40 母が歩いた日
母は寝たきりで、もちろん歩けない。
「歩けないから、体を動かす機会がなくてますます弱ってしまう。だからせめて手を動かしておくか」
なんて言って、腕の体操をしていたこともあった。(手もだんだんしびれが酷くなり、動かせなくなってしまいましたが。)
退院したての頃は
「歩いた夢を見たよ!」
と、話していた。
しかし、ラストラリーに突入し、母は言い出した。
「歩いて2階まで行ったんだよ」
「キッチンまで歩いて行ってきたよ」
「私も知らなかったんだけど、いつのまにか歩けるようになったみたい。不思議だね〜!」
家族だけでない、お医者さんにも、お見舞いに来るお友達にもそう話していた。
もちろん、みんな否定なんかしない。
「そうなんだ!よかったね〜!」
笑顔でそう返す。
ラストラリーは本当に不思議だ。
身体の集大成。
母の細胞の全てが、最後の力を振り絞って
母を歩かせたんだ。