【おすすめ!】敵国から来た弱者にどう向き合うか デンマーク映画「ぼくの家族と祖国の戦争」(2023年製作)
チェコ行きが迫るなか、毎日、去年の旅行記をブログる日々が続いていました。それもようやくだいたいのところを書き留められたので、8月16日公開の映画「ぼくの家族と祖国の戦争」を観に行きました。
会場は、この数年、私が観たい映画をかなりの割合で上映してくれているアップリンク京都です。ありがとうアップリンク京都! すみません、画像もお借りしました。
1945年4月のナチ・ドイツ占領下にあるデンマークのある町が舞台です。主人公一家は、その町の市民大学の学長を務めるお父さん、寄宿舎の学生や教職員の食事の世話などをしているお母さん、坊やと妹の4人です。(この「市民大学」、デンマークの民主主義を体現するもののようです。詳しく知りたい!)
ソ連がドイツに進軍し、ドイツ市民が占領下の国々に難民として逃れてきます。デンマークはドイツとの協定により、公的な施設で分担して難民を受け入れるよう迫られます。市民大学にも100人を収容するように命じられます。
まだ学期中だから無理と断りますが、占領軍に歯向かうことはできません。難民の世話はドイツ軍が担当するというので、仕方なく、体育館を貸すことにしました。
ところが、難民を運ぶ列車が着いてみると、100人どころか、500人以上の老人、女性、子どもたち。
予定していた体育館では狭すぎ、しかも体力が落ちてぐったりした人たちばかり。
それなのに、ドイツ軍はさっさと引揚げ、なんの支給もありません。食事や医薬品もなしに、ギュウギュウに詰め込まれた難民の間には、またたくまにジフテリアが広がります。次々に亡くなっていく人たち。その多くは赤ちゃんや子どもです。
見かねた学長夫妻は、牛乳や医薬品を差し入れますが、敵を利する行為だと、大学経営陣や町の人から責められます。
一家の坊やは、あるとき、難民のひとりの少女に助けられ、その少女に対しては気持ちが軟化しますが、両親が敵国の市民を助けることには反発を覚えます。
そして、兄のように慕っている、大学の住み込み音楽教師である青年のレジスタンス活動に協力するようになります。
しかし、恩もあり、親しみも覚えはじめてきた少女が窮地に陥っている状況に、少年も「敵」とか味方とかということよりも、目の前の人を救いたいという思いが募ります。
さあ、一家はどうするか!!
◇
このようにまとめてしまうと、映画のために作った筋書きのようですが、実話に基づく話だそうです。
自分がこの立場だったらどうするだろう、あの立場だったらどうだろう、といくつもの視点から考えてしまう映画です。
占領軍に恨みと憎しみを持つ人がいることももちろん理解できます。
でも、兵士でもなんでもない、弱々しい一般市民らが衰弱していく様子を見ていられない、見ないで済ますわけにはいかないと思う学長夫妻の勇気ある行動を称賛したい。
でも、自分が実際にその場に置かれたときに、家族の安全や職をかけてまで、敵国の民を助けることができるか?
見ないふりをするか、見ていても冷徹に敵は敵と感情を持たずにスルーしてしまうのではないか。
人道的見地から困っている人々を助けた人たちを敵に味方したと責めて、彼らを貶めて喝采するような行動をしてしまわないか。
◇
デンマークでも、ドイツからの難民という題材を扱った映画は、あまりないそうです。
第二次世界大戦が終わって80年になろうとしていますが、向き合うべきことや再評価すべきこと、違う視点からの検討というのは、まだまだありうるのだなとあらためて思います。
そして、これは「昔のこと」ではありません。戦火や圧政から逃れてきた人たちに対してどうふるまうかという現在進行形の問題に通じるものです。
たいへん良い映画でした。強くおすすめです!
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