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学級旗
これは、私がかつて犯した大きな過ちについての話だ。
中学生の頃、体育祭における学級活動の一環として、クラス単位での応援に使う「学級旗」を制作することになった。
生徒一人ひとりがイラストの形で案を持ち寄り、多数決で選ばれたものが採用され、その後は発案者を中心にポスターカラーを使って制作を進めることになっていた。
季節は3年生の秋。高校受験を控えていた私に当然旗のデザインなどに労力を割く余裕などはない。ものの数分程度のやっつけ仕事で作り上げた案を提出し、他の誰かが挙げてくれるであろう素敵なアイデアに一票を投じるつもりで、私は自分の案のことなど早々に忘れてしまっていた。
やがて全員の案が出揃い、しばらくの掲示期間を経たのち無記名での投票が行われた。そして厳正なる集計の結果…なんと私の案が選ばれてしまったのだ。
私は全くと言っていいほど嬉しい気がしなかった。何しろ捨て駒のつもりで適当にでっち上げたデザインだ。おまけにその頃の私にとって学級旗の制作など学業における負担以外の何者でもなかったのである。
しかし多数決で選ばれてしまった手前、断るわけにも行かない。そもそも当時の私は完全無欠の「優等生」キャラを演じきっていたので、学級旗のデザイン一つであろうと任された役割を放り出すという選択は到底考えられなかったのだ。
そこで私は今考えうる限りでも最悪の手段に打って出た。制作を全面的に任されたのをいいことに、真っ白な旗に元のデザインと全く異なる下絵を描いたのだ。手伝ってくれていた同級生たちも制作が進むにつれて次第に首を傾げ始めた。「こんなデザインだったっけ?」「なんか元々のと違くない?」私は口々に発された疑問に対してあっさりと答えた。「これでいいんだよ、だって私が選ばれたんだから」。
「優等生」たる当時の私の言葉に異を唱える者はいなかった。色塗りを始めた頃、様子を見にきた担任の先生が流石に異変に気づいて「どうしてデザインを変えたの?」と質問してきたが、私が「気に入らなかったので」と答えると、「そうか」と言ったきりどこかへ行ってしまった。周りの同級生たちの反応は「これはこれで格好いいから良い」といった感じだったと思う。もちろんそれと異なる考え方が当然あったと思うのだが、少なくともそれらは私の耳に入らずじまいに終わった。
結局、その学級旗が応援に使われるところを私が実際に見ることはなかった。ちょうど親戚の不幸が重なり、体育祭そのものを欠席することになったからだ。
体育祭の朝、同級生たちは自分達が選んだのとは全く異なるデザインの旗が掲げられるところを見て何を思っただろう? 現在の私には想像するべくもないが、ひょっとするとそれはどこかモヤモヤとした違和感のようなものだったのかもしれない。今まさに、私たちがこの世の中に対して抱いているような。