FF14 光の連続小説 【とある喫茶店のバックヤード 第7章
大切に扱った道具は人を裏切らず、裏切るのは常に人の方だ
第7章 とある幼き彫金工の話
工具は組み立て式であり、組み上がった姿はさながら剣のようである。
両手剣フランベルジュを模したその形状は、鋭利な柄のような部分が二つ
ある。そして刀身も波打っており、確かに子供が扱うには危ない。
工具としての使い方は、刀身を時計側の対応する穴に一つ目の柄が当たる
まで差し込み、その後二つ目の柄を持ちひねる。そうすると時計の扉が開く。
おやじは『これを作った工匠は、時計の ”時を刻む” と 剣の ”切り刻む” をかけたんじゃないか』と言っていた。
何度おやじに頼んでも指一本触らせてもらえなかった工具。
そして今となってはおやじの形見だ……。
ゴブから工具を受け取り中身を確認した俺は、再び工具を箱に戻し錠をか
けた。おやじも時計を直す時以外は工具は箱に入れていた。そういう所も俺は受け継ぎたかったのかもしれない。
工具箱を抱え、1階の振り子時計に向かう。潰されてなければいいが。
店の1階は元の状態が思い出せないほど、壊れてしまっていたがおばさん
のいうとおり振り子時計は僅かに傾いている程度で、大きな損傷はなかった。
まず俺は周りの瓦礫を片付ける所から始めた。
悠長にやっているわけではない。振り子時計にとってこれもまた重要な作
業だ。設置場所の安定さを欠いた状態では、振り子が正確に動かないのだ。
ゴブにも来てもらい手伝ってもらった。この大きな振り子時計は少し場所を動かすだけでも幼き俺には大変なのだ。
安定した場所を確保し、工具で振り子時計の扉を開ける作業にかかる。
俺はランプをかざし時計側の差込み口を探した。1階はシャンデリアが落ちていて光源がない。こういう時ランプのありがたみがわかる。
差込み口は時計の裏の手の届くところにあった。俺は再び工具箱の錠を解き、工具を組み立て、刀身を模した部分を柄が当たるまで奥まで差し込む。
時計の奥の仕組みに工具の先が噛んだのを確認し、反時計周りに回す。
振り子時計の扉が静かに開く。よし変形もしていないようだ。
時計の針を外し、文字盤を落とさないようゆっくりと外す。ポッカリと開いた穴から覗くと中には幾つもの歯車。
「ゴブ、ランプもう一つ出してくれ」
ゴブに遠くからひとつランプを持たせ、俺は時計の中を照らし一つ一つの歯車にランプの光を当て、外れまたは欠けていないかチェックしていく。
「あった!あれだ、あの歯車が外れている!」
一つ一つ順番に重なり合う歯車を外していく。おやじは簡単にやっていが、俺は順番をメモしつつやる。何一つ間違うわけにはいかない。
「よし!」俺は目的の歯車をついに手にした。
しかしその安堵は本当に一瞬だった。
「欠けている……」
時計が古いというのもあったのかもしれない。歯車は外れているばかりではなくその一部が欠けていた。俺は絶望で手で顔を覆った。
「ドウシタ?モジャオ。ノンビリヤルナ続ケロ」
そばでその様子を見ていた、ゴブが声をかけてくる。
「だめなんだ。歯車が欠けちゃってる。もう直す事はできない」
俺は歯車をゴブに投げつけようとした、が直前で思いとどまり歯車は力無くゴブの手前に落ちた。
ゴブは落ちた歯車を見つめている。
「オナジくらいのハグルマ、俺モッテル。イマミテミル」
その言葉に俺は一瞬希望を抱いたが、すぐに思い直した。
振り子時計に限らず、時計というものは精密機械。歯車一つでも、同じ物でない限り代用はきかない。「無駄だよゴブ。あうわけない……」
「コレドウダ」
ゴブは俺が投げつけ損なった欠けた歯車と、新たに鞄から出した歯車を並べ、俺に見せてきた。
無駄だと思いつつ、ゴブの好意だ。俺は仕方なしに見てみる。
確かに似ている……いや、全く同じものだ!
「ゴブ、お前これなんで?」俺は興奮を抑えられず問いただした。
「コノ時計と同じ時計、オレ自由都市二イタ時持ってた。ケド青の手のワルいヤツにイジメられ壊サレタ。コレはコワされた時計のハグルマダ」
自由都市。確かおじさんがイディシャイアでゴブを拾ったって言ってたけど、多分その時のことだな。
「マーニュのパパさん、アコーディオン売って、同じ時計カッテクレタ。壊されないヨウニとオレと時計、この店にオイてくれた」
だが同じ時計の歯車といえどいくつも種類ある中で、今欠けたのと全く同じ大きさの歯車、奇跡的にゴブが持って帰っているとは……。
「壊サレタ時計、コノハグルマだけ ”キラキラ” 光ってタ。パパさん、それはタイセツにオマモリで持ってオケって言っテタ」
「キラキラか…でもいいのか使っても?ゴブの大事な ”おまもり” だろ」
「ツカエ。オレもマーニュをマモリたい」
俺は頷いた。「ありがとうゴブ、大切に使わせてもらう!」
メモを見ながら慎重に歯車を組み直す。集中力が増してくる。自然と手が動く。メモはもはや要らなかった。文字盤をはめ針をつけ、ゼンマイを巻く、大丈夫しっかり噛んでいる。あとは正確性。振り子を動かしてみる……。
カチ、コチ、カチ、コチ……。
振り子は正確に、一定間隔で、リズムを刻んでいる。
「やった成功だ!おばさん直ったよー!俺やった!」
おばさんからの返答はない。俺は気になり片付けもせず、すぐさま地下へ走っていった。
駆け寄る俺を見たおばさんは口元に指を一本立てた。
「泣きつかれたのもあるかな。マーニュ、時計のカチコチ聞いてすぐ寝ちゃった。ありがとね。ロビンくんならやれると思った」
おばさんの手に抱かれて、マーニュは静かに寝息を立てていた。
第7章 とある幼き彫金工の話 おわり
幕間コーヒーブレイク⑦
著者Charle Magneによる、舞台でもある『純喫茶クロネコ』のスタッフさんへの突撃インタビュー。第三弾となる今回は、BGM担当のゴブさん。
Charle Magne(以下しゃる)
ゴブさん、よろしくおねがいします。何でもゴブさんはこのお店のBGMを担当ということで、ピアノですかね?少し聴かせてもらえますか?
ゴブさん(以下ゴブ)
……
しゃる:えーと…このお店でピアノ弾いてらっしゃるんですよね?
ゴブ:……
しゃる:うーんと、言葉通じるのかな?ピアノ、これ、弾いて、ほしい。
ゴブ:オマエ、マーニュに似テルナ
しゃる:え?マーニュさんというと、この店のマスターの?そ、そんな事、あ、ありませんよー。きっと他人の空似です!
ゴブ:オイ顔チャント見せてミロ。ヤッパリオマエ…。
しゃる:こ、これで質問をおわりまーす。ありがとうございました!
※あまりお話が通じなさそうなので途中でインタビューを切り上げました。
8章に続く
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