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【握手】に2ヵ所だけ文章を足すことによって、より純愛に。この繰り返しを【創作】という。

「握手して」

日曜日の午後5時25分。
付き合って3年、同棲を始めて1年半の彼女が突然、僕に握手を求めてきた。

「は? なんで?」
「いいから、握手して」
「だから、なんで?」
「私たち付き合って3年よね? 私たちって実は握手したことがないのよ。手を繋いだことはあるけど、握手はないの」
「あー。言われてみれば」

彼女の言う通りだった。互いに28歳の僕らは確かに握手をしたことがない。

「じゃ握手しようか、はい」

僕は手を差し出した。

「え? 本当に握手するの? せっかく3年もしてないのにさ、こんなタイミングで握手するの勿体ないよね」
「うーん。理解できないこともない価値観」
「アナタと付き合って良かったと思える瞬間。こうゆう時に感じるの」
「握手以外にもしたことがないことは山ほどあるよ」
「えー、何があるかな?」
「こうゆうやつじゃない」

僕は彼女の唇にキスをした。

付き合って3年。初めて彼女にキスができた。

こんなキザな方法でキスができるのであれば、もっと早くにできたのでは!? と少しだけ心の中でニヤけた。

要は僕らは初々しい。

それが誇らしい。

僕は彼女が好きだ。

彼女の顔は赤く染まっている。

そんな彼女は僕にこう言った。

「顔、真っ赤っかじゃん」

どうやら僕の顔も赤いらしい。

彼女の顔も赤いことは内緒にしとく。

彼女との初めてのキス。

彼女は僕だけが顔を赤らめたと思っている。

僕だけが知っている。二人とも顔を赤らめていたことを。

僕らは初々しい。

2回目のキスが3ヶ月後に訪れることを僕らはまだ知らない。