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FF14 光の連続小説 【とある喫茶店のバックヤード 第6章】

振り子時計の振り子は地震などの揺れで止まることがある  

© SQUARE ENIX

第6章 とある彫金工の話

 三人と一匹の、食事の時間を切り裂いた轟音とも呼べる爆発音は、時間と共にだんだん遠くなっていき、今では代わって降ってきた雨音が聞こえるまでになっていた。

 最初の空の輝きからどれくらいの時間が経っただろうか。とても長く感じていたが、おそらく時間にしたら数10分の事なのであろう。

 あの場で唯一まともに動いていたのはゴブだけだった。

 

『空をミロ』といち早く異変に気づき、俺たちに警告したのはゴブだった。

 そして、空から無数に落ちてくる炎弾をひと目見たゴブは、まず震えて動けなくなっていた、おばさんとマーニュを一階から地下へ誘導。二人を椅子に座らせ、安全を確保してやっていた。

 俺はというと、バハムートを見てただ立ち尽くしていた。二人を誘導後、戻ってきたゴブの一喝で正気を取り戻す。

 俺はゴブと共に幾つかの一階の家具を地下へ運んだ。

 エントランスの足元を優しく照らしていたランプ、趣のある受付台、おじさんが各地を周って描いたという絵。

 そしておやじの思い入れも強い振り子時計……。俺はなんとかしてこれを運ぼうと思うも重すぎて全く動かない。

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「ソレハ無理だ、オイトケ」とゴブは、諦めきれず時計にしがみつく俺を、地下へ引っ張っていこうとする。その直後だった。

 ドガーン!耳を裂く轟音と共に屋根に何かがあたり、天井からシャンデリアが落ちてきた。

 後から知ることになる。破裂したダラカブの破片が屋根をかすっていた。

 まさに間一髪だった。

 ゴブに手をひかれ、俺はぎりぎりで地下へ逃れることができていた。

 

  ー 静かだ。

 1階の細かい瓦礫の崩れる音や、ガラスの割れる音などは聞こえる。だが絶え間なく続いていた爆発音、大地の揺れなどは無くなってきた。

 振り子時計はどうなっただろう…おやじ達は無事だろうか…俺たちはこれからどうなるのだろう……一気にさまざまな思いや不安が押し寄せてくる。

 寒い、痛い、足が動かない、怖い、潰れそうだ……。

 そしてそのうち俺は……何も考えられなくなってきた。

 おそらく、絶望というのは…こういうことなのかもしれない。 

 人は極限状態に追い込まれると、行動がふたパターンに分かれるという。

 もがいてもがいて、懸命に生きようとするか、無感情になり全てを捨ててしまうか。

 おそらく俺はこの時、後者を選び自暴自棄になっていた。

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 だが震えるマーニュをその手に抱えていたおばさんは違ったように思う。

「ロビン君、ゴブちゃんありがとう。私達を救ってくれて」

 動いていたのはほぼゴブの奴だ。俺は慌ててゴブに付いて行ってたに過ぎない。だがそれでもおばさんの言葉は不思議と俺に染み渡った。

 男親どもがここから発っていった時から徐々に失われてたおばさんの優しい表情も、この時戻った様に思う。

 おばさんはこの極限状態でふるえるマーニュを抱いていた事で、母心が思い出されたのかもしれない。母は強かった。

 

 だが状況が変わったわけではない。

 先ほどまでの喧騒とは違った、不気味な静けさが今はある。

「ロビン君、一つ頼みがあるの」おばさんは俺が落ち着いたのを確認するとこんな事を言ってきた。

「振り子時計、今から直すことできるかな」

 俺が重すぎて運び損ねた振り子時計。今音はなく止まっている。あんな被害のあった後だ。直すどころか、グシャグシャかもしれない。

「大丈夫。あの振り子時計が簡単に壊れてしまうはずないわ」

 俺の不安を拭い去るようにおばさんは自信たっぷりに言う。そしてこうも言った。

「あんなにお父さんの振り子時計触るとこ見てたんだもん。絶対直せる!」

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 確かに俺はおやじの調整してるのを毎回見ていた。内部の構造、仕組みは理解している。ただ調整と直すのとは訳が違う。でもまたなぜこんな時に…。

「マーニュを落ち着かせたいの。あの振り子時計のカチコチって音ね、マーニュたぶん好きだと思うんだ。ほらあの振り子時計たまに狂ってくるでしょ。それ一番先に気づくのマーニュなんだよ」

 そうなのか……ただ直すには腕以外にも、もう一つ問題があった。

「時計直せるかはわからないし……それに工具がないよ」

 あの振り子時計を直すのには専用の工具がいる。それを持っているのはおやじだ。鋭利な工具で危ないからといつもダイヤル錠付きの箱に入れて、俺には触らせてくれなかった。今そのおやじはいない。

 

「ゴブちゃん倉庫からあれ持ってきて」おばさんはそういうとゴブにある物を持ってこさせた。ー あの工具箱だ!

「実はね、これロビン君のパパから戦場に発つ前に、もし自分に何かあった時の為にって私に預けていったんだ。あの振り子時計に使う工具箱でしょ」

 そういうとおばさんはそのダイヤル錠付きの箱を俺に渡した。

「それともう一つ…これ、渡したくはないんだけど」

 手紙だ。

「私は縁起でもないから預かるだけのつもりだったんだけれど、渡すなら多分、今だよね……」

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 おやじ……。俺は工具箱と共に手紙も受け取った。
 
”ロビン、お前がこの手紙を読んでいるということは、俺自身でこの工具を渡せなかったということだ。 
 直接渡せず、すまない。まあ俺の事だこんなこともある。
 お前には大したことは何も残せてやれなかった。
 だが俺の仕事は見ていただろう。
 お前には俺に似て機械いじりの才能がある。
 おそらくピアノバーの振り子時計も調整することができるはずだ。
 工具はお前に託す。慌てて怪我をするな。必ずできる。
 ダイヤル錠の番号はお前の誕生日にしてある。本当は十八の誕生日に渡す予定だったが…少し早いけど受け取ってくれ。
 彫金工になれとは言わないが、あの時計は見てやってほしい。
 俺からの最期の頼みだ。
   
 自分の幸せは誰かを幸せにしてやったご褒美だと思っている。
 俺にとってお前という息子、ロビンは母さんからのご褒美だ。
 また母さんに会えたらお礼言っとかなきゃな。
 そしてお前にも。今まで息子でいてくれてありがとう。"

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 おやじらしい、勝手な文章だ。

 しかし自暴自棄気味になっていた俺にも目標ができた。

 振り子時計を直す 俺の彫金工としての初の仕事だ……。


 俺も誰かを幸せにする事ができるだろうか。

 俺はダイヤルを俺の誕生日に合わせ、工具箱の錠を解いた。

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第6章 とある彫金工の話 終わり


幕間コーヒーブレイク⑥

著者Charle Magneによつ、喫茶店スタッフさんへの突撃インタビュー。
第2弾となる今回は、ベテラン店員のモジャオさん。

Charle Magne(以下しゃる)
 モジャオさん、よろしくお願いします。早速ですがこのお店の一番の魅力は何だと思いますか?

モジャオさん(以下モジャオ)
 そりゃやっぱりマスターの淹れるコーヒーの味じゃないか。この店やる前はピアノバーだったんだけど、その時のママのコーヒーの味、しっかり受け継いでる。

しゃる:なるほど、モジャオさんはその時からこちらにいらっしゃるんですね。でもそれほど長く働かれている理由は何でしょう?

モジャオ:これ記事にするのか?

しゃる:ええ。インタビュー部分は脚色せず、ありのままを載せさせていただく予定です。

モジャオ:うーん…、そう、あれだあれ、マスターのサポートだ。マスター幼馴染でほっとけなくてな~。ははは。

しゃる:わかりました。えーと、何か他にも理由があれば…

モジャオ:ないない。もう終わりでいいんだよな?おつかれー。

しゃる:あ、はい。ありがとうございました。

 なにやら逃げられた感もあるが、ともかくウソは無さそうではあり、良い喫茶店で、スタッフにとっても働きやすいのは間違いなさそうだった。


7章へ続く


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