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雪道でサイドブレーキ

上司というか仕事でお世話になった人の言葉。

「辛くても自分で面白いこと見つけなきゃ、ずっとつまんないままだよな」

まだ若手制作で、20代前半のペーペーだったころにお世話になったカメラマンさんに言われた一言。よく分からず、志もなく映像業界になんとなくで踏み込んでしまった20歳の頃の私。まぁ幸い若い頃は顔が良かったのでね。最初に就職した会社の女性副社長に顔面接で、うちで働きなよと誘われて、何も考えずに映像制作会社に入社。肩書きの響きが良いデザイナーになれると思ったら、制作の人員が足りず、そもそもよくわからない職業である制作に。厳密にいうとディレクター志望ではあったので、制作件ADでしたね。ちゃんとしたCM専門の会社だと制作部と演出部は分かれているのですが、映画からCM、イベント、企業ものまで全ジャンル対応の小規模な制作会社で両方兼ねさせられてた感じでした。これがまぁしんどかった。

最初の1年は良かったのですが、先輩がバイクで事故って長期入院してしまい、いきなり入社1年目が制作アシスタントとADを兼ねながら制作チーフをやることに・・・。おかげで今の自分がいるのもあるのですが、当時は必死でしたね。制作とは気配りの仕事。全てのお膳立てをする職業です。まぁ、そもそも自分の生活すらまともにできていない人間なので、そんなことも知らずに制作をしているわけですから、担当していたディレクターには、それはよく怒られる、蹴られる、殴られはしなかったですが、まぁ現場に入ると異常に厳しかったですね。そのディレクターとは、酒の場でなぜか「恋愛と仕事は両立するかしないか」で殴り合い寸前にもなりましたね。中野ブロードウェイで睨み合い。別班の温厚なプロデューサーが止めてくれました。やり合っていたらたぶんジャブ・ジャブ・ローキックからのアッパーで勝てたと思います。ちなみに私は「両立できる」派でした。当時社内恋愛していたので、それもあったかもですが、おそらくディレクターは、もっと仕事に集中しろよと言いたかったのではないかと思います。10年以上前に亡くなられてしまったので、真意はわからずですが・・・。そんな方でも、かなりお世話になったのは確か。と、まぁろくに仕事もできないのに生意気だった私ですが、そもそも業界のことも知らないまま入社、先輩も入院、直の上司のプロデューサーはあまり物事を教えてくれない無口なタイプの人、顔面接で入社した私の存在も周囲からは曖昧な感じだったためか、正直途中でどのように働けば良いのかわからない状況になっていた時期もありました。

そんな時、とある東北地方の施設の撮影として、1ヶ月ほどカメラマンさんと現地に滞在することに。当時ですでにベテランのカメラマンさんで、フィルム時代からの方。愛車はハマー。とにかく昔ながらの豪快なタイプの人。私の運転で雪道を車で走っていたら、急にサイドブレーキをかけて、車は一回転。正直、青ざめました。そんな私を見てか知らずか、「おもしれーな!」と豪快に笑っていた。そしてその満面の笑顔に恐怖しました。おそらくジオン軍がコロニーを初めて地球に落としたときの民衆と同じ表情だったと思います。そんな破天荒なカメラマンさんでしたが、私はそういうタイプは意外と好きなので、撮影現場を通して仲良くなっていきました。そんなある日、撮影オフの日に宿泊施設の近くに温泉があるってことで、一緒に温泉に行き、その帰りの車内で、カメラマンさんがやや真面目なトーンで、「仕事ってさ、辛くても自分で面白いこと見つけなきゃ、ずっとつまんないままだよな」と一言。それは私に対してか、本人に向けてのものなのかは分かりませんが、ハッとする一言でした。もしかしたら本人は、温泉に行った帰りの何気ない一言でしょうが、当時の自分にはグッと深く刺さりました。結局、仕事をつまらなくしてるのは、自分なのかも。それは仕事だけじゃなく、私生活も含めてでしょうね。それ以来、自分が楽しみつつ、クライアントやスタッフさんのことも楽しませる意識で仕事をするようにしたら、色々とうまく仕事がこなせるようになりました。それからフリーになったり今の制作会社に就職したりと色々ありましたが、今となっては当時のカメラマンさんとほぼ同じ年齢。プロデューサーとして、素敵な後輩にも支えられつつ、クライアントも出演者も楽しめるような現場を作れるようになってきました。結果CMも番組も企業映像も、結果は最重要ですが、その過程も一緒に楽しんで、また一緒に仕事したいって思ってもらえること、思えることが自分にとっては一番大切なことに位置付けています。(営業利益もだけど。)

楽しいかどうかは与えられるものではなく、自分自身がどう捉えるか、楽しいポイントをどう見つけるものなのかなと思います。文句ばっかり言っていても何も解決しませんからね。人によりますが、自分の場合は、楽しく仕事したいという思考と実行と実現があって、今もそれなりに働けていると思います。そして、それがいきすぎると、「今日の呪い」や「幽霊飼育日記」など誰のためかわからないものを個人で生産し始めるわけです。こっちは完全な自己満足ですね。そんな中でも楽しさを共有してくれる人がいると嬉しいのです。ちょっと語りすぎましたね。さて、シコって寝ようと思います・・・という年齢でもなくなってきたな・・・。そろそろ楽しむだけという時代でもなくなってきたので、バージョンアップが必要かもしれないですね。

ということで、心に残る上司の言葉は、「シコって寝る」でした。

#心に残る上司の言葉


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コトラ
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