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FF14 光の連続小説 【とある喫茶店のバックヤード 第1章】

この話はエオルゼアの一画にある
とある喫茶店での裏話をまとめたものである

© SQUARE ENIX

第1章 とある喫茶店の店長の話

 ―なあフェイ、ピアノの音色と雨音って似てるか?

 私は降り始めた雨をみながら、昔そう聞かれた事をなぜか思い出した。

 家を出る前に天気予報は見ていた。しかし初出勤の緊張からか傘の事まで頭は回らなく、雨が顔に当たった頃には取りに戻るには遅すぎた。

「ぜんぜんピアノと雨音、似ていないよな……」


 店のあるゴブレットビュートについた頃には私はすっかり濡れていた。遠慮がちにドアを開けると、激しい雨の外とは打って変わり、店内は静かだ。大きな振り子時計の音だけが響いている。カチ、コチ、カチ、コチ。

 短い針は10と11の間。長い針は9の位置を指していた。

 お店の営業時間は、23時からなので開店までにはまだ少し時間がある。

「濡れちゃったねえ、フェイちゃん。でも水も滴るいい女ともいうか」

 そう言いながらタオルを渡してくれた、ここの喫茶店のマスターは、いつもマイナスのイメージをプラスにかえてくれる。そんな所も私がこのお店で働きたいと思った理由のひとつだ。

 しかしそれにしても”水も滴るいい女”って今時使う人はあまりいない…。

 マスターは見た目は若く見えるが、表現や話題はその見た目とは裏腹に古風なとこがある。もっともその感じは私も嫌いではないけれど。

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 お店の雰囲気にもそういうところがでていた。


 吊り下げられたペンダントランプ。

 木目調のカウンター。

 壁の棚に飾られたコーヒーカップ。

 大きめの振り子時計。

 年代物の蓄音機。


 そんなお店のレトロな雰囲気も私は好きだった、哀愁漂うような。落ち着くような。


 私はかつてここにお客さんとして来ていた。

 最初にここを見つけたきっかけは、なんだろう…あの時いやなことがあって家を飛び出し、とぼとぼ歩いてて…。

 その時たまたま見つけたのがこのお店。お店の名前が”キラキラ”して見えた。なんだか素敵な新しいこと始まるような。

 そして引き寄せられるように扉を開けた時から、私はこのお店の虜だ。

 中でも私のこの店のお気に入りが、店内にかかるBGM。ピアノで奏でられるBGMの数々は、お店をただのレトロテイストにだけではなく、高級感も演出する。

 当時の私はピアノのBGMが聴きたいがためにコーヒーを何杯もおかわりしたものだ。


「マスター、そろそろBGM流していいですか?」

 今日からここで働かせてもらう。

 まずはお気に入りのBGMをと、私は早る気持ちを隠しながら蓄音機に手を伸ばした。

「あ、ちょっとまってフェイちゃん、その蓄音機じゃないの」

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 開店前のお店にはあいもかわらず、振り子時計の音だけが響いている。


「実はね、このお店のBGMはその蓄音機からじゃないんだ。その蓄音機はお店の閉店時間をお客さんに知らせるときにだけ使うの」


 そう言うとマスターは、地下へ私を招くような仕草を見せた。

「このお店の『秘密』をひとつ教えてあげる」


 私はこのお店のお客さんだった頃から、お店に地下があることは知っていた。しかし扉で隔たれていたため、おそらくプライベート空間なんだろうなと思い、その先の地下の事は特に触れずにいた。


「じゃーん。このお店のピアニストでーす」

 地下に先に進んだマスターは子供のような笑顔をみせ、その場所を私がまだ見えないにもかかわらず、見せつけるように手で指し示していた。


 ひと足遅れで私が地下に行くと、そこには一台の大きなピアノと、演奏椅子に座る一匹の(いや、一人というべきか)ゴブリンが座っていた。

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「紹介するね。彼がうちの店のBGMを担当するゴブリン族のピアニスト、通称ごぶちゃんです!」


 おそらくその時の私は目を丸くしていただろう。口もぽかんと空いていたかもしれない。「ゴブリンがなんで…」

 そんな私の様子を見たマスターは続けてこう言った。


「混乱するよね。ゴブリンがピアノ弾いてるんだもの。そうなるよね」

私の反応はマスターにとっては予想通りだったらしい。


「フェイちゃん、今日から働いてもらうし、説明させてもらうね。あーでもここじゃアレだし、上に戻ろう」

 そう言うとマスターは、ピアノの前に座るゴブリンに何やら指示を出し、階段を上っていった。

 そしてそれを合図に、私の目の前でゴブリンがピアノを弾き始める。

 美しいピアノの音色が店内に響き渡る。


 その音色はまさに、私のこのお店の一番のお気に入りであった、ピアノのBGMそのものだった。

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 振り子時計のカチコチ音とピアノの旋律は、とてもなじんでいた。


「そうだな、まずごぶちゃんとの出会いから話そかな」

 マスターはそう言うと、彼女がそのゴブリン”ごぶちゃん”と出会った時の話をし始めた。


 ーあれはまだ私が喫茶店を始めたての頃でね、その日もちょうどこんな雨降りだったよ。

 まだお客さんあまりいなくてね、私はのんびりとお店の開店準備をしてたんだ。それでそろそろ開店時間だって事で、お店の外灯をつけに外に出たら看板の前にずぶ濡れのごぶちゃんが立ってるんだ。

 ごぶちゃんはゴブリンだけどさ、その時は決まって来てくれるお客さんもまだいないし、偉そうにお客さん選んでる場合じゃないなと思って私「お客様ですか?まもなく開店します」って声かけたんだよ。

 そしたらごぶちゃんは、私にこう答えたんだ。

「客ではない。ソレヨリこの店にピアノはあるか?」って。

 当時はまだお店もこんなにきちんとしてなかったんだけど、前オーナーが置いていったピアノはあってね。でも私ピアノは弾けないから、ほぼ倉庫に入れちゃってたんだ。だけどいつか弾けるようになりたいなとは思ってて、たまに引っ張り出して練習してたんだよ。

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 たぶん私が練習してた時の音、たまたま聞いたんだろうね。

 私は気味が悪かったけど、ゴブリンだしお客さんでもないのにそんな店先にずぶ濡れで立っててもらってちゃ、普通のお客さんですら入りづらいじゃない。だからとりあえず、お店に入ってもらったんだ。

 それで、ごぶちゃんお店に入って何言うかなと思ったら、また同じこと言うだけ。「この店にピアノはあるか?」って。

 私はここでピアノは無いって嘘つくと、今後ピアノはここで練習できなくなるなと思って、正直に有るって答えたんだよね。そしたらごぶちゃん今度は「ピアノを弾かせてクレ」と言うんだ。

 すごく嫌だったけど、開店時間も迫ってきててさ。ここで揉めてる時間もないから、私はピアノ1回弾かせ満足させ、帰ってもらおうと思ったんだ。

 それでとりあえず弾いてもらったの。

 そしたらそれがものすごく上手い!

 私ピアノ全然詳しくないけど、ごぶちゃんの弾くピアノは力強かったり、と思えばしっとりと流れる様だったりで、なんだろう、聞いてると心が綺麗になっていく感じがするんだよね。

 それからだよ。ここで弾いてもらってるのは。


 と、マスターはそこまで言うと、今度は独り言のようにこうも言った。

「でもごぶちゃん、なんでピアノ弾きたいかは教えてくれないんだよね」

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「あっそろそろ開店時間だね」

 マスターのその声に促され、私は振り子時計を見た。振り子時計の短い針は11のところ、長い針が12にかかろうとしている、開店3分前だ。

 私は一気に緊張感が高まった。失敗したらどうしよう、マスターにご迷惑かけちゃわないかな…。

 その時店内のピアノの音が急に止まった。

 再び存在感を増す、振り子時計のカチコチ音…。

 私は慌てた。え、私さっき地下でごぶちゃんに失礼な事しちゃった?もしかしてごぶちゃんを見た時、変な顔になってたかも…。

 しかしそんな私の心配は杞憂に終わった。束の間を置いてピアノは再び旋律を奏でだしたのだ。曲目を変えて。

「あれ?この曲って…」私はその曲に聞き覚えがあった。題名はたしか…

   ープレリュードー

 それは私が新しい冒険を求め、エオルゼアに来た時に流れていた曲だった。

「さあフェイちゃん、新しい世界がひろがるよ」

 マスターはそう言うと私にウィンクした。

「はい!今日からよろしくお願いします!」


 曲は聞き馴染みのに戻った。私はお店の外灯をつけに外に出る。

 外はあいかわらず雨が降っていたが、その雨音も今はなぜだか心地よい。

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第1章 とある喫茶店の店長の話 おわり


幕間コーヒーブレイク①

「マスター、コーヒーありがとうございます」

「お疲れ様。ありがとねー」

「あれ?この大きな振り子時計の振り子って1秒刻みじゃないんですね」

「振り子時計の振り子はただの歯車の調整役だからね」

「ふーん。でもなんだか落ち着きますね。この振り子の感じ」

「でしょ。落ち着くリズムじゃない?」

「はい。たしかに」

「ここのBGMはピアノだけど、実はこの振り子時計も関わってるんだ。一定のリズムが安心するの。ピアノはあくまで彩り」

「へ-そうなんだ!」

「だから逆にごぶちゃんの本当のすごいとこはね、この振り子時計に弾き方を合わせてくれるとこなんだよ」


第2章へ続く


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