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海のふた 感想
全文面白い。そんな本にたまに出会える。
よしもとばななの「海のふた」はそんな本だ。
ひと夏を一緒に過ごした2人の女の子の短い物語。
大袈裟に言えば、人生のほとんどすべてについて書かれている。
あまりにサラッと人生とは何かが書かれていて、僕は恐ろしくなってしまったけれど、登場人物は息遣いが聞こえるほどリアルで切実なので、10代の女の子が語る「人生とは何か」についてのセリフがすとんと腹落ちする。
ここに書かれている人生観は、たぶん事実なんだと思う。
そして、その事実が怖いなあと思いながら、読み進めると、物語はほのかだけど、確かな光を示して、美しく幕を閉じる。
コーヒーのおかわりを飲み干すほどの時間で読み終わる薄い一冊だけど、心を厚くしてくれる一冊であった。
人生のそばに置いておいて、ときどき何気ない瞬間にパラパラと読み直すと、心の埃をはらったり、考えを整えたり、張り詰めた気持ちを緩めたり、怠け心をたしなめたり、ただ寄り添っていてくれたり。そんな本になりそう。
うん、何ていうか、優しい友達みたいな本。
名嘉睦稔さんの20点以上に及ぶカラー版画も、作品の世界観にどっぷりと浸らせてくれました。
短いけれども、大切なことに気づかせてくれる、絵本みたいな、そんな一冊。
追加
映画もあると知ってすぐに見たところ、残念な結果に。
この小説の主題がごっそり抜けてしまっていた。これには驚いた。生と死について触れなくてこの作品を映画化した意味が分からない。よしもとばななさんもこの脚本でよくOK出しましたね。とにかくびっくりしました。役者は悪くないです。脚本が残念。カメラワークは普通過ぎ。本当に素晴らしい原作なので、違う脚本と監督と撮影で、もう一度撮ってほしいです。