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富戸漁港の定置網漁 ~150年続く、伝統的な漁法を学ぶ~

今回の視察では、コミュニティメンバー4名とともに、下田海中水族館の体験活動として、子供たちも一緒に乗船し、大変にぎやかな視察となりました。
出航から約5分程度で、定置網のある漁場に到着。ここで私たちが乗船する船は、箱網の末端で待機し、もう1隻が、箱網の入り口あたりから網を手繰り寄せて近づいてきます。

船が近づいてくるにつれ、徐々に姿を現し始める魚たち。特に、薄暗い海の中で、青白く輝くスルメイカの群れはとても幻想的でした。


その他にもこの日は、カスザメ、サカタザメ、マツカサウオ、ブリ、ヒラソウダ、スルメイカ、ハダカイワシ、イトヒキアジ、イシガキフグ、タチウオ、イシダイ、イシガキダイ、ウスバハギ、カワハギ、カゴカキダイ、マトウダイ、アカヤガラなど、目視できるだけでも17種類の魚が網に入りました。手繰り寄せられた網の中で、水しぶきをあげながら徐々に姿を現す多種多様な魚たちを前に、大人も子供も大興奮な視察となりました。

環境と共存する富戸漁港の定置網の仕組み

定置網漁は、日本の漁業文化の中でも、数百年受け継がれてきた伝統的な漁法の一つ。その起源は江戸以前にさかのぼります。今回見学に行った、富戸の定置網漁も150年以上の歴史を誇っています。


(画像出展:農林水産省 漁業種類イラスト集 をもとに作成 )

定置網漁の大きな特徴は、決まった場所に仕掛けた網に入った魚を獲るという点で、「待ちの漁法」と呼ばれます。群れを追いかけて漁獲する漁法と違い、網を揚げるまでどんな魚が獲れるかわからず、その海の環境や日々の気象条件に大いに左右されます。

定置網漁では、「垣網」と呼ばれる仕切りに沿って泳いできた魚が、まず「運動場」と呼ばれる網に入ります。この広いスペースを回遊している間に、多くはまた網の外へと出ていくのですが、一部の魚は次の網、次の網へと進んでいきます。最終的に、箱網と呼ばれる最後の網に迷い込んだ魚が漁獲されるという仕組みです
魚の通り道に網を張り、回遊する魚群を網に誘い込むため、図のような独特な網を利用します。網の中には、大きな魚から小さな魚まで多様な魚種が回遊しており、一種の魚礁のような役割も果たしています。
富戸漁港では、150年以上もの間定置網漁を営み、次のような独自の工夫を行ってきました。


1.網目の大きさを調整し、稚魚を逃がす

富戸漁港の定置網では、網目の大きさを調節し、なるべく稚魚をとらない工夫をしています。最初に魚が迷い込む「運動場」の網目は、手のひらよりも遥かに大きく、小さな魚は容易に逃げられる大きさでした。これによって、まだ成長途中の小さい魚を獲り過ぎず、資源を未来につなげる漁業が実現できています。

2.魚群探知機で魚の量をモニタリングし効率のよい漁業を

富戸の定置網漁では、網の中に魚群探知機を設置することで、漁獲量を事前に把握し、必要な氷などの資材の量を正しく調整しています。 これにより、魚の品質を維持するために必要な分だけ資材を積み、無駄を省くことができます。

また、魚群探知機は、TAC(Total Allowable Catch:漁獲可能量)によって漁獲量が厳重に管理されているマグロの群れが入ってしまった場合の調節にも役立っています。マグロの群れが網の中に入った場合、成魚か未成魚か判断し、静岡県の漁獲枠と照らし合わせながら、水揚げするか放流するかを決定します。


3.地形を生かした漁業

富戸の定置網は、城ケ崎の急深な地形の特徴を活かし陸からわずか800mのところに網を設置しています。沖合に流れる黒潮の影響で、年間150種類以上もの魚種に恵まれている、豊かな漁場です。出港から数分で漁場に着くので、船の燃料が少なくて済む点も利点となっています。

4、地域の雇用を創出

「資源管理」としてのサステナビリティとは視点が異なりますが、富戸漁港の定置網漁は、経営の面でもサステナビリティを実現しています。

2021年に株式会社化した富戸の定置網漁業は、ニーズの高いタイミングでの出荷や、地元の高級志向スーパーへの直接出荷により、魚価を向上させ、漁業者の収入安定にも力をいれています。

基本的に早朝の数時間で漁を終え、その後は網のメンテナンスを行い、午前中には仕事を終えます。働きやすい環境の整備によって、近年は若手漁師の就職も増え、大学を卒業し、未経験ながら新卒入社する若者もいます。


THE BLUE CAMPの際にインタビューさせていただいた、2023年入社の梶原さん。

「多種多様な魚種が獲れるので、魚の旬をリアルに感じられるのが面白いです」

一定の魚種を狙う漁業と違い、年間150種類以上もの魚が獲れる定置網漁。網を揚げるまで、どんな魚が入っているかわからないというスリルに、長年定置網漁を続けている日吉さん自身も、少年のようなわくわく感を日々感じているといいます。


未来のためにできること 日吉さんの思い

「僕だって漁業者ですからね、本当は、獲れるだけ獲りたいですよ。でも、このままの漁業を続ければ、僕たちの世代はまだしも、次の世代、次の次の世代が美味しい魚を食べられなくなってしまう」

資源は無限ではない。だからこそ、今、守らなければならない。日吉さんの言葉からは、日本の水産資源への危機感と誇りをひしひしと感じました。

そんな日吉さんは水産政策審議会特別委員としても、資源管理と向き合い、2025年4月からはじまる、ブリへのTAC導入にも尽力されています。

日本各地で営まれる、多様な漁業の持続可能性について、改めて考える機会となりました。
日吉さん、ありがとうございました。


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