お持ち帰りされて、泣いて帰った話
僕は男ですが、お持ち帰りされて泣いて帰ってきたことがあります。まだ二十歳のときでした。僕を持ち帰ったのはビヨンセに似てたから、ナオミちゃんとします。
ナオミちゃんはアルバイト先の居酒屋にやってきた、ひとつ歳上でやたらとセクシーな人でした。酔っ払いに声をかけられてもあしらうのが上手で、居酒屋店員に必要な大人のスキルを持っていました。
ナオミちゃんは短期のアルバイトでしたが、その短い期間の中でちょうどお店の新年会があって、僕はその席で隣になってしまいました。
お酒の飲み方をまだ知らない僕は、やや飲み過ぎてしまいヘロヘロに。隣のナオミちゃんは酔っているのか、酔っているフリをしてるのか、クチに入っている氷を僕に食べさせようとしてきました。
いつも艶っぽくて柔らかそうなダークな唇が、氷を突き出して迫って来ていました。青年漫画でもなかなかないシュチュエーションに思考回路はショート。
新年会には他の従業員もいましたし、たしか「ダメですっ!」とか言って、断った気がします。僕はソレから避難するようにさらにお酒を飲み、いつのまにか眠ってしまいました。これがいけませんでした。
・・・・・
数時間後に僕は目を覚ますと、僕は知らない場所に知らない人たちと一緒にいました。僕、ナオミちゃん、ナオミちゃんの友達が男3人、女1人。
そこはナオミちゃんの友達の家で、いわゆる”溜まり場”的な感じでした。母屋からの離れになっていて、"悪いこと"をするには絶好の場所。
タバコは灰皿の上で山になり、見たことのない酒のボトルやヤバめのポスターがいっぱい貼ってありました。
僕はナオミちゃんに「ここどこですか?」と、青白い顔をして聞きました。それに『●●町の友達の家』と答えるナオミちゃん。歩いて帰ったら3時間。雪も積もっていたので自力で帰るのは絶望的でした。
『朝になったら友達と送っていくから、今日は遊んでいこうよ?』そう言ってナオミちゃんは、僕の太ももの内側に手を置いてきました。
僕は生つばを飲み込むのと同時に、これからここで何が始まるのかが、泥酔していても想像出来てしまい、恐怖を感じました。
そして僕はさらに青白くなって、表に出て吐きました。その友達のお父さんの車のタイヤに吐きました。車高の低い白いセルシオで怖かったけど、吐きました。
そうなると事態は急変しました。僕だけじゃなくナオミちゃんも友達も青白い顔になってしまい、『ウチの親父ヤベェから、オメー送ってくよ』と言って、家まで送ってくれました。
パニックと恐怖と酔い潰れた情けなさから、送ってもらう車中で僕は泣いていました。その友達の車のマフラーがめちゃくちゃうるさかったこと、ナオミちゃんも友達も結局は優しかったことが今も妙に忘れられません。
後日新年会に参加した他の人に聞いたところ、ナオミちゃんは僕を『酔い潰れちゃったから、友達呼んで送って行きまーす。』と言っていたそうです。それからナオミちゃんは期間を満了する前に辞めてしまいました。
若い頃の、ちょっぴり怖い失敗の話でした。汚い話でごめんなさい。もうこんな風な飲み方はしていません。