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Hi there!
シンガポールクッキー専門店Changi CookiesのMarinaです。

なぜクッキー屋をやってるの?とよく聞かれる。
今までは
「クッキーが好きだから」
とこたえていたのだが
最近、別の理由が判明した。

今日はその理由についてお話しよう。



マレー人とクッキー

クッキーづくりのインスパイア元はマレー人である母だ。
イスラム系マレー人は飲酒が禁止されていることが影響しているのか
嗜好品として甘いものをよく食べる。
よく食べるだけでなく、「おもてなし」としても提供される。

年数回ある行事では、親戚や友人・知人のお宅に訪問する文化があり
その際、ほとんどの家ではクッキーなどのスイーツが提供される。
スイーツを提供しないご家庭は記憶にないくらい、
必ずと言っていいほど提供されるのだ。

そのスイーツを購入する方もいれば
手作りのものを提供する方もいる。

私は各家庭のスイーツを食べることが特に好きだった。

幼稚園からシンガポールにある日本人幼稚園に通っていたこともあり
(日本でいうインターの幼稚園に通うイメージ)
母の母国語であるマレー語は多少理解ができるものの
堪能に話せなかったのでマレー語の会話には参加できなかった

お話大好きなマレー人たちの会話は長いし
テレビもマレー語のチャンネルで
とにかくつまらない

そんな状況に置かれた子どもの手が
スイーツに伸びるのも最早必然的ともいえる


母のクッキー


母は手作り派である。
その数もおびただしいもので、高さ10㎝程度の容器にぎっしり詰まった
何種類ものクッキーが大きな棚にびっしりと埋まるのだ

母がつくるクッキーが好きだった
せっかちで荒っぽくてガサツな母が
つくったとは思えないほど繊細なデザイン、
ほろほろとくちどけのいいものがたくさんあった

母はとにかく強い人間である


目立つことが大好きなので恐れずに自己主張ができる
キャキャキャ、と黄色く笑って注目を浴びたり
隙あらば人目もはばからずにクレームをいれる

母の感情の起伏はとにかく激しい
乱気流の中にいるかと思えば
突然穏やかな雲の上を飛んでいたり
かと思いきや突然エンジンが壊れたりして
とにかく予測不可能な行動を常にかましてくる

父との喧嘩も激しいものだった
小学校の時、家族全員でオーストラリアに旅行に行くことになった
旅立ちの直前で大喧嘩が始まり
ヒートアップした末、父と兄たちだけでオーストラリアに向かうことになり
母と私はシンガポールに残ることになった

パスポートや必要な荷物を車に載せたあと
母は運転席で嗚咽を上げ泣いていた
まだ小さかった私はかける言葉を探せず
ただ一緒にいることしかできなかった
私には小さいぬいぐるみがいたが
母には誰がいたのだろうか

穏やかな母


地上波テレビのように絶え間なく話すような母だが
クッキーをつくるときだけはとても穏やかだった

優しい表情でクッキーのレシピを教えてくれて
黙々と成形に集中する母とのあの時間は
私にとって幸せな時間だった

私は母に鞭でよく叩かれていた
ひゅん、
ひゅん
と、よく撓る竹の鞭を使っていた
車の中にも常備していて
帰ってくるのが遅いと
目にもとまらぬ速さでしばかれた

ピシッ、と鋭く肌にあたる鞭はヒリヒリと痛む
赤く細く腫れる跡は、
泣いたあとの瞼のように熱を帯びていた

私はあの鞭が嫌いだった
あの鞭を持つ母が大嫌いだった

だけどクッキーをつくる母の手は
力が抜けていながらも
しっかりと優しくクッキーを支える

焼き上がったクッキーたちは
どれも美しく
そしてどれも一つ残らずおいしい

母のつくるクッキーが世界で一番好きだった


つまり、私はクッキーを通して母の愛を感じているのである

自己表現


クッキー屋を始めて
クッキーづくりの新たな一面が見えてきた

それは、クッキーを通して自己表現をしている、という点だ

母に似て、私も言いたいことを大体は臆さず言えるスキルを持った
だけど、唯一自分の意見を言えない場所がある

それは私の実家だ

私は、5人兄弟の末っ子、一人娘として産まれた
産まれた時点ですでに家族の文化はほとんどできていた

末っ子の私の意見などほとんど通らないに等しい
男兄弟にも散々いじめられ、痛い思いをたくさんしてきた

「もうこんな痛い思いなんかたくさんだ」

年下の女性が男性に勝てるはずもない
勝つ方法は鋭い言葉でしかない
己を守るために攻撃的な言葉が出てくるようになった
今ではとてもじゃないが
口に出せないような汚い言葉をたくさん使った
それも巧みに。

しかし、下手に言葉で攻撃しても
その反撃もなかなか手ごわいものだった
痛いところを突かれてバックラッシュに合うリスクが高く
そのうち家族への攻撃も勢力がおさまってしまった

そうして、家族に対して表現できるものは
相手が求める言葉
我慢の限界の末に出てくる攻撃的な言葉ばかり
そこに純粋な己を表現したものは一切ない


「お父さん、浮気相手に送ったであろうメッセージが私に届いてるよ」
「お母さん、どうして卒業式に来てくれなかったの」
「お兄ちゃん、結婚式に来なかったのはがっかりしてる」

言いたくても言えない言葉たちは
もやもやと黒く染み付き
頭の中で罵声になって響き渡る

そんな罵声に、本当の私の声はかき消されてきた

私の八重垣


クッキーを作っている間は
その囁きほどの小さな小さな自分の声が聞こえる

それをクッキーに落とし込み
己を表現している

つまり、一種のアート活動なのだ

利益を出すためにはもっと違うアプローチが必要なのは
十分に理解している
だけど、クッキーづくりは私にとっての「八重垣」なのだ

誰にも侵されない、私だけの世界


それが私のクッキーたち

他の誰でもない、私という一人の存在を
喜ばせるためのクッキーたち。

一人よがりなのはわかっている
だけど、私は私を愛したい。
誰よりも自分を愛したい。

それをかなえられる場所が、このクッキー屋なのである。



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最後までお読みいただきありがとうございます
Changi Cookiesは埼玉県は大宮で毎週水曜日、木曜日に営業中!
お近くにいらっしゃる際には是非お立ち寄りください。

📍住所   埼玉県さいたま市大宮区大門町3-108
📅営業日  水曜日・木曜日
🕘営業時間 9:45-17:00

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