映画『春原さんのうた』評/風と湿度が同居するショットに生を見る
モノローグはおろか説明ゼリフも一切ないショットの連なりは、まさに「映像詩」の名に相応しい。じっくり見ていく中で、主人公が喪失を受け止めようとしていく過程にあることが分かる。
ハッとさせられるショットがいくつかあるが、白眉は真っ暗な部屋で眠っていた主人公が起き上がるところだ。白い枕の沈み込みに、間違いなく主人公が「生きている」という実感が表れる。まるで体温までスクリーンから伝わってくるような、力を持ったショットだった。
その部屋がフェリーの船室であることが後でわかる。