CHEESE STANDが、さとなおさんのファンベース診断を受けてみた
突然ですが「ファンベース」という言葉をみなさんご存じですか?
ファンベースとは「ファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売り上げや事業価値を高める」考え方で、コミュニケーション・ディレクターで「さとなお」さんの愛称でも知られる、佐藤尚之さんが提唱されたものです。この「ファンベース」の概念を正しく誠実に広めていこうと、さとなおさんも中心になって2019年に設立されたのが「株式会社ファンベースカンパニー」です。
CHEESE STANDは以前からこのファンベースの考え方に共感し、noteもたびたび紹介していたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。そのファンベースカンパニーさんが企業やブランドがもつファン度の解析を目的に2020年9月にリリースされた、「ファンベース診断 v.1.0」をさっそく受診させてもらいました。
今回は、その診断結果をもとに、さとなおさんと、ファンベースカンパニーのCEO・津田匡保さん、CHEESE STAND代表の藤川真至ともに「これからのCHEESE STAND」についてオンラインディスカッションをした様子をお届けします。
マニアックなチーズだからこそファンベースが効く
――「ファンベース診断 v.1.0」を受けてみてはどうですか? というお話をファンベースカンパニーの方から藤川にされたということですが、ファンベース診断によってどんなことが見えてくると思われましたか?
津田さん(以下、津田) CHEESE STANDが創業されてから、いろいろなことをされてきていらっしゃいますよね。去年頃から藤川さんと何度かお話をしていくなかで、たとえば去年もクラウドファンディングをされたり、新しい活動をされてもいます。
現状、さまざまなお客様と繋がりいろいろな接点があるCHEESE STANDには、どんなところにどのようなファンの方がいるのかというのを可視化した方がいいんじゃないかなと感じたんです。
藤川さんご自身でも、CHEESE STANDのコアなファンの方と新しい商品開発をしていきたいという話をされていたので、そういう人がちゃんと見つかる方法としてファン診断をしてみてはどうですか、というお話をしたのが始まりです。
――CHEESE STANDをファンベースの会社にしていきたいという藤川の考えをご存じだったということですね。
津田 そうですね。僕もCHEESE STANDのファンのひとりです(笑)。元々は、さとなおがCHEESE STANDの大ファンで、私はさとなおから推奨を受けてファンになったんです。ですから、さとなおとファンベースカンパニーを立ち上げるまでCHEESE STANDのことはほとんど知らなかったんです。
藤川さんのお話を聞いたり、CHEESE STANDのことを調べたりしていくうちに、私自身がファンへの階段を上がっていく実感があったんですね。そして、私がまわりにCHEESE STANDを推奨している。まさにファンベースの広がりそのものです。
――藤川さんはなぜファンベース診断を受けようと思ったんですか?
藤川真至(以下、藤川) これまで、さとなおさんの著書を読む中で、CHEESE STANDを支えてくださっているファンの方々のことをもっと知っておきたいと思ったからです。
イベントをやりたいと思ったときに、コアなファンの方に企画段階から入ってもらって、一緒に作っていたけたらと常々思っているんです。それなら「コアなファンって、どんな方々たちなのだろう?」ということを考えて、そういった方を見えるようにしたいということを思ったんです。
――さとなおさんは、CHEESE STANDとファンベースの相性についてどう思われますか?
佐藤尚之さん(以下、さとなお) 藤川くん自身が、渋谷でチーズを作る、東京でチーズを作るというトライをしてきたわけですよね。逆にいうと、日本ではまだまだトライの状況で。つまりチーズがそれほど普及していないということでもあると思うんです。
もちろん、ここ10年くらいでナチュラルチーズが家庭で食べられるようになったり、普段の生活に取り入れられるようになってきているとは思います。ですが、たとえばワインとかと比べると、僕はまだまだだと思っている。
藤川くんが9年近くかけてやってきた「街に出来たてのチーズを」というコンセプトで作っているモッツァレラだったりブッラータにしても、浸透してきているとはいえ、まだまだなところがありますよね。
藤川 まだまだ、本当にその通りなんです。
さとなお CHEESE STANDのファンベースは、たとえばレストランのファンベースとはまた違うと思うんですね。チーズを普及するという藤川くんの姿勢が新しいファンに繋がっていくことは、チーズというまだまだ知られていない食品にとっては、すごく大事なことだと僕は思うんです。
実は妻がチーズプロフェッショナル協会の理事をやっているんですね。だから、CHEESE STANDは妻から教えてもらったんです。
ナチュラルチーズをフェルミエといったチーズ専門店で買うようになってきたのは、ここ10年ぐらいのことだったり。妻の活動を横でずっと見ていると、これまでチーズがどれだけ苦戦してきたかということはよくわかっているつもりです。だから、藤川くんが奮闘して、渋谷でCHEESE STANDの旗を掲げてここまでたきのは、きっと孤独な戦いだったんじゃないかなと思うんです。
日本人にとってチーズは、まだマニアックな商品です。チーズを食卓に届けることは、だいぶ浸透したとはいえ、まだまだだと思うんですよ。
そしてマニアックな商品って「これすっごい好きなんですよね」という人の声じゃないと、なかなか一歩が出ない場合が多いと思うんです。人が試してみようと思うには、情熱的な後押しが必要になる。
そういったものにこそ、ファンベースは効くと思っています。
これからの時代に大切になる「未来価値」
――CHEESE STANDのファンベース診断の結果からどんなことが言えるのでしょうか。
津田 ファンベース診断は、企業やブランドにつながっている顧客にアンケートに回答いただくことがベースとなっています。ファンベース診断の中の重要指標の一つである「機能価値」と「情緒価値」、「未来価値」について説明しますね。
「機能価値」と「情緒価値」、「未来価値」とは、ファンにとって必要な3つの価値です。
機能価値▶品質、価格、利用など
特徴→生活者に見えやすいが、他社に追いつかれる、マネされることも
情緒価値▶共感、愛着、信頼、熱狂、無二、応援など
特徴→生活者に見えづらいが、他社にはコピーできない
未来価値▶希望、変革、貢献など
特徴→企業やブランドを通して見える社会や未来に対しての明るいイメージ。未来に向けてさらに強い共感を生む
さとなおと、私の共著である『ファンベースなひとたち』(日経BP刊、2020年)でもこの3つのの価値について紹介しています。
たとえば、ある宅配ピザが最初につくり出した機能価値は「30分でピザがお家に届く」というものでした。しかしそれは、アッという間に他社が同様のサービスを始めてしまい、陳腐化してしまいました。つまり、機能価値だけでは、優位性を保ち続けることはできないわけですね。
そこで大事になるのが、情緒価値です。
「このブランドが好き!」という共感や愛着、信頼といったものが機能価値に加わると、ファンの支持はより強固になっていきます。情緒価値を高めるためには、ファンの方の言葉を傾聴したり、さらにファンが喜ぶようなサービスを行ったり、ファンの方との接点を増やすことや、製造の細部のこだわりなどを丁寧に紹介していくことで強まっていくと思います。
「機能価値+情緒価値」があってファンの支持が積み重なっていくわけですが、さらにここにプラスしたいのが「未来価値」です。
さとなお この未来価値は、これからとても大切な時代になると考えているもの。なぜなら「未来を変えてくれる、私たちの希望になる」そんな会社を私たちは、今求めていると思うからです。
機能価値は、生活者に見えやすい反面、情緒価値と未来価値は見えづらく伝わりづらいので、価値を高めることが難しいところではあるのですが、これから本当に大事になってきます。
藤川 僕たちの診断結果を見てみると、「機能価値」は高い評価をいただいているのですが、「情緒価値」と「未来価値」はまだ低いということなのでしょうか?
津田 そうでもないんですよ。
このポイントは偏差値みたいなものです。情緒価値ではライトファンが6.4ポイントでファンが7.9ポイントですが、そもそも7.9ポイントってめちゃくちゃ高いんですよ。(平均が5.5なので)これはどういうことかというと、きちんとファンが感じている価値が伝わればライトファンを7.9まであげていけるということ。
未来価値を見ても、コアファンのところで8.1ポイントもあります。これは非常に高いスコアなんです。ということは、伝わる人にはめちゃくちゃ伝わっている。ちゃんと価値を伝えることができれば、全体のファン度を底上げできるということでもあります。
ファンベースは「改善ではなく、イイトコロをのばしていく」というのが基本的な考え方です。きちんと伝わる人には伝わっていることは確認できたので、まだそれほど伝わっていない人に価値を丁寧に伝えていきましょうという方針が見えてきたということです。
もともと藤川さんが考えていた全体の分布や傾向を見るという目的においては、ある程度可視化することができたのではないでしょうか。
さとなお CHEESE STANDのファンの方が感じていることは、藤川くんが作りあげたCHEESE STANDの世界観や、「渋谷発のチーズ」を作っていく、世に広めていくということにワクワクしているし、どんどん新しいことを切り拓いているところに価値を感じているファンの方が多いということですよね。
――具体的には、今後どんなことをしていけばいいのでしょうか?
津田 コアファンの方に傾聴することだと思います。つまり、コアファンの方がどういうところに価値を感じているか、いわゆるファンのツボを探っていくんですね。その「ファンのツボに」あった施策をやっていくことで全体のファン度が上っていく。
CHEESE STANDのコアファンの方々と繋がって、傾聴したり何かプロジェクトをやっていったりするなかでも、これからやっていくべき施策が見えてくると思います。
「渋谷=チーズ」を実現するためにできること
藤川 「未来価値」かぁ。もっと自分自身の想いやビジョンのようなものを伝えていかないといけないというわけですよね。。
さとなお CHEESE STANDは情緒価値が全体的に高い。それはすごくいいと思うんです。だけど、僕から見ても藤川くんがやろうとしていること、未来価値が伝わってこないというのは、正直ありますよ。
実際、日本で初めて国産のブッラータを東京で販売したという機能価値は高いけど、他社がそれに追いついてきている。変わり種のブッラータや安価で手に入れられる海外産のブッラータも出てきているわけです。
おいしいチーズ屋さんではあるんですけど、CHEESE STANDはそれだけではないと僕は思っているし理解しているので、未来価値がもうちょっと前に出てくる、それは藤川くんのキャラクターが、もうすこしやんちゃに出てきたほうがいいと思うなぁ。
東京発のチーズを作り上げようとしている情熱と、一番早くやろうとした冒険をもっと応援したい気持ちとか、藤川くんがパイオニアとして壁を突き破っていく姿を僕はもっと見たい。
「藤川という人間が、次に目指しているものは何か」というものをもっとさらけ出して、未来価値を上げていった方がCHEESE STANDっぽいなと僕は思っています。
――未来価値が高い企業は、たとえばどういうところがありますか?
津田 未来価値が高い企業の傾向は、経営者や創業者の理念がどんどん前に出ているような、熱くファンの方に対して語っているようなところですね。
たとえば『ファンベースなひとたち』にも出ているイケウチオーガニックさんとかは企業指針がすごく分かりやすく、ファンにも伝わっていますね。
イケウチオーガニックさんは、「2073年(創業120周年)までに食べられるタオルを作る」という指針を掲げているように、未来に向けて仕事をされています。推奨する側も「2073年までに食べられるタオルを作ろうとしている会社なんだよ」と周りに伝えやすい。そういった未来価値みたいなものからブランドを知っていくので、ファンになっていく可能性も高くなるわけです。
CHEESE STANDのチーズはすごくおいしいし、たくさんのファンに愛されています。ただ、周りの人に伝えるときに「渋谷においしいチーズ屋さんがあるよ」という機能価値メインでしかまだ伝えられていないように思うんですね。
さとなお 藤川くんの思いをまとめたCHEESE STANDのコピーがあるといいですよね。ファンが一言で伝えられるものをひとつ定めて、そこを中心にしばらくやってみてもいいかと思いますね。
藤川くんとしては、どういう未来を考えているの?
藤川 「渋谷=チーズ」にしたいというのはずっと思っていることで、たとえば渋谷や代々木で、チーズのフェスをやりたいと目指しています。そういうことを続けていくことで、「桃鉄」(ゲームソフト「桃太郎電鉄」)の渋谷駅のまわりにチーズが描かれるようになったらいいな、というのはあります。
ただ、そういうことを言葉にはしていないですし、現在会社の理念として「チーズの新しい価値を作る」ということを掲げているのですが、今お話を聞いていて、まだまだぼやっとしているなあと感じたので、もっと突き詰めていきたいですね。
さとなお 桃鉄か! それはおもしろいよね。渋谷をチーズのメッカにするということだよね。「しぶや(428)」だから428種類のチーズを作るとかね(笑)。そういうことでもいいよね。
津田 地域に根差した未来価値というのは分かりやすいし伝わりやすいですよね。
今回見えてきたファンのみなさんと一緒に、CHEESE STANDの未来を一緒に語りましょうという場を設けてもいいかもしれませんね。今日のオンライン会議もファンと語り合う場だったと思うんですよね、私もさとなおもいちファンとしてCHEESE STANDの未来を考えて、今後やってほしいことをぶつけたわけなので。
そうするとファンに未来に対する期待とか、求めているものがだんだんと見えてくると思います。
藤川 そうですね。さっそくファンミーティングを企画して、コアなファンの方々の声を聞いてみたいと思います。さとなおさん、津田さん、本日はお忙しい中ありがとうございました!
文・構成=江六前一郎
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