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モン・サン・ミッシェルへの道のりとその圧倒的な存在感
2025年1月4日。
アンジェで日本人女性がオーナーを務めるブーランジェリー「コルネイユ」にて購入したヴィエノワズリーで朝食を満喫した後、滞在先のアパートメントホテルを出発できたのは、出発予定時刻の朝8時を少し回ったとこと。
それでも美味しい朝食のお陰で、お腹も気分も満したので、焦ることなく安全運転でモン・サン・ミッシェルを目指すことができた。
アンジェを出発し、モン・サン・ミッシェルを目指して車を走らせた。道中は食道楽のS氏の食にまつわる話題で盛り上がり、次に訪れるべき美食の街や、これまでのフランス滞在での印象的な食事について語り合った。
会話が自然と弾む雰囲気は朝の眠気も気にならず心地よい。
特にS氏とは、今回の旅で食べたものや出会ったワインの数々について話し込んだり、日本との旅の違いなどを語り合った。
妻は今朝訪問したブーランジュリーの話を引き続きしながら、「こういう旅先での朝ごはんって、特別感があっていいよね」と後部座席で定期的に繰り返している。
高速道路を走るうちに、景色が少しずつ変わっていく。アンジェを抜け、田園風景が広がると、車窓から見えるのは、冬枯れした木々と広がる畑。時折、小さな村の教会の尖塔が遠くに見えた。
息子は後部座席で、「ねえ、モン・サン・ミッシェルって、海の上にあるの?」と興味津々な様子。それに対して隣に座る妻が「干潮と満潮で景色が変わるから、今日がどんな風になっているか楽しみだね」と答えていた。
車窓から広がる景色は、やがて広大な湿地帯へと移り変わっていく。
そして、モン・サン・ミッシェルの姿が遠くに現れた瞬間、S氏が小さく息を呑んだ。
「すごい…写真で見るよりもずっと壮大だな」と、しみじみとした声で呟く。
その言葉に、僕も改めてモン・サン・ミッシェルの存在感に圧倒される。まるで海の上に浮かぶ要塞のようにそびえ立つその姿は、どこか幻想的で、まるで時間が止まったかのような錯覚すら覚える。
駐車場に車を停めた後、僕たちは徒歩でモン・サン・ミッシェルへ向かうことにした。遠くから眺めるその姿も素晴らしいが、徐々に近づきながらその巨大な建造物の細部が見えてくる感覚は、歩くからこそ味わえる醍醐味だ。
4歳児の息子も、寒さをものともせず、楽しそうに自分の足で歩き続ける。その小さな背中を見ながら、「もしかしたら途中で抱っこをせがむかもしれないな」と覚悟していたが、そんな心配は杞憂に終わった。彼は途中で休憩を挟みながらも、自力で修道院までの道を歩ききった。
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修道院内の見学と歴史の重み
修道院の入り口でチケットを購入し見学を開始。妻が日本語翻訳付きのタブレットを借りてくれたので、彼女が修道院の解説をタブレットを操作しながら読み上げてくれるが、僕は途中から景色に夢中になり、正直なところほとんど内容が頭に入っていない。
ただ、石造りの廊下や礼拝堂の荘厳な雰囲気、窓から見える海の景色には心を奪われた。
S氏も熱心に見学し、「ここで修道士たちはどんな生活を送っていたんだろうな…」と興味深そうに呟く。
その言葉に、僕も想像を巡らせる。中世の時代、この場所で祈りと沈黙の生活を送っていた人々の姿を思い浮かべると、現代とはかけ離れた厳格な日々があったことを実感する。
レストランでのガレット事件
見学を終えた後、僕たちは島内のレストランに入り、名物のガレットを注文した。寒さの中を歩き回った後の食事ということもあり、温かいそば粉のガレットとシードルの組み合わせは最高だった。息子も一緒に楽しみながら、和やかな雰囲気の中で食事が進んでいく…はずだったのだが、ここで問題が発生。
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妻が注文したガレットだけが、いくら待っても運ばれてこない。
最初は「フランスのレストランあるあるだな」と冗談を言いながら待っていたが、時間が経つにつれ、妻の表情が徐々に曇っていく。
僕と息子、そしてS氏も先に食べ終えてしまい、僕らは妻に気遣いながら「まあまあ、気長に待とう」と声をかけるものの、彼女の表情からは、次第に笑顔が消えていくのが感じられた。
「もういいや。ガレットなしで帰ろうかな…」とふてくされる妻に、「いやいや、せっかくだから最後まで待とうよ」となだめる僕。
結局、僕たちは食後のコーヒーを飲みながらさらに待ち続けたが、肝心のガレットは最後まで姿を見せず、店員に確認したところ「注文が通っていなかった」とのことだった。
レストランを出て妻をなだめつつ、僕たちはレストランを後。
帰りは雨が降り出したことに加えて、寒さを煽るように冷たい風が更に強さを増したため、シャトルバスで駐車場へ戻ることに。道中、「次はちゃんとした店でガレットを食べるぞ」と決意を新たにする妻の姿に、僕とS氏は思わず笑ってしまった。
こうして、僕たちのモン・サン・ミッシェル訪問は、感動と笑いの入り混じったものとなった。特に、息子が自力で島内入口から修道院までの往復を歩ききったことは、親として本当に誇らしく思う。
旅の終わりに、駐車場でS氏が「次はどこに行く?」と楽しそうに話しているのを聞きながら、「また美味しい食事と素晴らしい景色を求めて旅をしよう」と、心の中で決意を新たにしたのだった。
Chef Ichi
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