桜の下で髪を
桜を見に出掛けた。
出掛ける前に「帰ったら髪を切ってね」と夫に頼むと「桜の下で切るかい?」と言うものだから
なんだよ素敵と思いながら
「いいえ、お部屋で切ります」と答える。
桜を見て、途中で買ったパンや弁当などを食べながら
「この弁当だったらあっちの弁当屋のがいいよね安くてボリュームがあって美味しい」だの
「この大福は柔らか過ぎてまるで淡雪食ってるみたいだ」だの
「この苺と桜のピンクのパンは最近Twitterでよく流れてくるからずっと食べたかった」だの
殆ど食べ物の話で花より団子よねーで時々は
「いま鳴いた鳥はなに?」
「どう考えてもカラスでしょ」
「カワセミじゃない?」
「カワセミってこんな山の中にいるの?」
「さー、川かな」
「あのモジャモジャした植物はなに?」
「葦じゃない?」
「そーお?」
などと桜の花そっちのけでお腹が満たされ帰途に。
帰って来て夫が私の髪を切る。
百円ショップで買ったピンク色のケープを首に巻きつけた私が椅子に座り、中島みゆきの曲が部屋に流れる。
「真っ直ぐな線を引いてごらん」というその歌詞に耳をじっと傾けながら、そう言えばいつからか、私の髪を切る時夫はなにかしらのCDを選び音楽を流してる気がするな、自分で自分の髪を切る時も夫は音楽を流してるよな、気分が乗るのかな、乗るのだろうねなどと思う。
目をつむる。
桜の樹の下で椅子に腰掛け、髪を切られる私。
はらはらと花びら落ちる風が吹き。
真っ直ぐな線を引いてみる。
なんだよ素敵、映画みたい。
切り終わった。
気に入った。
けれどもちょっと自分で切り足し。
よしよし、似合う、春だし。
まぶたの裏。
桜の下で、髪を切りました。
春が始まったみたい。