チョコレートの非人道性
最初に
チョコレートは多くの人にとっておいしいおやつや贈り物ですが、その裏側には非人道的な現実が隠されています。チョコレートの原料となるカカオ豆の生産には、児童労働や奴隷制度が広く関与しているのです。この記事では、チョコレート産業の暗部と、それに挑む企業や団体の取り組みについて紹介します。
チョコレート産業の暗部
チョコレートの原料となるカカオ豆は、主に西アフリカのコートジボワールやガーナなどの国で栽培されています。しかし、これらの国では、貧困や教育の欠如などの問題が深刻で、多くの農家が低価格でカカオ豆を売らざるを得ません。その結果、農家は子どもたちを助けに使ったり、近隣の国から子どもたちを買ったり、さらには誘拐したりして、カカオ豆の収穫に従事させています。これらの子どもたちは、危険な道具を使ったり、重い荷物を運んだり、長時間労働したりするなど、過酷な労働条件の下で働かされています。また、暴力や虐待を受けたり、教育や医療を受けられなかったり、自由や人権を奪われたりするなど、人間としての尊厳を踏みにじられています。
チョコレート産業の規模は巨大で、世界中で年間約1000億ドル(約11兆円)の売上があります。しかし、その利益のほとんどは、カカオ豆を加工や販売する大手企業や小売業者に流れており、カカオ豆を生産する農家はごくわずかな取り分しか得られません。カカオ豆の価格は、天候や需要の変動だけでなく、先物取引やマネーゲームによっても左右されます。農家にとっては、不安定で不公正な市場にさらされていると言えます。
チョコレート産業における児童労働や奴隷制度の問題は、2000年に公開されたドキュメンタリー映画「Slavery: A Global Investigation」1で世界に衝撃を与えました。その後、チョコレート製造企業や政府、NGOなどが、児童労働や奴隷制度の撲滅に向けて協力することを約束する「ハーキン=イーグル議定書」2が2001年に調印されました。しかし、その実施は何度も延期され、効果も限定的でした。2015年の報告書3によると、カカオ豆産業で働いている児童の数は2009年から2014年を比較すると51%増加し、現在では合計で140万人になっています。奴隷状態の労働条件で働く子どもの数は、2009年から10%増加し、現在は合計で110万人になっています。
チョコレート産業の改善に向けた取り組み
チョコレート産業の暗部に対して、消費者やメディア、NGOなどからの批判や圧力が高まっています。一方で、チョコレート製造企業やカカオ豆商社なども、自社の社会的責任や持続可能性を高めるために、様々な取り組みを行っています。例えば、以下のようなものがあります。
児童労働や奴隷制度のないカカオ豆の認証制度の導入や拡大。有機栽培やフェアトレードなどの基準を満たしたカカオ豆には、認証マークを付けて消費者に情報を提供する仕組みです。代表的な認証制度には、レインフォレスト・アライアンス4やフェアトレード・インターナショナルなどがあります。
カカオ豆の産地を特定し、トレーサビリティ(追跡可能性)を高めることで、供給チェーンの透明性や品質を向上させる取り組み。カカオ豆の生産者と直接取引することで、適正な価格を支払うとともに、生産者の生活や環境の改善に貢献する取り組みです。代表的な取り組みには、ネスレーの「ネスレー・ココア・プラン」や、マースの「ココア・フォー・ジェネレーションズ」などがあります。
カカオ豆の生産国での教育や医療、所得向上などの社会的投資や支援を行う取り組み。カカオ豆の生産者やその家族、特に子どもたちの人権や福祉を守ることで、児童労働や奴隷制度の根本的な原因である貧困や教育の欠如などの問題に対処する取り組みです。代表的な取り組みには、ハーシーの「ココア・リンク」や、カカオ専門商社の「立花商店」などがあります。
まとめ
チョコレートは多くの人にとっておいしいおやつや贈り物ですが、その裏側には非人道的な現実が隠されています。チョコレートの原料となるカカオ豆の生産には、児童労働や奴隷制度が広く関与しているのです。この問題は、チョコレート製造企業やカカオ豆商社だけでなく、消費者や政府、NGOなどが協力して解決する必要があります。チョコレートを購入する際に一度立ちどまり、このチョコの裏側にいる人々の存在を思い出すことで、100%奴隷労働のないチョコレート業界に一歩近づくはずです。