巨大毒蜘蛛、あらわる。(友の場合)
土曜日22時ジャスト。
友からLINEが来た。
「タナカサン、今すぐウチに来れるか?」
「巨大な毒蜘蛛が出た。退治してくれ!!」
画像付きである。
ヒィ。確かにデカい。すごくデカい。今まで見たことがない。
草刈りでヘトヘトだった私はもうベッドで横になっていたが
その画像を見て飛び起きた。
これはヤバいぞ。このままでは友が巨大毒蜘蛛にやられてしまう!
が、私はビールを飲んでいたので車は出せない。
友の家まで歩いて行けなくもないが私の脚力では夜が明けてしまう。
(若人がゆるゆると走れば5分くらいで着く距離だが)
ドウシヨウ??
よし、こうなったら全力で励まそう。それしかできまいて。
「落ち着け、それは蜘蛛ではない」
「ワタリガニや」
「そっか、これはワタリガニか」と、友は一瞬納得してくれたが
すぐに違うと気がついてしまった。
「いや、ワタリガニやない。蜘蛛や」
そうか。カニ暗示はダメか。
待て、友は毒蜘蛛と言ったけれど、はたして本当か?
「その蜘蛛、毒あるんか?」一応聞いてみた。
「多分ある。だってデカいもん」
友はただデカいから毒があると決めてかかっている。
毒がある根拠がただ「デカい」ってさ。
念のために私は「日本、毒蜘蛛、家」で検索してみたが、
友の家にいる蜘蛛の画像は出てこなかった。一安心だ。
っていうか、デカいから毒があるという友がちょっとどうかと
思ったけれど、それだけ怖がっているということだ。
私は殺虫するスプレーはないのかと聞いたら
即座に画像が送られてきた。
それは虫取り網の画像だった。
これで捕獲しようかと思う、とのコメント付きだ。
「ご機嫌な夏休みの少年か」
そう送ったら
「誰が僕の夏休みやねん」
と来た。
この緊急時にくだらなすぎる会話だ。
・・・とりあえず落ち着こう。私も友も慌てすぎだ。
いや、それにしてもデカい蜘蛛だ。
エアコンの大きさがだいたいこれくらいで窓枠がこれくらいだから
この蜘蛛はかなりデカい。
送られてきた蜘蛛の画像を分析しながら
こんなにデカい相手と対峙している友が本気で心配になった。
でも私は飲酒しているから車は出せないし歩いて友の家にいく脚力もない。
あぁ、マジでごめん、助けてあげられないよ・・・・
モヤモヤしながら部屋をウロウロしていたら次のLINEがきた。
「捕獲しようと思ったが取り逃した」
「でも窓枠に移動してくれたので網で突っついたら
外に出た」
「殺生せんで済んだ。恩返しされるかも。うふふ」
あぁ、よかった。とりあえず友は巨大な蜘蛛から解放された。
無駄な殺生もせずにすんだ。
「よかったな。蜘蛛がワタリガニになって帰ってきてくれるかもな」
私が言うと、
「なんならタラバで来て欲しいな。あんときはありがとーってな」
と友が言う。
半分くれ、と言ったら
ええで、みんなで食べようと言う。友は気前がいい。
「殺生」の観点からいくと、このくだりはやや矛盾しているが
なによりこれからの時間、友が心穏やかに過ごせるならそれでいい。
そう思って私は安心して眠りについた。
日曜日、朝。昨夜友から来た蜘蛛の画像を改めて見て気が付いた。
あれ?何か距離感がおかしくないか?
そう、私がエアコンと思っていたのはホームセキュリティシステムで
窓枠と思っていたのはそのモニターだった。
ちょっと待って、写真の撮り方よ。もうちょっと引き気味で撮ってよ!
思ってたのとぜーんぜん大きさが違うじゃないのさ。
実際は「巨大な毒蜘蛛」でも「ワタリガニ」でもなかったってことだよ。
これはそこらへんにいる「ちょっと大き目の、ただの家蜘蛛」だよ。
勝手に勘違いしたのは私だけれどもさ。
あそこまで心配しなくてもよかったんじゃぁないの??と思った。
でも、まいっか。あの巨大毒蜘蛛が巨大タラバガニになって
恩返しに来てくれるかもしれないからね。
・・・・・いや、来ないよね。