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恋愛禁止条例は日本にどのような悪影響を与えているのか

前回の記事では、世界で日本にだけ存在する恋愛禁止条例(青少年健全育成条例の一部)の規制内容、諸外国と比べてもいかに異常な規制であるか、ということについて解説を行いました。
今回は、その恋愛禁止条例が日本にどのような悪影響を与えているのかについて解説を行います。悪影響は大きく分けて7つあります。


①未婚化・少子化の推進

結婚や出産は30歳前後で行われるのが平均なのだから、18歳未満の恋愛を禁止するだけで、未婚化や少子化が進むというのは大袈裟だと考える人もいるかもしれません。
しかし、これは全くの間違いです。
自由恋愛が一般的になった現代日本において、結婚や出産というのは通常長い交際期間を経て、決断されるのが一般的です。
第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)によると、恋愛結婚の場合、交際開始から結婚までには平均4.9年の時間がかかっています。見合い結婚を含めた結婚全体でも平均4.3年の時間がかかり、交際期間は過去一貫して長期化が進んでいます。

第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)より抜粋

また、同じ結婚持続期間であれば男女を問わず若い年齢で結婚した人ほど子どもの数が多いということも第14回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)で公表されています。

第14回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)より抜粋

近年の調査ではなぜか夫の結婚年齢別の子ども数に関するデータは公表されなくなってしまったようですが、妻の初婚年齢が若いほど子どもの数が多い傾向については依然として変わっていないことがわかります。

第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)より抜粋

これらのデータに加えて決定的なのが、年齢に関わらず既婚者の交際経験人数は平均4~5人程度ということです。
(リンク先サイトの記事では3.68人という見出しになっていますが、実態としては50代女性を除き4~5人程度の経験を行った上で結婚しているようです)
これは私の体感としても一致します。
私は現在20代後半であり既に結婚した同期も結婚していない同期も多くいますが、私の中学や高校の同期を見る限りは、当時から彼氏・彼女が途切れなかったような人の方が明らかに20代前半までに結婚しています。

これらのデータを総括すると、結婚は30歳前後になって急に決意して行われるものではなく、年齢に関わらず恋愛経験をある程度(4~5人程度)積んで、交際期間も5年程度経った頃に決意される(つまり結婚適齢期というものは年齢でなく恋愛経験で決定される)ものであり、その決意の平均的なタイミングを早めなければ少子化は止まらないということがわかります。

25歳と22歳のカップルの結婚に対して異常であるなどと文句を言う人は殆どいないでしょうが、平均的な交際期間を経て結婚するのであれば20歳と17歳のときから付き合っていることになります。
これももちろん婚約をしていない限り犯罪ですが、性交渉より前に婚約をするカップルは現代において稀でしょう。

また、恋人が作りづらくなり、恋愛経験率も低下します。
18歳や19歳の学生や社会人からしてみれば、高校時代やアルバイト先の親しい後輩が16歳や17歳であるのは当然のことですし、16歳や17歳の高校生から見て逆もまた然りです。
この程度の年齢差で一緒に過ごす時間が長ければ、恋愛感情を持つことは極めて自然ですが、犯罪になるのではないかという懸念から恋愛関係になることを避ける人は多かったです。
実際、東京都(と千葉県)で恋愛禁止条例が制定された2005年以降、学生の恋愛経験率は低下の一途を辿っています。

学生の恋愛経験率の推移

②税金・公的資源の無駄遣い

当然ですが司法の資源(警察や検察官・裁判官といった人的資源、刑務所や留置場といった空間的資源)は有限です。
一番身近でわかりやすいのが警察官でしょう。警察官は慢性的に人手不足であり、日本全国どこであっても警察署や交番の前を通れば、警察官募集のポスターがよく貼ってあります。

例.警視庁の募集ポスター

条例違反という誰も不幸になっていない犯罪を取り締まろうと資源を使うことで、本来取り締まれたはずのより凶悪な犯罪(もちろん他の性犯罪も含みます)が取り締まれなくなります。

更に、逮捕された場合、有職者であれば高い確率で仕事を失うことになります。
条例違反ではなく刑法の冤罪事件ですが、プレサンスコーポレーションの山岸忍元社長も逮捕により辞任しており、冤罪が証明された現在も社長には戻っていません)
このような不本意な形で仕事を失って無職になれば、懲役刑にならずとも少なくとも当分は失業手当や生活保護のお世話になることが多いでしょう。この財源はもちろん税金です。
もちろん拘置所や留置場内の食費や生活費も税金から賄われています。

条例違反の容疑をかけられた方が社会人として優秀であれば、会社へのダメージも無視できません。
会社の業績が低下すれば、国や地方が得られるはずの法人税や法人事業税も減少します。

③イクスクルーシブ社会の実現

インクルーシブ社会という言葉があります。インクルーシブ(inclusive)社会とは「さまざまな背景を持つあらゆる人が排除されない」社会のことを指します。
恋愛禁止条例が目指す社会はこの理念とは逆の社会、すなわちイクスクルーシブ(exclusive)社会とでも言える社会です。
恋愛禁止条例の判例では、性行為の中で「反倫理性の顕著なもの」のみを指すとしています。しかし、実際は相思相愛の関係、継続的な関係という一般的な交際関係での性行為も取り締まられています(そもそもこの判例で有罪とされているのがそのような事例です)。
婚約を行った上での性行為以外を反倫理的と指弾することは、恋愛の形を異常に画一化するものであり、思想の強制と言わざるを得ません。
また、そもそも思想の自由や幸福追求権が認められているはずの日本で、「どの性行為が正しいか」を司法が決めているということ自体が意味不明です。

そして、これは結婚のできない同性愛を反倫理的であると見做しているということでもあります。
かつてイギリスでは1967年に同性愛が一部合法化された後も、長きに渡り男女間の性行為と比べて同意年齢が高く設定されていました。
これはLGBT人権活動家のPeter Tatchell氏に"Sexual Apartheid(性的アパルトヘイト)"と強く批難され、現在は改善されています。
日本の恋愛禁止条例の下では、かつてのイギリスと同じように異性愛よりも同性愛が更に認められづらく、多様性を排除していると言えます。
これは2023年に成立したLGBT法にも反しています。

④東京などの大都市への人口流出の加速

進学先や就職先を選ぶ際に、職務内容や待遇以外に重視される情報として、勤務地が挙げられます。
この勤務地を選ぶ理由というのはもちろん「実家から通える」、「憧れた場所(東京等)に住める」、「友人・知人が多い」等以外に、「恋人が住んでいる」ということを重視する人もいます。
しかし、これは当然恋人がいる場合にのみ重視される理由です。
高校生はもちろん、本来であればその年代と恋愛関係になりやすい大学生や専門学生も、上述の通り恋愛が困難になっており、地元を選ぶ動機が弱くなっています。
このことにより、東京などの大都市へ出ていく若者は増加します。

⑤青少年の心身を危険に曝す可能性の増大

恋愛禁止条例は建前では「青少年の健全な育成」のための条例です。
しかし、実態としては青少年の心身をむしろ危険に曝しています。
この理由は3つあります。

1つ目の理由は通院も含め周囲との相談が困難になり、孤立化しやすい為です。
交際関係というのは必ずしも楽しいことだけではありません。別にこれは18歳未満に限った話ではなく、恋愛というものが真摯であればあるほどそういう性質を持っているということです。
しかし、恋愛禁止条例において18歳未満の性行為を実質的に禁止されているということは、悩みがあってもそれに関して周囲の人に相談することを十分に躊躇させる効果があるということです。
親や兄姉、友人、教職員、部活や習い事のコーチ、塾の講師や家庭教師、スクールカウンセラー等、普段信頼している相手であっても、問題視され通報されれば自身が補導されたり、恋人が刑事処分を受ける可能性があるのであれば相談を躊躇うのは当然です。
このことは青少年の精神を追い込み、精神疾患の発症や自傷行為、自殺を招くリスクを高めます。

これはもちろん病院の受診も同様です。
もしも妊娠をしたり、性病に罹患したりした場合、速やかな産婦人科(男子の性病であれば泌尿器科や性病科)の受診が言うまでもなく望ましいです。
しかし、受診をすることは医師に通報される可能性があるということです。
医師は守秘義務があるのではないか、と思うかもしれませんが、医師の守秘義務というのは正当な理由がない場合に限られ、犯罪被害にあっていると考えられた場合(条例上は同意の上で性行為を行った16~17歳は被害者です)の通報は守秘義務の対象ではありません。
一方で、通報義務もありませんが、どの医師が通報を行うかどうかを受診前に知る方法はなく、受診を躊躇させる効果は十分高いでしょう。
過去には
望まぬ妊娠をした女子高生が彼氏に嘱託殺人されるという痛ましい事件も起きています。
条例がなく周囲への相談や病院での受診がしやすい社会であれば、このような事件が起きずに済んだのではないかと思わずにはいられません。

2つ目の理由は毒親が子どもの恋愛関係をコントロールできる為です。
恋愛というのは極めて個人的な領域の出来事です。日本国憲法が結婚を両性の合意のみにより成立すると定めているように、親を含む第三者が恋愛に口を出す権利はありません。
しかし、条例に関してはその限りではありません。
親権者は未成年者の意思に関わらず刑事告訴や被害届提出、民事訴訟や示談を本人に変わって行うことが可能だからです
親からの通報は恋愛禁止条例違反で逮捕される主なルートの一つであると法律事務所も述べており、賠償金・示談金がほしい(未成年者の場合、賠償金や示談金は本人ではなく親の口座に振り込むことになります)、交際相手を気に入らない、子を勉強やスポーツに専念させるために恋愛させたくない、単純に子どもが幸せそうなのが気に入らない等、毒親の私情で警察を出動させることができます。
また、特に悪質な毒親であれば、これを理由に子どもを脅して言うことを聞かせるということも考えられます。

3つ目の理由は違法であるということが法令遵守傾向の低い相手との恋愛関係を生じさせやすくすることです。
既に何度も記載してきた通り、18歳未満との性行為は殆どの場合犯罪になります。
このことから、有名大学の学生や社会的責任のある職業についている人等失うものが多い人程、そもそもそういった属性の人々がリスクを避ける性格の持ち主が多いことも相俟って18歳未満との交際を躊躇しやすいです。
翻って、失うものが少ない人からすれば、相対的に見て逮捕や刑事処分のリスクは小さく交際を躊躇しない可能性は高いです。また、法令遵守意識の低い人も交際を躊躇しない可能性が高いです。
そういった人からすれば、18歳未満は18歳以上と比べて競争が緩やかである為、恋愛関係に至るのが簡単になります。
この結果、逮捕や刑事処分を受けても失うものが少ない人や法令遵守意識が低い人と付き合うことが多くなり、却って恋愛のリスクが高まります。

⑥美人局の容易化・横行

条例では18歳未満との性行為は婚約をしていない限りほぼ違法となりますが、多くの自治体では18歳未満であることを知らなかった場合も違法になります。
これは刑法の原則からすると異常なことです。
刑法38条では罪を犯す意思がない行為は罰しないと規定されているからです(例えば、殺人罪は殺意をもって人を殺めることが構成要件であり、事故により他者を死に追いやった場合は殺人罪になりません)。
このような原則になっているのは、過失(罪を犯す意思がない行為)を処罰しても治安は改善せず、むしろ人々を萎縮させ自由に生きる権利を奪ってしまうためです。
その為、過失でも処罰される刑法上の罪というのは業務上過失致死傷罪、過失傷害罪、過失致死罪など過失の場合にのみ適応されるごく一部の法律に限られており、故意でも過失でも同じ量刑になる法律は刑法には一切存在しません。
恋愛禁止条例は、刑法で全く見られない故意でも過失でも同じ量刑になるという大学教養レベルの刑法の基礎を全く理解していないとしか思えない条文になっています。

つまり、これは18歳以上であると年齢詐称を行い性行為を行った後に、18歳未満であることを明かされても犯罪であり、美人局が確実に成立するということです。
マッチングアプリを利用して美人局を行った事例が過去に報道されていますし、法律事務所が恋愛禁止条例違反が判明する主なルートの1つとして美人局を挙げている為、報道されていないだけで頻繁に発生していると推定できます。
今後、マッチングアプリを利用した美人局が更に横行すれば、若者の恋愛活動は更に萎縮し、恋愛離れは加速することでしょう。

年齢詐称を行った未成年と関係を持ったことで活動休止をしたランジャタイ伊藤さん(事件化されたかどうかは不明)(Yahooニュースより引用)

⑦望まぬ妊娠の増加

恋愛禁止条例擁護派の方々は時々「条例がなくなると中絶が増える」という主張をしていることがあります。しかし、これは大ウソです。
この確認は、恋愛禁止条例が制定された自治体の制定前後の中絶件数の推移を、他の既に恋愛禁止条例が施行済みの都道府県の平均的な中絶件数の推移と比較することで行えます。
比較的近年、恋愛禁止条例が制定されたのは2016年に制定された長野県と2005年に制定された東京都・千葉県です。

まずは、長野県から確かめてみます。
最新(令和4年度)の衛生行政報告例 統計表 年度報 付表 F9(人工妊娠中絶実施率(15~49歳女子人口千対),年次・都道府県別)を用いて、検定にはDID(差分の差分法)を使用します。DIDは政策評価に広く使用される統計手法です。
データを用いてDID回帰分析をすると、結果は下画像のようになります。

DID回帰分析結果(長野県)

p値とは偶然この結果になる確率のことです。
つまり、この数値が低ければ低いほど、この結果に意味があるということができ、経時的変化(時間経過による中絶の減少)に関しては99.9%以上の確率で有意であるという結果が出ています。
一方で、条例制定と時間経過の交互作用(相乗効果)による減少効果は全く認められないことがわかります。
つまり、長野県も他の都道府県も時間経過により中絶が減少しており、その理由は条例制定ではないということです。
2015年から2022年の中絶率の変化をグラフで表すと下の図で、視覚的にも条例の制定が中絶の減少をもたらしているとは言えないことがわかります。

赤線は長野県、黒線はその他46都道府県の平均値、灰色がその他46都道府県それぞれのグラフ

念の為、東京都と千葉県についても検定を行ってみます。今回は2004年から2022年の変化について検定します。2004年の中絶数については過去の衛生行政報告例から確認できます。
DID回帰分析をすると、結果は下画像のようになります(条例制定の影響が見られないことは既に確認していますが、長野県は対照群から除外しています)。

DID回帰分析結果(東京都・千葉県)

やはり2015年以降と同様に経時的変化(時間経過による中絶の減少)に関しては99.9%以上の確率で有意であるという結果(時間経過により日本の中絶が減少しているという結果)が出ています。
前回の検定と変わったのは、「処理群と対照群の差」、「処理群と年(時間経過)の相互作用」についても有意な差が示されたことです。

処置群と対照群の差が有意であったということは、処置前(条例制定前)の時点で何らかの理由により処置群(東京都と千葉県)とその他道府県に異なる特徴が見られることを意味しています。
これは両自治体ともに当時は中絶率が低く、特に千葉県が非常に低かった為有意な結果を示したと考えられ、条例を制定していない自治体の方が中絶が少なかった可能性を示唆しています。
更に重要なのは、処置群と年の相互作用の方です。これが正で有意ということは、条例制定が中絶率の低下を抑制したということを意味しています。
私もこのような結果が出たことは驚いており、条例制定ではなく別の要因の結果そのように見えるだけではないかと思わなくもありませんが、下のグラフを見ると分かる通り東京都はかつて中絶率が下位だったのにも関わらず、現在は圧倒的に高い中絶率の自治体となっています。
他に中絶率を高める要因があったとしても、条例に中絶率を低下させる作用があれば上昇が抑制されるはずであり、条例に望まぬ妊娠を抑止する効果がない可能性は極めて高く、そればかりか増加させる可能性すらあります。

赤線は東京都、青線は千葉県、黒線はその他44道府県の平均値、灰色がその他44道府県それぞれのグラフ

まとめ

非常に長くなりましたが、恋愛禁止条例がもたらす悪影響を紹介しました。
条例がもたらすこれらの悪影響を理解されれば、一日も早く日本の全ての自治体から恋愛禁止条例が廃止されるべきだと共感していただけるのではないかと思います。

私はこの東京都と千葉県の条例廃止のため署名運動をしています。以下のリンクからご協力いただけると幸いです。

条例の廃止のためには多くの人々がこの条例の問題を認識し、政治家に訴えかけていくことが必要です。
この記事を読んでいただけた皆様も私のnoteの拡散や署名、政治家への請願・陳情等の働きかけにご協力いただけると幸いです。

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