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コロナ禍で支えてもらえることの心強さを実感した|C.S. STORY 2020-21

CHEESE STAND STORY」は、2022年のCHEESE STAND創業10周年に向け代表の藤川真至が、創業から1年ずつを振り返っていく連載企画です。第9回は、2020年6月から21年6月までの創業9年目について。

2020年は、誰もが経験したことのない感染症の世界的流行で、未来が見えない不安が世界を覆っていました。CHEESE STANDとしては、かなり早い段階から動けていたと思います。

詳しくは、最初の緊急事態宣言下で書いた僕のnoteに書かれているのですが、今振り返って読んでみても、この時の考えたことは、基本的な行動の指標として変っていないので、もう少しお話させていただこうと思います。

スピード感をもって発売できるものに
絞って新商品開発

新商品の投下は、売上を上げるためです。新商品は「さけるモッツァレラ〈KURATA PEPPER味〉」と、カフェで4種のチーズを盛り合わせてプレートで出していた中のアイテム「カチョッタ」を新しく発売しました。

さけるモッツァレラ〈KURATA PEPPER味〉
カチョッタ

さけるモッツァレラ〈KURATA PEPPER味〉」は、アイディア自体は前からありましたし、商品を作ることはできると考えていたのですが、すでにコンビニなどで安価な価格が定着しているなかで、CHEESE STANDが作って売れるかどうかというのを考えて、実現せずにいました。

しかし、コロナ禍で内食需要の拡大していくことが予測できたなかで、今ある技術ですぐにできる商品はこれだと直感し、それならKURATA PEPPERさんのカンボジアのコショウをしようと、すぐに決めて商品化に乗り出し、試行錯誤しながら作り上げました。

さけるモッツァレラ〈KURATA PEPPER味〉」は、CHEESE STANDとしてECを強化したかった会社の方向性にもピッタリあったもので、久しぶりのヒット商品でもありました。

カチョッタは、モッツァレラを作る工程でできるカードと呼ばれるチーズのもとを型入れし、3週間ほど乾燥熟成させて作ったもの。ピンクペッパーとブラックペッパー、フェンネルといったスパイスを加えたもので、そのまま食べたり、サラダやお肉、お魚に削ってかけてもおいしい商品です。

「いずれ」と思っていた定期便を
前倒しして展開することに

自宅待機、外出自粛という生活のスタイルが変っていくなかで、買い物も通販で済ますという人が多くなりました。CHEESE STAND に来ていただいたり、卸先の店舗にお出かけしていただかなくとも、定期的に商品が届く定期便の商品を作りました。

発売当時は、朝フレッシュセットと6種セットだけでしたが、好評なこともあって現在は4種類の定期便をご用意しています。

さらに2021年2月からは、チーズの定期便だけでなく、チーズを使った野菜の料理のレシピと食材、それにあわせたワインを月に1度お届けする「EVERYMONTH 届く VEGETABLEとWINEのSET」も発売しました。

ワインのセレクトは、元「TIRPSE」のオーナーソムリエで、現在は虎ノ門ヒルズの人気とんかつ店「つかんと」をオープンさせ人気店に仕立てた大橋直誉さん。大橋さんには、ナチュラルワイン(自然派ワイン)を1本セレクトしてもらいました。

大橋直誉さん

これに合わせる料理のレシピは、大橋さんが香港で復活させた「TIRPSE」でシェフパティシエを務める堀内凛さんが担当。野菜や果物を準備してくれたのは、東京・中目黒で農園直送にこだわった野菜の量り売りを展開している食のジェネラルストア「HACARI」さんでした。

堀内凛さん

現在は販売を終了していますが、コロナ禍がきっかけとなり、新しい商品開発ができたのはよかったと思っています。また、定期便自体も、コロナがなければ「商品数が少ないから」という理由で、サービスを開始するのは、もっと先だったのではないかと思います。コロナによって事業の展開が早まったということは、十分いえると僕は思っています。

心を奮い立たせる事ができた
クラウドファンディング

最初の緊急事態宣言中だった5月1日に、コミュニケーション・ディレクターのさとなお(佐藤尚之)さんが、CHEESE STANDのファンとしてクラウドファンディングを立ち上げてくださいました。

2日間で目標金額の100万円を上回り、最終的には298人の方からご支援をいただき、210万2700円の支援金をいただきました。本当にありがとうございました。

実は、自分自身がクラウドファンディングの支援される側に回るのは初めてでした。お金をもらうということは信頼を交換することとも言えます。自分やブランドの信頼をお金と交換することは怖くもあり、覚悟が必要でした。また、今回のタイプのクラウドファンディングを行うということは、現状の自分たちの売上の弱さを丸裸にして曝け出さなければいけません。

それでも、やれることをやろうという精神で、SNS、友人、大学時代の部活のメーリングリスト、同郷のSNSのグループでもお願いしました。結果、こんなにも多くの方に支えられているのだ、支えてもらえることは心強いことだ、と毎日感謝することができました。

また、クラウドファンディングでも応援してくださった方お一人お一人に、毎朝メールする時間はとても幸せな気持ちとなりました。心を奮い立たせる事ができました。

コロナ禍で積極的に
オンラインイベントを開催

コロナ禍では、日本のチーズ工房の仲間たちのことも心配でなりませんでした。身近にチーズ工房があることを知ってもらうためにもGoogle Mapで所在地をまとめてみたものの、やはり興味があっても、1軒の工房から買っていると送料が高くなってしまうんです。

そこで、いろいろな工房のチーズを一旦CHEESE STANDに集めてセットで発送してしまおうと考えました。前年(2019年)に設立したJCA(日本チーズ協会)でもできないかと考えたのですが、まだ体制が整っていないため、さらには販売はCHEESE STANDで行うことしました。

僕たちはメーカーであるため、自分たちの利益をだすなら自分たちのチーズだけを売ってしまったほうがよいし、手間もかかります。今回のようなことがない限り、動かなかったことですが、こんな機会だからこそできることでもあったと思います。

そして、販売することをTwitterで投稿したら、ZOOMにして皆で食事会したらおもしろそうという意見もいただき、「CHEEZOOM (CHEESE×ZOOM) 」という名前を付けて購入者の皆さまと一緒にオンラインのチーズの食事会を開催することにもなったのは思いがけない展開であり、嬉しいことでもありました。

オンラインイベントの一般化は、コロナ禍で起きた大きな生活習慣の変化だったと思います。CHEESE STANDでも、途中に2、3カ月の休みを入れながらも1年近く僕がホスト役になって、さまざまなゲストをお招きして1時間程お話をするインスタライブを行っていました。

1stシリーズ「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」は、最初の緊急事態宣言中の5月5日に始まりました。飲食店のシェフの方々に、コロナ禍に生きる声を聞きながら、未来について話そうという企画で、初回は「HOUSE NY」の新店オープンの準備をしていた谷祐二さんで、5月29日までの4週間で、7人のシェフとお話をしました。

インスタライブの最初にご出演いただいた谷さんの言葉で「コロナのおかげで」というフレーズがとても耳に残っています。

コロナ禍にあって、最前線で戦っていらした医療従事者の方々にお弁当を届ける「スマイルフードプロジェクト」に、CHEESE STANDのチーズを提供したいとお願いしたのは、4月8日のプロジェクト発足後すぐのことでした。4月13日からお弁当の提供を始められ、7月10日までに2万1086食を届けたそうです。そうした素晴らしいプロジェクトにチーズを使っていただけたのは(商品は、最終的に購入してくださいました)、とてもありがたいことでした。

さらに、賛同して参加しているシェフの方々とのつながりもでき、シンシアの石井真介さんには、そのご縁でインスタライブに出演していただきました(武将と幕末話で盛り上がったのはいい思い出です)。

石井シェフとのインスタライブの様子。

少しお休みして、9月11日からは2ndシリーズ「&なCraftsmanとProducts」がスタート。CHEESE STANDにゆかりのある生産者さんに来ていただきました。オンラインストアや店舗で販売しているプロダクトを作っている方々だったのですが、私たちでも知らないことも多く、このインスタライブを通じてより生産者さんとの距離が縮まったように感じています。10月30日までに8人の生産者さんが来てくださいました。

そして1月17日から始まった3rdシリーズが「CHEESE CRAFTSMAN」です。もともとは2回目の緊急事態宣言が発出されたことを受け「自粛期間中、日本のチーズを応援しよう!」と始まったものですが、宣言が解除されたあとも続き、6月4日まで20回も回を重ねた最長のシリーズになりました。

また、CHEESE CRAFTSMANの配信に合わせて、ゲストの方が作るチーズとCHEESE STANDのチーズをセットにした「【限定】CHEESE CRAFTSMAN セット」を販売もしました。チーズを食べながらインスタライブを聞いてみたり、視聴後にゆっくり食べてみたりしていただけたのではないかと思っています。

日本チーズの仲間たちとのインスタライブは、前年に開催したイベント「CRAFTED CHEESE CAMP」のつながり、シェフや生産者の方々を招いたインスタライブは「CRFTSMAN × SHIP」で目指したものだったりと、リアルの場から離れても育んできた絆がオンラインイベントとして実現したと思いますし、前年から掲げていた「ファンベース」という意味でも、コロナ前ではできなかったファンの方々と近づくことになるきっかけになったと思っています。

見栄もプライドも捨て、残ったもので勝負

個人としても早いうちから自らの考えをnoteやTwitterでも発信していきました。

コロナ禍ですが、立ち止まっているのでなく(営業できないにせよ)、それに対してどう思い、どうアクションをしているのか。それを正確にどう伝えるかというのが重要だと思っています。こんな時は会社としての広報の仕事もとても大事になってきます。

今まで以上に広報の担当者と連絡をとりました。僕たちの現在の営業状況を正しく発信し、またチーズを通販してくれた方などとtwitterやインスタでのコミュニケーションをしっかりとってもらいました。

一旦、レシピの提供などがメインのオウンドメディアCHEESE STAND Mediaの業務を停めて、個人の編集をお願いしている江六前一郎さんを加え、想いをより強く伝えることに焦点をあてた公式noteをはじめました。僕以外の視点から書く想い、新鮮で良いと思っています。

インスタライブだって、新商品だって、コロナ以前にやろうと思えばやれたことだったのかもしれません。しゃべるのも苦手だし、記憶力がダメで司会進行役にほんとうに向いていない。だけど、見栄もプライドも捨てたのだから、残ったもので勝負するしかない。

一方で休業要請に従い、その範囲内で製造スタッフや店舗スタッフを出勤させていたことについては、万が一の感染を考えると不安で、店を閉めた方がいいのではないか、という考えも浮かび悩んでいました。アルバイトのスタッフには、それまでのようにシフトを入れられず申し訳なかったです。一方で、社員を解雇することはありませんでした。

経営者として、コロナ禍の最初の1年目は、当然売り上げは下がりましたが、ECを強化できたし、もともと卸も伸びてきている時期でもあったので、助成金を申請してやりくりし、なんとかしのぐことができました。少ないですが、利益も出せたので悪くはなかったのではないかと思っています。

しかし、今思い返すと、我ながら次々と考えて行動していて、すごかったなと思います。まわりに勇気や元気を与えたかったというのもありますし、ランナーズ・ハイならぬ「コロナ・ハイ」になっていて、いつも以上に早い決断・行動ができていたのだと思います。

妻、千鶴との別れ

最初の緊急事態宣言が明けて、CHEESE STANDが8年目に入ったばかりの6月13日朝、15年のパートナーであり、会社の一員としても7年ほど支えてくれた妻の千鶴が亡くなりました。

3月になって新型コロナウイルスの感染拡大がいよいよ大きくなってきたこともあって、実家の方が安心かもしれないということを考えて、千鶴の実家がある岐阜県に連れて帰ったんです。

4月終わりくらいまで向こうにいたのですが通院先から、余命が1、2週間かもしれないといわれました。千鶴本人も、東京に帰りたいといっていたので、それだったら東京に戻った方がいいと思い、車で迎えに帰りました。

それからは自宅に看護師さんに来ていただいて、岐阜からは義母さんも来てくれて、毎日様子を見てもらっていました。意思疎通ができなくなるときもありましたが、大好きなイタリアワインの番組を観たり、ワインもほんのちょっと2人で飲んだり、コロナ禍で外食ができなかったので、テイクアウトを始めた知人のイタリア料理店の料理を買って帰って食事を楽しんだりもしました。

6月になっても、ちょこちょこ会話ができていたのですが、亡くなる前日、僕が家に帰ったら急に歩けなくなっていたんです。そして、その夜はずっとうめいていました。僕もその夜は、「もしかしたら」と思い覚悟を決めて眠りませんでした。

朝3時に、チーズの製造のために家を出ました。7時頃に製造がひと段落して、携帯電話を見ると、義母から何度も電話がかかってきていました。死に目にあえませんでした。救急車が来たりと慌ただしくありましたが、製造できるのは僕だけだったので、すぐに工房に戻ることになります。

亡くなったのは土曜で、翌日の日曜だけ、以前製造をしてくれていた元社員のあずきちゃんに製造をお願いし、月曜に家族だけでお葬式をしました。最後は、好きなものに囲まれていたので、幸せだったのではと思っています。わかりませんが。

その後ももちろんそうですが、その前年から「しっかりやらないといけない」と強く思っていましたし、ご覧の通り、いろいろなことに取り組んでいて、仕事の忙しさで悲しみに蓋をしていたのかもしれません。そんななかで、僕たちを知るたくさんの人が僕を食事に誘ってくれて声をかけてくださいました。そういう場では、ずっと泣いていたと思います。一人でシャワーを浴びているときも、やっぱり悲しくて涙が出てしまうのです。

千鶴は太陽のように輝いている人で、人を自然と惹きつける人でした。コロナ禍もあって、そんな千鶴を愛してくださった方にお礼をいうこともできずにいたのが、ずっと心残りでもありました。

コロナも少し落ち着いてきましたので、ちょうど3回忌にあたる6月13日(月)にお別れ会を開こうと思っています。適切ではないかもしれませんが、「笑顔で」という意味を込めて「千鶴フェス」と命名しました。皆さまと千鶴が大好きだったイタリアワインで献杯し、ワイワイと見送りができれば、きっと千鶴も喜んでくれると思っています。

当日は、素敵なソムリエも参加していただけます。チケット制ですので、事前にお申込みくださいませ。イタリアワイン好きなれると思います。


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語り=藤川真至
文・構成=江六前一郎

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