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映画「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(2014年)

採点の祭典ウィークまでの約一週間を映画鑑賞ウィークにするぞと決めて、せっせと観ています。

これまで気になりながら、舞台が東欧ではないので後回しにしていた「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」は、「ノー・マンズ・ランド」「鉄くず拾いの物語」「サラエヴォの銃声」と、観た作品がいずれもガツンときた、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のダニス・タノヴィッチ監督による実話に基づく作品です。

舞台は1994年ごろのパキスタン。初々しく美しい妻を迎えた主人公は、国産の薬を扱う営業マン。必死に病院に売り込みますが、国産の薬は国民が信用しないと医師に突っぱねられます。

このままではジリ貧。そこで、世界最大手の食品会社の営業職への転職にトライします。

見事、転職した主人公は、上司から軍資金を渡され、医師や看護師に取り入って、自社の粉ミルクを採用するように申し渡されます。

せっせと通いつめ、自社のお菓子を配ったり、医師らに便宜を図ったりして、どんどんと自社製品を売り込み成績を伸ばしていった主人公は、新居も手に入れ、可愛い子どももできて、順風満帆です。

ところが、懇意になった若手医師から、自社の粉ミルクを飲ませた赤ん坊たちが重度の栄養失調で次々に亡くなっていることを知らされます。

貧しい人々の暮らす地区では、水道が整備されておらず、汚染された水で粉ミルクを薄く溶いて飲ませているため、赤ちゃんらが酷い下痢を起こし、脱水症状に陥っていたのです。

母乳であれば栄養も免疫も確保できるのに、先進国の子どもたちのように頭が良くなるとそそのかし、粉ミルクが必要ない母子にまで粉ミルクを飲ませるように仕向けた食品会社のやり方が間違っていたことに気づいた主人公は、会社を辞め、この問題を告発します。

会社や会社と癒着している軍幹部らからの脅しを受けた主人公は、家族に危害が及ぶのを怖れて告発を諦めかけますが、父にはそんな風に育てていないと諭され、妻にはそんな夫は尊敬できないと背中を押されます。

さあ、主人公の告発は、主人公と家族は、どうなっていくのか…!

というお話です。

主人公夫妻や友人の医師の演技も良いように思いましたし、主人公のお父さんがものすごくいいお父さんで、映画としても佳作なのではないかと思いました。

この映画自体は劇映画ですが、直視するのが辛いほどやせ衰えた赤ん坊は、実際にパキスタンで撮影されたものです。

問題の会社は、私たちにも馴染みのある食品会社です。映画のはじめの方で一回だけ実名で Nestle と出てきます。

この映画は、制作されたあとも、いくつかの映画祭では上映されるものの、なかなか劇場公開されなかったとか。

日本が初めて劇場公開した国なのだそうです。そして、日本には、同社の粉ミルクは参入していないのだそう。

この会社に関して検索してみると、すでに70年代に、この映画のような事態が途上国で生じていたことからボイコット運動があったことが出てきます。

そして、欧州向けの乳児向け食品には砂糖無添加と謳っているのに、途上国向けには大量の砂糖が入っているという報道が見つかります。ごく最近のことです。

日本においても、ヒ素ミルク事件や水俣病や薬害エイズなど、企業や自治体や国がもっと早く原因を明らかにし、責任を認めていれば救えた命がたくさんあった例がいくつもあります。まったく他人事に思えませんでした。

それにしても、よくこんな映画をつくったなあ、やはりこの監督はすごいと再確認しました。


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