疲れさまでした(拍手)」
などと、その日の成果を今一度皆で確認し喜ぶのです
ご存じの方も多いと思いますが、満足度を高めるには最後が肝心、ピークエンドの法則です。
さらにこの「よいことを見つけてそれを自ら情報として発信する」という行為は、それをした人の快感が高まり、その組織(や事業)に対してのロイヤリティを高めていくことが実験によって報告されています(詳細は当方論文「体験型観光プラン造成時における「物語化」についての一考察)参照)。
そこで語られることは、ふと気づけば、全部、その一日で新たに生まれたことです。それは、昨日まではなかったこと。いわば、それは今日生まれたばかりの赤ちゃんなのです。
赤ちゃんが生まれたことを喜ばない方はいません。
赤ちゃんが生まれたことに気づかない人にも、「今日、赤ちゃんが生まれたよ!」と伝え、皆で喜び、拍手をする場があればいいですね。
賞賛することは、お喜び事の共有。讃えて、労って、さらに良い明日への糧を皆でわかちあいましょう。組織の日常はそうして少しづつ強くなっていきます。

以上アプローズマネジメントについてのご説明でした。
観光振興の実際の現場でも、組織運営でも人材育成でも使える貴重な概念でしたので、ぜひものにしたいですね!

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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