移ろい菊。白菊から赤紫へ
母が庭に植えてくれた白い小菊が、今年はたくさん花を咲かせてくれました。
見慣れているはずの花ですが、庭に咲く花を毎日眺めているうちに、花の色がだんだん変わっていくことに気づきました。
みんな、菊の花の色が変わることを知っているのかな、と思い、まず母に聞いてみたところ、
「赤くなるよねー」
と、あっさりした答えでした。
菊を育てている人にとっては、当たり前のことなのかもしれません。
続いて、白い菊が花盛りのときに庭の写真を撮っていた娘に聞くと、
「えー!あの時の白い菊?」
と少なからず驚いた様子でした。
色が変わるのは白い菊だけなのかと気になり、黄色い菊も見てみました。
白菊ほど鮮やかな発色ではありませんでしたが、なんとも控えめで可愛らしい花色でした。
菊についてあれこれ調べているうちに、「移ろい菊」という風雅な言葉に行きあたりました。
原産地中国でも、菊は君子と呼ばれるほど愛された花だそうですが、日本でも、桜と並び称されるほど人々の生活に溶け込んだ、身近な存在だったようです。
季語
俳句に使われる季語にも、菊に関係するものがありました。
菊の花そのものではなく、時の流れが感じられる季語をいくつか選んでみました。
菊根分(春)
菊日和(夏)
残菊(秋)
十日の菊(秋)
枯菊(冬)
重ね色目(かさねいろめ)
昔の装束に用いられた色の組み合わせをさす言葉です。
昔、学校で配られた国語便覧に載っていたことを思い出し、あらためて調べたところ、十二単のような重ね着の色の組み合わせだけでなく、織物の透ける特性を活かし、表地と裏地の色の重なりを楽しむ、織物に異なる色の縦糸と横糸を使う、といったことも行われていたそうです。
菊が含まれる重ね色目
菊・白菊
蘇芳菊
紅菊
黄菊
移菊(うつろいぎく)
莟菊(つぼみぎく)
残菊(のこりぎく)
花菊
葉菊
うつろい菊、ありますね。
ちなみに重ね色目の移菊(うつろいぎく)は、寒さにあい、紫に変わった花の色と、葉の緑色を表現したものでした。
盛りを過ぎた、儚さを感じさせる色合いを想像していたのですが、濃紫と緑、補色のコントラストが強く、ちょっと意外でした。
花の盛りだけでなく、移ろうさまをも愛でるところが、日本人らしいと思いつつ、案外ワビサビに終始しない世界観を、昔の日本人は持っていたのかもしれません。
我々より、はるかに豊かで鮮やかな世界を見ていたのかも、と少しうらやましく思っています。
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