記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【物語のおわり】という本を読み終えて

※ネタバレを含む可能性がございます。
 お気をつけて読み進めてください。

【告白】は湊かなえさんの名前を世界に広く知らしめた作品の一つだと思います。1つの物語を数人の登場人物の目線で紐解いていくスタイルは長編を読むのが苦手な方でも読みやすいのではないかと思います。
そして本当に一人の人間が書き上げたのだろうかと思うほどその登場人物は個性豊かで思想も理念も全く違う・全くの別人という所、一つの章を読み終えると次の人物がどうしてそうなったのか?どうしてそんな事したのか?と気になって眠ることが出来ず、結局一気に最後まで読み終えてしまったことを今でも覚えています。
それから湊かなえさんの作品を好んでよく読むようになったのですが、細やかな伏線が多くどんでん返しだったり後味が悪かったりとイヤミス(読んだ後に「嫌な気分」になる小説)な作品が多い中、一番印象に残っている【物語のおわり】という作品の感想を書かせていただきます。

山間にある田舎のパン屋の娘が成長し恋をして、夢であった小説を書く仕事をするのか、それとも地元に愛される両親のパン屋を継ぐのかー

この結末がわからない“書きかけ”のような状態、なんなら本ではなく原稿用紙に書かれた状態のままのこの物語がいろんな目的・理由があって北海道を訪れている旅行者の間を渡っていく物語です。
面白いなと思ったのは全く同じ文章の物語が旅先で出会った旅行者にバトンのように渡っていくのですが、その人の生い立ちによって全く違う感想と解釈をし、過去と向き合ってみたりこれからを考えてみたりと読む前と後で心情が変化していくのです。今まで読んだ湊かなえさんの作品とは少し違い、ハッピーエンドとはいかなくとも皆が前向きにシフトチェンジしているような印象を受けました。

中でも良いなと思ったのがプロのカメラマンになりたかったが父の会社を継ぐ事になってしまった、夢を諦めるために北海道を訪れた男性の話。
かつて撮った写真がコンクールで入賞しカメラマンという夢のために勉強を始めました。一流の写真家の助手になる話も出ていましたが、父親が亡くなったことで家業を継ぐことになり夢が断たれてしまいました。
北海道を旅行中、どこまでも畑が広がる美瑛・富良野でたまたま出会った女性から“あの小説”を受取りました。休憩がてら読み終えた彼は「この物語の主人公は夢を諦めたわけじゃない、素晴らしい作品を書くことが出来れば場所は関係ない、きっと夢を追い続けた」という結末を想像しました。父の会社を継いでも写真を撮り続けようという未来へ踏み出しました。挿絵などは無かったのですが、きっと彼の瞳は小説を読む前と後で全く輝きが違ったのではないかと思いました。
小さな頃の夢を叶えて今も活躍しているという人間はどのくらい居るのでしょうか、私はどちらかといえば夢を諦めた側の人間です。昔読んだ漫画にも有りましたが「自分が選ばれた人間ではないと気づく瞬間」があったような気がします。彼にもその瞬間があったのではないでしょうか。
それでも前に進もう、自分なりの方法で。
という前を向く彼の姿と、ふりかかる大きな責任と戦おうという姿が、読んでいてとても胸が熱くなりました。

その他も魅力的な登場人物が登場しました、明るいだけではなく寂しい話も多かったのですが、1つの物語が広大な北海道の自然を旅しているという設定にもワクワクしました。
決して何かの大義名分の為に命を捧げるでも、大きな事件が解決するでも、ドラゴンを倒すでも無い旅の話ですが、読み終わった頃にはものすごい充実感と温かい気持ちになったことは今でも忘れません。

そして道民としては外せない最高のどんでん返しは、この本のあとがきをあの“藤村D”が書いているという所。これはどうでしょうファンであれば小躍りするくらい歓喜では無いでしょうか。

イアミスの女王と呼ばれる湊かなえさんですが、このような温かい作品も多くあります。秋の夜長に1つ手にとってみてはいかがでしょうか。

#読書感想文


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集