iricのソルバーである「Nays2DFlood」を用いて浸水図を作成し、浸水実績図と比較しよう!(その5)
はじめに
前回から引き続き、iricのソルバー「Nays2DFlood」を用いて作成した浸水図の信憑性を検証することを目的に、浸水実績図との比較を実施します!
今回は、前回の投稿までに設定した解析条件を基に、iricのソルバー「Nays2DFlood」を用いて解析を行います!
解析条件を設定した記事を以下に示します。
また、検討検討対象地域と解析条件について、以降に再掲します。
検討対象地域の選定
私はiRIC初心者なので、解析に適した比較的単純な条件の地域を選びたいと考えています。具体的には、他の河川が合流していない河道区間を対象とすることにしました。
東海豪雨の浸水範囲と愛知県の河道中心線をQGIS上で重ね合わせた結果、「日長川」の特定の区間が解析に最適だと判断しました。この区間は、他の河川からの流入がなく、シンプルな条件設定が可能な場所です。
対象地域は、下図に示す日長川の他河川流入のない区間を選定しています。参考までに、日長川は知多市岡田の市街地を流れ、最終的に伊勢湾に注ぐ河川で、河川延長は約3.9km、流域面積は約12.3km²の二級河川です。(出典:平成17年8月26日 二級河川日長川水系河川整備計画)
解析条件一覧
解析のために設定した条件は以下の通りです!
詳細について、以降に示します。
地形を表現する点群データ
航空写真
検討対象河川周辺での降雨量の時間的変化
検討河川に流入する河川の流量の時間変化
検討河川に流入する河川の勾配(前投稿から変更)
建物の占有率
浸水図作図範囲の粗度係数
障害物の平面位置
地形を表現する点群データ
地形を表現する点群データは、国土地理院が配布している5mメッシュ標高タイル (基盤地図情報数値標高モデル)を用います。
航空写真
航空写真は、国土地理院が配布している「国土地理院(標準地図)」を用います。
検討対象河川周辺での降雨量の時間的変化
愛知県のホームページからダウンロードした検討対象河川周辺の降雨観測所である3箇所(阿久比、東海、常滑)のデータを平均して波形を作成しました。作成した波形を以下に示します。
検討河川に流入する河川の流量の時間変化
本検討では、日長川の流域界を包絡するメッシュを作成します。そのため、検討河川に流入する河川の流量の時間変化は設定しません。
検討河川に流入する河川の勾配(前回投稿から変更)
本検討では、日長川の流域界を包絡するメッシュを作成します。そのため、検討河川に流入する河川の勾配は設定しません。
建物の占有率
建物の占有率について、用途地域ごとに建物面積を分析して算出することとしました。算出に先立ち、日長川の流域界を確認し、その範囲内における用途地域と建物面積の把握を行いました。
分析の結果、各用途地域の面積、用途地域上の建物面積、そして用途地域内における建築面積の占有率は以下の通りとなりました。
浸水図作図範囲の粗度係数
浸水図作成範囲の粗度係数は、「土木研究所資料 氾濫シミュレーション。マニュアル(案)ーシミュレーションの手引き及び新モデルの検証ー 平成8年2月 建設省土木研究所河川部都市河川研究室 p.33」を参考に設定しました。
粗度係数の算定には、以下の3つの占有面積が必要です。
A1:建物、農地の占有面積(m2)
A2:道路の占有面積(m2)
A3:その他の占有面積(m2)
A1、A2、A3の占有面積を求めるため、「1997年(平成9年)土地利用3次メッシュデータ」を使用しました。
土地利用種別の属性情報を、A1、A2、A3の占有面積算出のために振り分けました。
算定の結果、浸水図作図範囲の粗度係数noは0.056となりました。なお、浸水は陸上で発生するため、より正確な計算のために海水域の面積は除外して算定しています。
障害物の平面位置
「Nays2DFloodマニュアル p.34」によると、計算格子が大きすぎる場合、道路や堤防などの障害物を直接表現できないため、障害物の平面位置を別途設定する必要があるそうです。そこで本解析では、計算格子を十分小さくすることで、障害物の平面位置を別途設定せずに直接表現できるようにします。
解析結果
解析結果を以下に示します。本解析では主な浸水深を0.1m~2.5mの範囲で表示しています。東海豪雨の浸水実績図と今回の解析結果を比較したところ、解析結果は実績の浸水範囲を概ね再現することができました。ただし、一部の地域において、浸水実績図の範囲外でも浸水が確認される結果となりました。
考察
解析結果において浸水実績図の範囲外で確認された浸水については、主に二つの要因が考えられます。一つは排水施設のモデル化を実施していないこと、もう一つはメッシュ解析では表現が困難な微細な地形変化の存在です。これらの要因が解析結果に影響を与えたものと推察されます。
最後に
今回は、iRICのソルバー「Nays2DFlood」を用いて浸水解析を実施し、東海豪雨の浸水実績図との比較を行いました。解析結果は実績の浸水範囲を概ね再現できており、手法の妥当性が定性的に確認できたと思われます。
ただし、より厳密な評価のためには定量的な検証が必要でが、私にそこまでの力量がありません。。。誰かご存じでしたら、今回の解析結果を定量的に評価する方法を提案してほしいです!
なお、本解析には以下の制約事項があることに留意が必要です
使用した点群データが東海豪雨発生当時のものではない
建物の占有状況について、東海豪雨発生当時のものではない
浸水解析に用いた粗度係数については、東海豪雨当時の土地利用状況を十分に反映できておらず、また建物占有率との関連付けができていない
今後、今回と同じような解析を実施する際は、排水施設の設定や土地利用状況等の現場の状況を精度よくモデル化して取り組みたいと思います!
以上です!
読んでいただき、ありがとうございました。