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何かのせいにする、そんな夜が、あったっていい

久しぶりに温泉に来た。
そろそろ生理がくるから、行くなら今日だ、と思い立って。
女ってめんどくさい。

早くお湯につかりたくて、つい急ぎ足になってしまう。
私の実家は近くに温泉があって、子供のころからよく入りに行っていた。
だから、大人になった今でもたまに温泉に行きたくなる。

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大量のお湯に全身が包まれた瞬間、つい「はぁ~っ」と声が漏れてしまう。
「風呂は命の洗濯よ」ってミサトさんが言ってるけど、これこそ、洗濯スタートの合図だ。

平日の夜だからかな、大浴場を独り占め。今日は運がいいらしい。

露天風呂も、もちろん入る。

冬のキンとした空気と熱いお湯が心地よい。

気が付いたら私は、深い呼吸をしていた。そこの空気が綺麗かどうか、本当のところは知らないが、空気が美味しいとはこのことかもしれん、と思った。

すーっ・・・ はぁ~~~

目の前に、白い息が現れる。

遠くの街灯をぼんやり目に入れながら、
そういえば最近、しっかり息を吸っていなかった、と思った。

最後に深呼吸をしたのは11月26日だ。

なんでそんなこと覚えているかって、その日は演奏会だったから。
私はトロンボーンを持って、ステージに立っていた。

管楽器奏者は音を出すために、必然的に大量の空気を取り込む。
昔は部活で、空の牛乳パックを使った腹式呼吸やメトロノームに合わせて息の流れを手で表しながら必死に腹式呼吸の練習を何十分もしていたな。(それが実践で活かされていたかはわからないが…)

「あぁ、だからか…」

私は、露天風呂に入りながら白い息をお供につぶやいた。もちろん周りには誰もいない。

だから私は落ち込んでいたのか、と思った。
ここ数日のどんよりは、空気が足りなかったせいなのだ、と。

実際には、そんなこたぁないんだろうけど
そんなことを理由にしたって、いいじゃないかと思えた。

落ち込んでいる理由を、呼吸1つのせいにしたっていい。
きっと今日は、そんな身勝手を許されてもいい夜だ。

私は1ヶ月分くらい、吸っておいた。

「へんなの、鯉みたい。」

満タンになったら笑えてきた。

よかった、私、ちゃんと笑えてる。


命の洗濯、完了。



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