マイノリティを支えらる社会に|The Burn 米澤文雄さん
緊急事態宣言が発令され、外出自粛が呼びかけられた5月。STAY HOMEでおうち時間を過ごす方々に、少しでもCHEESE STANDらしいメッセージを届けできないかと考えて、私たちのチーズを使ってくださっているシェフの方々をお招きしたインスタライブを企画しました。テーマは「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」。手前味噌ながら、自由な感性で料理を創造するシェフにご愛用いただいていることもあり、コロナ禍でもしっかりとしたビジョンで、芯のある内容になったと思っています。
全7回のシリーズの第2回目は、東京・青山一丁目「The Burn」のシェフである米澤文雄さん。緊急時代宣言下の東京での営業の再開や、医療従事者の方々にお弁当を届ける「スマイルフードプロジェクト」のこと、米澤さんのライフワークのひとつであるボランティア活動のことなどについて、CHEESE STAND代表の藤川真至が話を聞きました。
(インタビュー日:2020年5月7日)
――The Burnは、本日(5月7日)から営業を再開されました。再開初日のお店はどのような雰囲気でしたか?(藤川、以下同)
近くで働いている方が1組いらしていただいた以外は、知り合いの方たちでした。「再開するなら行きますよ」と言ってくださって。じつは、もっとお客様が少ないかなと思っていたので、ありがたいかぎりです。
The Burnは、都心のビジネスエリアにあるので、郊外にお住まいの方々は、わざわざ来ていただく必要があります。また、場所自体も路面店ではなく地下にある。そういったことを考えると、この状況で多くの方に来ていただけたのかなと思っています。
――再開にあたり、どのような感染対策をされましたか?
そもそも店の空間を広くとっていたこともあり、コロナ以前から席の間隔が1m以上がありました。そのため席のレイアウトは変えず、席数を減らしてご案内している状況です。スタッフ側では手洗いを定期的に実施したり、マスクしながら営業をしています(注:営業再開当時)。
どれぐらいちゃんとやれば、お客様に安心感を与えられるかは、まだ正直わかりません。5月からあと半年くらいは、新型コロナウィルスの感染者数の推移を見ながら、レストランの営業方法だけではなく、社会全体がトライ・アンド・エラーしていくのではないでしょうか。
それから新型コロナウィルスに対するワクチンが開発されるまでは、飲食店に行って楽しむということは、難しいのではないかと思っています。
――お店のスタッフにはどのような話をされましたか?
僕たちとしては、自分たちが決めたことをお客様に伝えられるようにしておかないといけないということを話しました。たとえばAくんが言ったけど、Bくんは言えないとかじゃなくて、みんなの中に、店として決めたスタンダードがあることが第一。そのスタンダードが甘いのか厳しいのかとの問題は別に、僕たちはこういう営業ルールに則って営業してますよ、というのがちゃんと伝わるような状況でないといけないなと。
あとは、お客様のご連絡先がわかるようにしたいと思いました。それは、お客様が感染された場合に連絡ができるだけではなく、同じ空間に感染されていた方がいましたよ、ということがお伝えできた方がいいですから。お客様のために店としてやらなきゃいけないことだと思います。
レストランは、不特定多数のお客様が出入りされるので、店としてある程度の説明責任が果たせる状況にしたいですね。
――米澤さんが、さきほどおっしゃっていたように、これから2カ月くらいは、トライ・アンド・エラーを続けていかないといけませんね。
そうですね。これからは、どれだけお客様に寄り添えるかが重要になりますよね。
世界的にも大変な状況で、多くの死者が出ています。そして、コロナに感染していなくても、多くの人がたちの心がコロナに毒されているように感じます。また、身近に感じていた志村けんさんや岡江久美子さんといった芸能人の方の死が、それを強くしている。人の気持ちがまいってしまっているように感じています。
そんな社会のなかで、僕たちはお客様のことを考えて営業していかないといけない。一方で、レストランは楽しむ場ですので、お客様には楽しんで笑顔になってもらいたい。レギュレーションは、それを前提にしてそれぞれのお店が決めることだと思うので、それをお客様がどう判断するか。つまり、そのレギュレーションを支持するかということだと思います。
CHEESE STANDには意識のあるお客様が多い
話は、変わりますけど、チーズ手作りを渋谷でやろうなんて、誰も思わないですよね。
――いやぁ、若さゆえというか(笑)。9年前にオープンしたときはまだ29歳でしたけど、その時は、なぜか「いける」という自信がありましたね。
CHEESE STANDのチーズは、ブランディングが上手で、強いファンが買っていますよね。僕もそのうちの一人。最終的には、選んでいるユーザーが何を使いたくで、何で選んでいるのか。もちろん味も大事だけど、どういう人がどういう気持ちでやっているのか、CHEESE STANDだから買っている人が多いんじゃないですかね。モッツアレラもブッラータも値段はもっと安いものがあるわけですから。そのなかでCHEESE STANDが選ばれているのは、やっぱり意識を持って買っている方が多いのでしょうね。
味が大事だけど、味以外の何かも、じつはすごく大事。それが現れたのが、今回のクラファン(クラウドファンディング)じゃないですか?
――さとなお(佐藤尚之)さんが、CHEESE STANDを応援したいと言って立ち上げてくださったんです。飲食店が大変な状況のなかで、僕たちだけが応援されるのは、本当にいいことなのか、直前まで悩んだんです。けどやってみてよかったな、と今は思っています。お客様との関係が変わったと思います。
すごいですよね。目標額の100万円を1日で達成されましたからね(クラウドファンディングは、5月29日に終了。最終的に2,102,700円を集めた)。
――クラファンで賛同してくださっただけでなく、オンラインショップで商品もお買い上げくださったりもしたんです。本当にありがたかったです。いまは、1通1通御礼のメールをお返ししています。そのメールを書くたびに、感謝の気持ちでいっぱいになります。
準備1週間でスタートしたスマイルフードプロジェクト
――米澤さんも参加されている水産資源の保護を目的にしたシェフグループ「シェフ・フォー・ザ・ブルー」では、コロナと最前線で戦っていらっしゃる医療従事者の方々にお弁当を届ける「スマイルフードプロジェクト」もされていますね。どのようないきさつだったのですか?
シンシアの石井(信介)さんがFacebookの投稿がきっかけだったのですが、僕自身も、友人でパリのDersouの関根拓さんのSNSで医療従事者向けにケータリングをボランティアでしているのを見ていて、「すごいな」と思っていました。
シェフズ・フォー・ザ・ブルーの代表の(佐々木)ひろこさんや、サイタブリアの石田(聡)さんと意見交換するなかで、豊洲にあるサイタブリアのケータリングのラボが使えたら、機材の設備だけでなく、衛生面などの安全性の点でももっともいいんじゃないですかね、って話しになったんです。
同じ頃に石井さんのFacebookの記事にコメントをしてくださったNKBの寺田(裕史)さんが声をかけてくださって。そういったメンバーでThe Burn でミーティングをしたんです。そこでスタートをどうしていくかという話しをして、そこから1週間くらいでお弁当を届けることができました。
スタートしてからも、小沢(亮)くんとか写真や動画を撮ってくれたり、石井さんも毎日のようにキッチンに入って、元麻布長江で慈華 itsukaの田村(亮介)さんや茶禅華の川田(智也)さん、八雲茶寮の梅原(陣之輔)さん、後楽寿司やす秀のやす(綿貫安秀)さんなどもメニューを作ってくださいました。そのメニューをサイタブリアのケータリングスタッフに落とし込んで実際に作っていく。今回のプロジェクトの実働は、ほぼほぼサイタブリアのスタッフのみなさんなんです。
来週は、藤川さんにご提供いただいたCHEESE STANDのモッツァレラを使わせていただきます。ありがとうございます。
ぜひ喜んでいただけるようなものにしたいですね。
――僕たちのように製造をしていたり、農家の方々もコロナで困っていたので、すばらしい取り組みに使ってもらえるのはうれしいです。
レストランが休業になると僕たちも大変ですが、農家さんにとっても野菜の売り先がなくなったり、肉が売れなくなったりします。チーズのような製造業の方もそうですし、酒造業の方も売り先に困っています。飲食店が止まってしまうと、じつは本当にいろいろなところが止まってしまう。
僕たちは、コロナが落ち着いた後も、そういったすばらしい食材を買いたいと思ったので、これまでお世話になった方々の食材をしっかり買わせていただいて、医療従事者の方々にお弁当にして届けようと思いました。
――活動を持続的に行うためには、ボランティアだけではない経済的な仕組みが必要ですよね。そのためにスマイルフードプロジェクトでもクラウドファンディングをしたり、企業から協賛を得たりしていらっしゃいました。
スマイルフードプロジェクトでは、シェフはボランティアで参加してます。コロナの状況で、いちばん大変な医療従事者の方々に、料理によって笑顔になっていただきたいし、僕たちとしても感謝の気持ちをお伝えできればと思っています。
一方で、スマイルフードプロジェクトもそうですが、継続して取り組んでいくためには、すべてをボランティアで続けることは難しい部分も多いです。
スマイルフードプロジェクトとは違うのですが、昨年から品川区の障害児者総合支援施設の1階にある、障害児の方が支援をうけながらスタッフとして働く「みんなのカフェ」のメニュープロデュースをしています。
朝日エルの岡山(慶子)さんは、ボランティアだけを続けるのではなく、きちんと取り組みを経営化していって支援を継続していきたい、ということをおっしゃっています。僕自身もさまざまなマイノリティの方々へのボランティア活動をしていますが、やはり続けていくことはとても難しいことだと感じていますね。
そういった点で、スマイルフードプロジェクトが6月末まで取り組みが続けられるようになったのは、はたくさんの協賛をいただけたからだと思います。本当に感謝しかありません。
――最後に、コロナによって、僕たちも含めて社会が変わること、もしくは変わらないことがあるとしたらどんなことがあると思いますか?
コロナ以前も良い人と苦しい人がいて、それがコロナになって逆転したかもしれないし、かえって苦しくなったり、さらに良くなったりする人もいると思うんです。僕自身は、どんなときでも良い人が苦しい人を助けてあげられる社会であるべきだと思っていて、それはコロナになっても変わらない。立場の弱い人たちを助けていけるような社会であることは、変わらずにいてほしいなと思っています。
Fumio Yonezawa
高校卒業後、恵比寿イタリアンレストランで4年間修業。2002年に単身でNYへ渡り、三ツ星レストラン「Jean-Georges」本店で日本人初のスー・シェフに抜擢。帰国後は日本国内の名店で総料理長を務める。「Jean-Georges」の日本進出を機に、レストランのシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)に就任。2018年夏、The Burn料理長就任。
CHEEASE STANDのオウンドメディア「CHEEASE STAND media」でも米澤さんの記事を読むことができます!
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「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」の第3回は、東京・神田のレストラン「ザ・ブラインド・ドンキー」の原川慎一郎さんを予定しています。CHEESE STAND公式noteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!
文・構成=江六前一郎