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読み切り恋愛短編集【れれこい】 19.アゲイン 834

読み切り恋愛短編集【れれこい】

前日譚⤵️

※読み切りですが、関連のある章には同じヘッダー画像を使用していますので、ご参考になさってください
※ヘッダー•本文中の画像は友人のイタリアンバールです


第19話 アゲイン


 「明日、晩ご飯行ける?」
オノちゃんからLINEがきて驚いた。
だって東京にいると思ってたから。
「昨日から帰ってるのよ
父が危ないんだって
母が、父の家で面倒みてる
17:30でどう?」
 オノちゃんのご両親って離婚してなかったっけ?
お父さんが東京に来たら、デートしてお小遣いをもらうからパパ活だって笑ってなかったっけ?



 約束のお店に着いたけど、未だ開いていない。
てかさ、17:25だよ?
17:30オープンなのに誰もいないってどうよ?
 「お、どうしたん?
こんなとこに立って」
え、え、え‼︎
ちょ、ちょ、ちょ‼︎
待って、待って、待って、ヒロニイ‼︎
……なの⁇ホントに⁇



 こちらに帰ってきたら是非行きたいとオノちゃんが狙っていたお店は、なんと中学時代の同級生ヒロニイがたったひとりでやっているイタリアンバールだった。
しかもヒロニイは、私の片恋の相手。
ヒロニイと最後に会ったのは確か同窓会の日だったんじゃない?
 「お店の前で固まってるから、店員さんに因縁つけられてるのかと思ってビビったわ」
「私の方こそマジで心臓が止まるかと思ったよ。
まさかオノちゃんお勧めのお店でヒロニイに会うなんて……」
「まぁまぁまぁ、お先にお飲み物の注文をお伺いしておきましょうかね?」




 ヒロニイの「気を遣わせなさ」は、中学のときのままだ。
大体、まるで昨日も会ってたみたいに
「お、どうしたん?」なんて言う?
そういうところが好きだったし、今でもやっぱり好きだと思う(実は会うまで忘れていたけれど)。
 さすがに最近では思い出すことも稀だったし、会えるなんて思ってもみなかった。
ずっと好きだったわけじゃないけど、ついさっき、また好きになった。
オノちゃん、ナイス‼︎



 「父がガンで、長くないらしくてね、母に面倒をみてもらいたいんだってさ。
でさ、母が父の家に移り住んだってわけ。
親のことながら、夫婦のことって解らないわ」
「オノちゃんのお兄さん、ご結婚されたでしょ?お嫁さんは?」
「うん、妊娠してるらしいし仕事もしてるしね。
今時、舅の世話を嫁に頼むわけにもいかないしね」
「オノちゃんのお母さんさ、お父さんと別れて何年も経つのに、頼まれたからってお世話するの、凄くない?」
「だからさ、たまには私が東京から帰ってきて助け立ちしてあげるってわけよ」



 オノちゃんのご両親の話を、もっと聴いてあげたいところだけれど、私はヒロニイが気になって仕方がない。
ヒロニイはひとりでバールを切り盛りしているし、私達以外にもお客様がいる。
話したくても話せないのがもどかしい。
 もっとヒロニイと話したい。
今のヒロニイをもっと知りたい。
私のことにも少しくらいは興味を持ってくれるかな?
帰りにLINEの交換くらいはできるといいけど。



 「ご馳走様、また来るわ」
中年のカップル客が帰り支度をしている。
「いつもありがとうございます。
実はここ閉店するんですよ」
何て?何て?
思わず耳がダンボになる。
「こんな美味しい店を閉じるなんて勿体ないやん。
また他所でやるの?近く?」
「岡山の山の方でオーベルジュをやります」
「こいつの実家、そっちの方やで?
里帰りするとき寄るわ。
オープンしたら知らせてな」
 岡山?山の方?オーベルジュ?
せっかく今日、会えたのに?




 オノちゃんは仕事が面白くて、こっちに戻るつもりも結婚するつもりもないらしい(彼氏はいるみたい)。
縁起でもないけれど、もしお父様が亡くなられたら、今までよりは頻繁にお母様に会いに帰って来るつもりらしい。 
 私はと言えば、早くに結婚して、早くにシングルに戻って、生活のためにだけ仕事をする毎日。
気楽だよ、気楽だけど時々、誰かともう一度一緒に過ごす人生もいいかもと思ったりもする。



 オノちゃんとのお喋りに夢中で思いがけず長居してしまった。
気がついたら店内には、ヒロニイとオノちゃんと私だけになっていた。
「プッシュしろ」とオノちゃんが目で合図を送ってくる。
 「ねぇヒロニイ、オーベルジュには彼女も一緒に行くの?」
彼女がいるかどうかなんて知らない。
でもこの年齢ならそんなに失礼な質問でもないだろう、知らんけど。
「いや、ひとりで行くよ。
向こうの仕事は転勤があるからね」
やっぱり彼女がいるのか……
  「ねぇ、LINE交換しようよ」
「いいですよ」やった‼︎
「オーベルジュさ、詳細送って」
「この店のお客さんには、案内しないつもりにしてるんだ。
でも、ふたりで来てくれるんなら待ってるよ」やった‼︎
「行きます、絶対に一緒に行きますから、待っててくださいね」
オノちゃんがグッドタイミングで加勢してくれた。





 オノちゃんは私の恋のキューピッド。
もっともヒロニイと私は(未だ)両想いなんかじゃない。
でもね、オノちゃんがあの日に誘ってくれなければ、あの店を指定しなければヒロニイとは再会できていなかった筈。
食事の後カフェに移動でもしていれば、他のお客様の手前、LINE交換もできてなかったと思う。
 実はオノちゃんには内緒で、もう一度ひとりでお店に会いに行ってみた。
ヒロニイには、私が来ることは想定内だったみたい。
彼女さんのことは気になるけれど、再びの繋がったラッキーを育んだっていいよね。
これからもヒロニイを想い続けたっていいよね。





秋実あきざねれれ子)


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#66日ライラン  25日目
#ヤス_ウエダヤスシ 様⤵️

#note祭 #プリン 様⤵️

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ちゃりれれ【時々ジャイアン】
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