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「フィロキセラのヨーロッパ侵入」とスコットランドとの因縁 《ブレンディッド史⑥:最終回》

■ブレンディッド・ウイスキーの歴史:6話目/最終回

スコッチ・ウイスキーがいかにして、「スコットランドやアイルランドの田舎の人が飲むダサいお酒」から、フランスやイングランドの貴族も嗜む「イケているお酒」へと駆け上がったのかをご紹介する最終回です。

◇前回までのおさらい

19世紀半ば(1860年くらいまで)は、ヨーロッパの貴族階級(フランスやイングランド)で好まれていたのは「葡萄のお酒」であり、その中心は『ワイン』だった。

1860年頃になると

・連続式蒸溜機の普及によりグレーンウイスキーが誕生

・モルトウイスキー×グレーンウイスキー=ブレンディッドの誕生

によって、スコットランドのウイスキーは人気を博すようになった。

その人気の追い風となったのが、葡萄の樹を枯らせてしまう害虫「フィロキセラ」!

この害虫が1860年代にアメリカからやって来ると、ヨーロッパ全土の葡萄の樹が枯れてしまい、「ヨーロッパ貴族が嗜んでいた『葡萄のお酒』がつくれなくなった。 
(1890年代に対策=接木が編み出されワイン生産は復活)

このワイン欠乏の時期に、貴族たちに飲まれるようになったのが「スコットランドのブレンディッド・ウイスキー」。

こうして、スコッチ・ウイスキーは、ヨーロッパ(当時の世界の中心)でワインやコニャックなどと肩を並べる「至高のお酒」として嗜まれるようになった。

ちなみに、フィロキセラのヨーロッパへの侵入には、産業革命の賜物である「蒸気船」が大きく影響している!

今回はこの続きからです。


■スピードUPした蒸気船

1860年代には蒸気船が格段にスピードUPし、ヨーロッパでのフィロキセラ蔓延へと繋がって行くのです!

ここからの展開は書籍より引用します。

アメリカからの苗木の輸入は古くから行われていたが、以前にはそうした事態はまったく起こっていなかった。人々は首を傾げた。しかし、理由は間もなく解明された。1860年代から海上輸送が革命的に変化し、ブドウの苗木の輸送スピードがアップしたことが原因だったのである。帆船が蒸気船へ代わり、たった10日間で大西洋を横断できるようになったために、元気なフィロキセラがヨーロッパに持ち込まれ、またたく間に蔓延したのである。

知っておきたい「酒」の世界史P196 宮崎正勝・著 
角川ソフィア文庫

このように「フィロキセラ」のヨーロッパでの蔓延の本質的な原因は、「産業革命」なんです!!


■変化の激しい1860年代

それにしても、1860年代って色々なことがありますねー。

◇1860年代

・連続式蒸溜樹の一般化でグレーンウイスキーが普及。

・法改正で、スコッチのブレンディッド・ウイスキーが誕生。

・産業革命の賜物である蒸気船が超スピードUP!

・その蒸気船がフィロキセラを持ち込みヨーロッパの葡萄がほぼ全滅・・・

・ヨーロッパ貴族に、スコッチ(ブレンディッド・ウイスキー)が浸透。

(※1867年に、江戸幕府が明治天皇に大政奉還。)


■マニアックにもう一歩、深掘り!

産業革命の象徴とも言うべき蒸気機関。

この蒸気機関が、機関車や蒸気船といった移動手段をはじめ、産業の生産現場にも導入され(もちろんウイスキーの生産現場へも!)、社会を一変させました。

そしてプラスの面もあれば、フィロキセラのヨーロッパでの蔓延といったマイナスの面もあったわけです。

この蒸気機関について、その発祥を確認してみたいと思います。

蒸気機関を初めて実用的&商用的に使える段階に持ってきたのが、かの有名なジェームズ・ワットさんです。

電球の単位の「ワット数」のワットさんですね!

◇ジェームズ・ワット

ニューコメン型蒸気機関へ施した改良を通じて、イギリスのみならず全世界の産業革命の進展に寄与した。

ジェームズ・ワット - Wikipedia

なんと、このワットさんですがグラスゴー大学で計測器製作の仕事に従事していた『スコットランド人』なんです!!


■まとめ

産業革命の賜物である蒸気船が、フィロキセラという害虫をアメリカからヨーロッパに持ち込んだことで、ワイン用の葡萄の樹がほぼ全滅。

そこで代替品としてヨーロッパ貴族に飲まれるようになったのが、スコットランドの「ブレンディッド・ウイスキー」

こうしてスコッチは、ワインやブランデーといった貴族の嗜むお酒と、肩を並べるようになりました。

ただ、その産業革命の核とも言える「蒸気機関」をつくり上げたのは、

『スコットランド人』
ジェームズ・ワットさん!

驚くほどの、スコットランドとの因縁!!

歴史の不思議さ・面白さ・神秘を感じずには、いられません!

以上で、6話に渡ったブレンディッド史の完結です。

お付き合い、ありがとうございました!

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