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僕のお気に入り家族経営ワイナリーのドメーヌ・デ・サンゼ

シノンワインを洞窟内で楽しめる、夏の観光スポットに最適なカーブ・モンプレジールを出発した時刻は15時30分を回ったところ。

ここから次に目指す場所は、ヴァル・ド・ロワールはアンジュ・ソミュール地区に該当するソミュール・シャンピニー。ロワール地方のワイン生産地域を表す地図上では、シノンからちょうど左隣に位置するワインの生産地域でソミュールの街の中心地から非常に近いワイン産地でもある。

正確には8つの自治体(Chacé, Dampierre-sur-Loire, Montsoreau, Parnay, Saint-Cyr-en-Bourg, Saumur, Souzay-Champigny, Turquant, Varrains)から生産されるぶどうを使用したものだけが、ソミュール・シャンピニーを名乗る。

僕らはシノンの街の中心地からほど近いカーブ・モンプレジールを後にして、車で30分ほどの距離に位置する自治体、ヴァランを目指す。

ソミュール・シャンピニーのワインは、シノン同様、白ワインはシュナン・ブラン、赤ワインはカベルネ・フランのブドウ品種の使用が認められている。

ちなみに僕ら家族は一昨年の夏もヴァランへは、隣の街に位置するソミュールの街を起点に訪問済み。もちろん当時も僕の目的は、ソミュール・シャンピニーのワインで一線を画す造り手のドメーヌの場所を確認したり、周辺の畑の雰囲気を知るために町を散策。

一昨年の夏に訪れた際の畑の様子の写真

また新しい造り手との出会いを求めて試飲・販売を受け付けているドメーヌに直接、訪問の依頼をしたりすることをメインに訪れていた。

ソミュール・シャンピニーといったら、日本ではマイナーなワイン産地かもしれないが、クロ・ルジャールやドメーヌ・デ・ロッシュ・ヌーブ、ドメーヌ・アントワンヌ・サンゼに、今注目を浴びているドメーヌ・デ・クロジエ等がドメーヌを構えている小さなワイン産地。

これらの造り手が生み出すワインたちは、この地域一帯で造られるシュナン・ブランやカベルネ・フランのイメージを覆す味わいで、単純にわかりやすく説明をするのであれば、高級レストランで必ずといてよいほどワインリストにオンリストされるようなワインたち。

複雑で長期熟成にも耐えられる彼らのワインは、フランスのみならず海外でも人気。特にクロ・ルジャールのワインは2015年以降価格も異常なまでに跳ね上がり、ネット販売やパリにでもいかない限り、入手困難なワインの一つになったと思う。

そんな小さな町の周辺に多くの魅力あふれる生産者の多いソミュール・シャンピニーの生産地の自治体、ヴァランの中心地に到着したのは16時頃。

早速僕らが目指した場所は、クロ・ルジャール。

もちろん外から眺めるだけだが、この旅に同行している食道楽なS氏に今回のフランス滞在以前から、散々ソミュール・シャンピニーにおけるワインの魅力を含めて、クロ・ルジャールの話をしていたということもあり、せっかくなので建物の外観だけでも見ることのした。

ちなみにクロ・ルジャールは、2015年以降ボルドーの格付けシャトー、シャトー・モンローズの所有者に売却されており、田舎の小さなコミューンの中で異様な魅力を放つ建物は、メドックのシャトーさながら存在感。

年明けの寒い時期は、前回訪問した夏のヴァカンスシーズンとは異なり、町を車で走っていても大通りに出ない限り、ひっそりとした雰囲気なのは日没も迫っていた時刻もあるだろ。

時間の都合を合わせて訪問先にあらかじめアポを取っていたわけでもなく、町の雰囲気や有名ドメーヌの場所をS氏に説明しながらヴァランの町周辺を車で散策。

1月3日と年明けすぐの週末金曜日なので、今日中にどこか訪れることができなければ、1月5日・日曜日までの間、ワイナリーの訪問はこの時点で終了になる。

ということで、僕はダメ元で前回もアポ無し訪問でひっそりとファンになったドメーヌを目指し、車をヴァランの町の中心地から車を北へと走らせた。

目的地に到着し、車をドメーヌの敷地内に駐車させた段階で、前回試飲させていただいたテイスティングルームはしっかり閉ざされている。それでも半ばあきらめて足を敷地の奥に足を運び事務所を覗くと、中から僕らの到着に気付いたマダムが外に出てきてくれた。

マダムは少し閉ざしたような表情で「何かご要望ですか?」と僕に質問してくる。

それもそうだろう。オフシーズンの週末の金曜日、仕事をそろそろ切り上げようとしている時間帯に、何者かもわからない東洋人が来たら誰だってそんな表情をするだろう。

そんなマダムの表情を感じ取らずとも、ドメーヌの敷地内に入った段階から僕はちょっぴり申し訳ない気持ちだった。

だからというわけではないが、僕は少し申し訳無さそうな声のトーンでマダムに挨拶を交わした後、突然の訪問を謝り、

「実は昨年もここを訪れて、こちらのドメーヌのファンになった者です。購入だけでもできたら嬉しいのですが・・・」

するとマダムは、

「あら、それなら試飲していきますか?」っと明るい表情で答えてくれた。

僕は車で待機していたS氏を呼び寄せ、マダムの後に続きテイスティングルームに案内してもらった。

さて、このドメーヌの名前はドメーヌ・デ・サンゼ(Domine des Sanzay)。家族経営の5世代にわたる長い歴史を持つドメーヌ。

ブドウ畑は、ドメーヌの所在地のあるヴァランを中心にいくつかのコミューンにまたがり合計で 28 ヘクタールあるとのこと。

テイスティングルームは田舎の家のサロンを思わせるようなシンプルな装飾に、5世代にわたる家族の写真が壁に飾られている。

マダムは現在試飲できるドメーヌのラインナップを僕らに見せてくれ、僕は以前の訪問で試飲できなかったキュベ・レ・ポワイユーから試飲の希望を伝えた。

とっても気に入ったキュベ・レ・ポワイユー

キュベ・レ・ポワイユーは、テロワールが特徴的な個性を持ったワイン。
熟したブドウから色合いは深い赤色をしており、砂糖で少し煮詰めてチェリーの美しい香りやマッシュルームの心地よい印象。

溶けたタンニンと伸びのある酸味を備えバランスが取れているのが特徴。

ブラインドだったらブルゴーニュはコート・シャロネーズのピノ・ノワールと勘違いしてしまいそうなくらい、ピュアで清潔感に溢れている。

2本目に試飲させていただいたのは、ヴィエイユ ヴィーニュのワイン。粘土石灰岩の土壌で樹齢50年以上のブドウの区画から醸造されたヴィンテージ。

深いガーネット色に、非常に熟した黒い果実の香りやバニラとスパイシー差も兼ね備えている。口当たりがしっかりしていて温かいみのあるワイン。

3本目はキュベ・ボールガール。多分このドメーヌのトップキュベに当たるもので、年間生産本数は1600本とのこと。

まだまだ若く、本領発揮までには後5年は待ちたい。

鮮やかなガーネット色のワインで、バラやラズベリーの香りからカカオやコーヒー豆の印象も。フルーティさとスパイシーさのバランスよく組み立てられている。

非常にエレガントなタンニンに素晴らしいフィネスを備えたワイン。

口に含むとフルボディで丸みもありがまだまだ若く、今後5年〜10年単位で熟成させて味わってみたいと思わせる。

マダムは当主の奥様で、個性的なワインのラベルは息子さんがデザインしていると教えていただいた。

ちなみに試飲中、僕があまりに1本目にテイスティングしたキュベ・レ・ポワイユーの味わいに感動し、ちょっぴり感情的にワインの感想を話し始めたら、ドメーヌの地下にあるカーブも案内していただき見学することもできた。

時間を割いて丁寧に説明していただけた。

また試飲中は、昨年も訪問させていただいたことや、同行しているS氏が日本からフランスに到着した日に、今回試飲した以外の無印のヴィンテージをすでに一緒に自宅で味わってから本日ドメーヌに訪れたことなど、突然の訪問の言い訳に近い理由として、マダムに話した。

するとマダムは、

「あーそれじゃ、うちのドメーヌのワインをインスタグラムのストーリーに時々載せてくれているのはあなたねー。先週も載せてくれてたわよね!」っと笑顔で応えてくれた。

コンクリートタンクで熟成させているのはキュベ・レ・ポワイユー。
土壌本来の魅力とブドウ本来の香りや柔らかい口当たりを目指す仕上がりにするために、使用しているとのこと。

試飲後は、1本目に試飲させていただいたキュベ・レ・ポワイユーを2本。ヴィエイユ・ド・ヴィーニュとキュベ・ボールガールをそれぞれ1本ずつ購入させていただいた。

最後にマダムにお別れの挨拶に加えて、突然の訪問を快く受け入れていただいたことに感謝の言葉を伝え、来年以降再び訪問する意思を伝えた後にドメーヌを後にした。

時刻は日没近い17時30分。僕らはソミュールの街の中心地を車で駆け抜け、宿泊地のあるアンジェの街を目指した。

Chef Ichi

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chef ichi
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