東京都知事を辞めて初めて、猪瀬直樹という人間の本質が見えた!

僕は政治家よりも作家に向いていると、猪瀬直樹は言った。都知事という立場では、政治家同士のしがらみや、内田ドンの圧力が強すぎて何もできなかった。今、作家だからこそできることがある。猪瀬が取り組む研究所の活動を通じて、彼が考える日本の未来像が見えてきた。8月24日、私は猪瀬氏の言葉をたっぷりと聞いた。

(なお、この記事に登場する方々は、猪瀬さんのほかに、「朝まで生テレビ」でおなじみの政治学者の三浦瑠璃さん、タレントのケント・ギルバートさん、日本大学教授の小谷賢さんです)

日本文明研究所とは?

昨年8月、作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏が日本の未来について真剣に考えるための研究会の所長になった。それが日本文明研究所である。私は先日、はやくも一周年を迎えたこの研究所の記念シンポジウムに足を運び、その内容をnoteにまとめた。

日本文明研究所の活動とは、具体的には、

哲学・思想・倫理の観点:日本思想、やまとごころ、和の精神など 

経済の観点:老舗の経営。日本には200年以上続く企業が世界でもダントツに多いなど 

工芸・技術の観点:美術、工芸、ファッション、ポップカルチャー、アニメ、建築、テクノロジーなど 

医療の観点:漢方、和食、医食同源など 

総合の観点:政治、宗教など 

以上の観点から日本への研究を深め、日本人自身が認識していない日本のアイデンティティーを探り、啓蒙活動を通じて日本と世界の未来の平和と発展に貢献することを、この研究所は設立の目的にしている。

この研究所が始まって以来、4回の講演が渋谷の日本経済大学の会場で開かれた。第1回は当研究所の所長である猪瀬直樹氏と、研究所会長の後藤俊夫氏、そしてゲストにジャーナリストの田原総一朗氏を招き、「そもそも日本という国の特徴とは何か」について議論された。第2回は政治家の石破茂氏と、イギリス人アナリストのデービッド・アトキンソン氏、そして前農林水産審議官の針原寿朗氏を交え、「日本が観光立国として世界で勝ち残っていくために必要なこと」について熱い議論が交わされた。第3回は、小泉純一郎元総理大臣の講演会で、小泉氏が今後ライフワークとして取り組んでいかれる「脱原発」について、その問題点と希望についてじっくり語られた。第4回は、ソフトな話題にがらりと変わって「日本酒はなぜ美味しいのか? 和食が世界をリードする」というテーマで旭酒造社長の桜井博志氏、皇學館大学講師の竹田恒泰氏、東京大学名誉教授の北本勝ひこ氏を交えて、「古事記」から日本酒の世界進出までを幅広いスパンで語られた。

この研究所の講演を聴講してはや一年が過ぎた。私が感じることの一つは、この研究所はとてもバランスがとれているということだ。日本のアイデンティティーについて考えるなどというと、すぐに「右寄り」なものを連想してしまいがちだが、ここはそうではない。日本の長所と短所を冷静に分析している。また、日本は景気が悪く社会も閉塞ぎみで希望がないといった後ろ向きな意見が前面に出されるマスメディアとは違い、経済だけではない文化の面から社会に希望を見出していこうとする研究所の前向きな姿勢に、私は日本の未来が見える気がしている。

さて、設立一周年の2016年8月24日は、ゲストには、朝まで生テレビでおなじみの国際政治学者の三浦瑠麗氏、カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏、日本大学危機管理学部教授の小谷賢氏を招き、所長の猪瀬直樹氏を司会に議論が進行された。

テーマは「グローバル化と国家~イギリスのEU離脱と米大統領選挙を踏まえた今後、日本が進むべき道~」という、まさにオンタイムなものであった。

以下、議論の論点を要約した。

ポピュリズムの台頭、アメリカの自画像

猪瀬:本日はお暑い中、みなさんお越し頂きありがとうございます。リオ・オリンピックが終ったばかりですね。さっき、この研究所の講演が始まる一時間前のことですけど、(都知事の)小池百合子さんと電話で話していたんですよ。彼女、オリンピック旗を持って今日日本に帰ってきたばかりでね。彼女が言うには、リオを離れる時にはもう仮説の施設の解体が始まっていたそうなんですよ。「猪瀬さん、あっちの仮説って本当に仮説らしいのよ」って僕に電話で教えてくれたんですよ、彼女。リオでは仮設の建物はいかにも簡単に建てられていて、すぐにバラバラにできる。でも日本は仮説でも何年か使えるくらい立派で丈夫なものを建ててしまう。それではコストがかかる。日本は東京オリンピックの時には、もっと安くて簡単な仮説をつくることを学ばなければいけない。僕もそう思いましたね。僕もロンドンの時には視察に行ったけれども、仮設はオリンピックが終ったらすぐに解体して、それを外国に売っていた。日本もそういう方法を学ばないといけないと思いましたね。

さて、本題に入りましょう。アメリカ大統領選挙が近いけれど、果たしてヒラリーとトランプ、どちらが大統領になるんでしょうね。ケント・ギルバートさん、どう思う?

ギルバート:僕は前にNHKに出演した際に、トランプが共和党候補になることは絶対にありえないとはっきり断言しちゃったんですよ。それがこれでしょう? 正直、今はどちらが大統領になるかまったく分かりませんね。これから始まる討論会次第だと言うほかありません。

猪瀬:ケントさん、あなたはカリフォルニア州の弁護士なんですよね。アメリカでは州はひとつの国みたいなものですよね。たとえば、たまにニュースなんかで、カリフォルニア州のGDPがイギリスのGDP を抜いたとか、言われるじゃない?あれって、州が国だってことだよね?

ギルバート:ええ。仰る通りです。アメリカでは各州が独自に自治をしている。州で法律、つまり「州法」も持っていて、それに基づいて成り立っている。連邦という形で州ごとに連携しているだけで、国になにか言われることはすごく嫌い。まして国連に何か言われるなんて嫌だと思っている。アメリカは基本、国連を軽視していますね。日本みたいに国連の決議が出たからどうのということで、国内の物事を決めるなんて、アメリカではありえないくらいです。

猪瀬:トランプについてどう思いますか?

ギルバート:トランプは在日米軍のことをまったく理解していないと思いますね。これはもしかしたら日本人も分かってないかもしれないけど、沖縄も嘉手納基地も日本を守るためにあるんじゃない。アメリカがアジア全体を守るために駐留しているんですよ。日本の自衛隊が色々な憲法に縛られて動けないから、仕方なく日本も守っているだけで、基本、アメリカのためのものなんですよ。けっして日本の米軍基地は日本のためのものじゃない。そんなことも分からない人が大統領になったら、とんでもないことになると思いますよ。大統領になってから勉強するのかもしれないですけど。

猪瀬:どうしてトランプはあんなに人気なのでしょうね?

ギルバート:民主党のオバマはいまいちだけど、共和党のブッシュはイラク戦争をやったから、戦争を起こした大統領として印象がとても悪い。そのどちらでもない人としてトランプが人気を得たのだと思います。ブッシュ大統領はイラクやアフガンに侵攻して、中東を平定できると思った。かつて日本を占領した時みたいにうまく行くと思った。だけど中東はイスラム教の地域なのだから、宗教が違う人々をコントロールするなんて最初から無理な話なんです。こちらはキリスト教徒だって言うだけで嫌われるわけだから、日本のようにうまく行くわけがないんです。ブッシュはそんなことも分からなかった。それに対してオバマは中東を動かせないことをよく分かっていた。だからあえて何もしてこなかった。だけど、シリアではあまりにも何もやらなさすぎて、結果としてロシアのプーチンに台頭されてアメリカ国民から反感を買ったんです。

三浦:私はトランプのことをずっとニクソンみたいだなと思って見てきました。世界から見るとアメリカはまだまだ国力のある強い国だけど、それでも自分たちは弱くなったと思ってフレックス(ここでは改革というような意味)しようとしている。まだまだ強い状態からのフレックスです。

ギルバート:それはそうですが、でもメキシコから1100万人の不法移民がアメリカに来ていて、国の景気や治安を悪くしている。でもこれまでの政権は何もしてこなかった。それが国が弱くなったとみんなが感じる理由でしょう。

小谷:でもトランプはとても大統領としてふさわしい人格ではない。過去の問題発言や振る舞いを見ても、あんな人間性の人が大統領になってはリスキーだと思われて、最終的には選挙で当選しないと思いますね。

猪瀬:でもオバマとヒラリーは理想的なレトリックだけ述べて何も実現しない?

三浦:私はトランプの政策は実は中道だと思っているんです。実は普通に中道なのに、あのような過激で差別的な発言で注目を集めて、ここまで人気を得た。彼のあの戦略はイノベーションと呼んでもいいくらいだと思う。私は去年の夏にアメリカ南部に行ってきたんですけど、町の普通のけっして差別主義者とは思えない人たちがトランプを応援しているんですね。彼を支持する人たちの感覚は、もしかしたら、ここにいる皆さんに近いかもしれない。

対して、ヒラリーさんはヒスパニックと黒人の票をおさえている。ヒスパニックと黒人票をおさえれば選挙は絶対に勝てると言われます。なのにどうして彼女は「弱い候補」と見られているのか?私はそれはエリートに対する反感がそうさせていると思いますね。エリートの女性は概して戦闘的だと見られがちです。これまで、エリートの男性はどっしり構えていられるけれど、エリートの女性は自ら一生懸命に主張しないと周囲から自分の意見を聞いてもらえなかった。それがかえって、利口な女はキャンキャン叫ぶ人だと誤解されるんです。エリートじゃない男たちからすれば、エリートの女にキャンキャン命令されたくないと思ってしまう。ヒラリーはこの「キャンキャン言う女」というステレオタイプにはまってしまっていると思いますね。エリートじゃない男からも女からも支持されるにはどうするべきか?彼女はもっと「共感力」を磨くべきだった。

小谷:あと、ヒラリーメール問題もあります。個人のメールサーバーで国家機密レベルのやりとりを交わしていた。あれは本当に、危機管理の意識が低かったと思います。どうしてそんなことをしてしまったのか? 僕が思うに、メールを読むのにいちいちオフィスに行かないと開けない。個人のメールだったら家でも仕事ができるから便利だと思ったんでしょう。でも、それはいけない。日本の防衛省でも仕事関連のメールは必ずオフィスで読むように義務付けられています。

ギルバート:個人のメールでやりとりしてしまったら、その情報が国家情報として残らなくなってしまう。のちに歴史を振り返るときに、資料がないのと同じです。個人のメールでは歴史に残せない。

猪瀬:なるほどね。それでは議題を移して、EU離脱について語りましょう。まさかイギリスが離脱するとは思わなかったですね。今の世界は1930年代の風潮によく似ていると僕は思っているんです。

グローバリゼーション・パラドックスの時代  

小谷:グローバリゼーション・パラドックスとは簡単に言えば、<国家>と<グローバル社会>と<民主主義>が互いに相いれない、という意味です。儲かるのは銀行や大企業だけ。一般国民はグローバル化から何も恩恵を受けていない。

ギルバート:たとえ話をしましょう。もしも、日本と韓国と中国とベトナムが一つの経済圏をつくったとします。本部は釜山に置く。そうなると日本の電化製品の製造業者が商品をつくったとしても、釜山の役人にすべて決め事を決定されたとしたら、日本の製造業者は不満でしょうね。それと同じです。ブリュッセルに何もかも決められてイギリスは不満だったんです。

三浦:私は経済の問題だけじゃない、文化の側面もあったと思います。Quality of lifeという言葉がありますが、イギリスらしいライフスタイルを維持したい、イギリスらしい風景の中で暮らしたい、そういう思いもあったと思う。イギリスの静かな風景の中で、勝手にケバブなんか焼いて売らないでほしい、とかね(笑)そういう人々の思いが離脱に票を入れさせたのだと。それに、投票などやる前からイギリスはとっくに世界の覇権を失っていた。もはや誰もイギリスが世界のリーダーになれるほどの国力を持っていないことを知っていた。それなのに離脱に票を入れたのは、アイデンティティー的な理由だったと思いますね。

国家と難民について 

猪瀬:EU離脱の出来事に先駆けて、シリア難民のニュースが世界で大きく報道されていましたよね。僕は、シリア難民たちが船で遭難して、浜辺でおぼれ死んだ子供の姿に衝撃を受けた。あれはまさに人が国家というものを失った姿なんです。僕があらためて思うのは、国家とは「会員制クラブ」だということ。限られた納税者が集まりつくっている。

ギルバート:シリアはもはや国という形をとっていない。アラブの春の時は、これですばらしい未来が待っていると、みんな信じたのに。まあ、私たちが考える民主主義と、イスラム圏の民主主義は違うということもありますが。あそこは、あくまで宗教主導の民主主義ですから。 

小谷:でも、今の中東の国々の国境線はもともとは欧米が勝手に引いたのだから、ヨーロッパやアメリカが今の混乱に責任を取れと、彼らが言いたくなる気持ちも分かるには分かります。

ギルバート:でも僕は日本がシリア難民を受け入れることには反対です。今の時点ではあまりにも受け入れ態勢が整っていないから。以前に「朝まで生テレビ」に出演した時に、在日韓国人との討論で、僕が「韓国系日本人」でいいじゃないか?と発言したんです。ヒスパニック系アメリカ人がいるように、韓国系日本人という存在があっていいじゃないかと思ったからです。そうしたら在日たちからの反発が一気に来た。そんなことはありえない!アイデンティティーはあくまで韓国。韓国系日本人だなんて、とうてい受け入れられないのだと。日本は国家民族が結びついている、世界でも珍しい国です。そういう状況でシリア難民がやってきたら、この国に暮らしていくのは難しい。

三浦:確かに、日本では、移民でやってきたら「同化」が求められる。でも、日本だってよく観察すれば単一民族ではありません。美空ひばりも王貞治も、「純日本人」という点では違ったけれど、日本で広く受け入れられた。今回のリオ・オリンピックでも、私が嬉しいなと思ったのは、多くのダブル(ハーフ)の選手たちの活躍です。民族性や人種が違っても、同じ日本的な価値観を共有することで生きていけばいい。

小谷:三浦さんの仰ることは、僕もそう思うけれど、この問題はそんなに簡単にはいかない側面があります。ドイツやフランスでは、ドイツ語もフランス語も話せない人たちが集まってコミュニティーが出来ている。学校でも移民の多い学校では、先生たちがドイツ語やフランス語で授業することもままならなくて、本当に困っている。フランス人やドイツ人の生徒たちはクラスで言葉が通じなくて困っている。この問題はなかなかに根が深い問題ですよ。

猪瀬:だからさ、僕はそういう将来起こりうる問題のことも踏まえて、日本は今から練習するべきだと思っているんだよね。今からシリア難民を1000人くらい受け入れて、どうなるか練習してみるの。日本は現在6人のシリア難民を受け入れている。たった6人ですよ。将来、もし北朝鮮で何か重大なことが起きたら、何十万人単位で日本にも北朝鮮難民がやってくるでしょう。そうなったらどうしたらいいのか? そのためにも今から難民に対処する術を学んでおいた方がいい。

女性リーダーの活躍

猪瀬:最後の議題になりますが、今、世界では女性の政治家の活躍が注目されていますね。EU離脱後、メイさんという女性がリーダーに選ばれた。アメリカにはヒラリーさんがいて、韓国には朴槿恵さん、台湾の新総統には蔡英文さんが選ばれた。日本にもようやく、小池百合子さんや蓮舫さんなど、トップに立つ女性たちが現れた。新しい時代ですね。良い傾向ですね。

三浦:昔から女性政治家には2つのパターンがあって、一つは「お姫様タイプ」と私が勝手に名付けたものですが、つまり立派な政治家のというパターンです。2つ目は、ヒラリーさんのように立派な政治家のというパターン。そしてそのどちらにも属さない女性、つまり立派な政治家の娘でも妻でもないのはかつてのイギリスのサッチャーさんですが、サッチャーさんのような女性が登場する政党というのは、たいていが消滅しかかっていて、最後の切り札として女性をヘッドに出してくるケースが多い。

猪瀬:なるほど、消滅しかかった政党の最後の切り札ですね。そうなると、蓮舫さんなんかが、そうなのかな。そうなると民進党もお先が真っ暗かな(笑)

ギルバート:でも今の若い女性たちは、女性だからという理由だけでは政治家をもはや支持しなくなっています。かつて米国務長官だったマデリン・オルブライトさんが、この間サンダースの集会にやってきて、みんなの前で「あなたたちは女ならば、ヒラリーを支持すべきなのよ」と堂々と訴えていたけれど、結局ヒラリーの支持者はサンダース支持者の間に増えなかった。今の若い女性たちは男女が昔と違って平等な時代に育っているから、オルブライトさんの言葉が届かなかった。

三浦:そうよね。私もそう思います。今の時代は女性だからというのは、もはや理由にならない。

小谷:僕が思うに、今、女性政治家が期待されているのは、実務的でコツコツ仕事をこなす人が多いから。男はメンツにこだわったり、周囲の人間関係に左右されたりする場合が多いけど、女性の政治家には真面目に実務だけを淡々とこなしていかれる人が多いと思う。

三浦:そうですね。私には、イギリス新首相のメイさんは退屈な人に見える。確かに、靴のセンスはおしゃれだけど(笑)イギリス人たちが言っているんですが、今になって思えば、キャメロンさんは家庭的で家事をちゃんとやるファミリーマン的なイメージがあって好感が持てた。でもメイさんはどんな人かいまいち分からない。これといった個性もないしね。EU離脱の後、男たちはその後の政策に取り組むのを投げ出した。結局、他に男でリーダーやってくれる人がいなかったから、彼女が選ばれたんだと思う。

猪瀬:こんな時代だから、人は強いリーダーを求めている。トランプ現象がその象徴です。女性の政治家は、男性的な強いリーダーと一般国民の中間を埋めてくれるような存在として人気を得たのだと思います。

三浦:ところで、猪瀬さんから見て、理想的な女性の政治家とはどんな人ですか? 主義主張がいいなと思う女性政治家とかいますか?

猪瀬:そうだな、日本で言えば小池百合子さんかな。昔の土井たか子さんも良かったと思う。蓮舫さんも良いと思う。でも稲田朋美さんはよく分からないな。稲田さんはいつも安倍さんの傍にいるけれど、何を考えているかは分からない。僕は小池さんが都知事になるために協力していたけれど、彼女は発言にキレがあるし、潔い。僕が都知事だった頃、誰もドン(内田茂)の存在を信じてくれなかった。マスコミも話しても信じてくれなかった。舛添さんは傀儡都知事みたいな状態で、しかもあんなスキャンダルが発覚したのに、ドンは彼に辞めなくていいよと陰で言っていた。でも、あまりにも舛添さんの不正が明るみになったものだから、周りがついに辞めてくれと言い出した始末。だから僕は、小池さんには期待している。彼女には都議会の透明性に貢献してほしい。

三浦:小池さんは「政界の渡り鳥」と言われてきたけれど、その当時、当時に「改革志向」といわれる政党を渡り歩いてきた。だから彼女は改革しようとする人なんですよ。今後の小池さんは彼女のフォロワー(この場合、支持者という意味)にかかっていると私は思います。石破茂さんも政界の渡り鳥と呼ばれていたけれど、どこかで首相を目指すにはフォロワーがいないとダメ。フォロワーとは一般国民の支持者という意味ではなくて、政界内の(政治家の)支持者という意味です。その点、ヒラリーさんは政党内に多くの支持者を抱えているから、ここまで来れた。日本の場合、女性の政治家はいつも外側のロジックから来る。今回の場合もそうですが、都民からの支持は多くても、政界に彼女の支持者は少ない。それに比べて、男はまるで猿山のボス。政党内と政界に多くのフォロワーを持っている。そこが日本の政治における女と男の違いです。どんなに国民から支持されても、政治家のフォロワーがいないと成功できませんからね。

ギルバート:僕が思うに、今、世界に共通することは、政治家は国民の気持ちをまったく分かっていないということ。EU離脱だって、まさかしないだろうと政治家たちは信じていた。でも結果こうなった。僕は今トランプに票を入れようか真剣に迷っているんですよ。

猪瀬:ケントがトランプに入れようか真剣に悩むなんて、深刻な時代だな(笑)

三浦:1930年代の話に戻りますけど。

猪瀬:ああ。1930年代は共産主義とソ連が台頭してきた頃ですね。

三浦:当時は共産主義という明確な敵がいたから、分かりやすかったし戦いやすかった。今は資本主義を修正していこうと人々が思う時代になったけれど、共産主義はないし、明確な敵がいない。

猪瀬:今は既得権益が敵ですね。日本はついこの前まで国家社会主義だったと霞が関も言っているが、今は既得権益が敵。

三浦:そうなると、これからはイノベーションなどが生まれることで、新しい時代と希望が生まれると思います。日本はアメリカとまではいかなくても、イギリスくらい自由な国になりたい。イノベーションを阻害する規制が日本には多すぎます。

猪瀬:国家に目標があるかどうかという点も重要だよね。2020年の東京オリンピックは多くのイノベーションが生まれるきっかけになるかも。そして東京オリンピックの後、日本はどんな目標を持つべきか? 国家は理想と目標を持つことが大切です。僕はオリンピック後に、大阪万博を開く計画を立てています。テーマはずばり「長寿社会とイノベーション」です。

最後に会場は、聴衆からの質問を受けた。

質問者1:日本のグローバル化にとって、日本の参考になる国はあると思いますか? あるならどこですか?

三浦:私はイギリスが参考になると思います。イギリスは日本とよく似ている。島国だし、島国根性もあるし。日本は車産業などの「物づくり」ももちろん大事だけど、金融業をもっと重視した方がいい。イギリスがそうであるようにね。

ギルバート:みなさんも一度、日本でベンチャーを起こしてみてくださいよ。日本は融資のツテが異常なほど少ない国だと気づきます。

質問者2:唐突ですが、日本を一文字で表す漢字は何だと思いますか?ちなみに私は「和」だと思います。

ギルバート「外」ですね。日本はもっと外、海外に目を向けてほしいという意味を込めて、あえて「外」にしました。

猪瀬:ケントの答えが正解だな。日本という国は、もともと外国から色々や思想や物を取り入れて、それを以て「和」をつくってきたんだよ。他のゲストにも聞きたいところですが、それでは、時間がきたのでこのへんで。みなさん、本日はありがとうございました。

以上が2016年8月24日に開催された、第5回、日本文明研究所の講演内容の概要です。次回のレポートは再来月です。お楽しみに。

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