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お父さんとお母さんから、1つずつ
中学生にあがるまで、わたしの名前の由来は、なんとなく嘘というか、ごまかされていた。妹は気がついていたみたい。わたしの名前は、お父さんの名前から一文字、お母さんの名前から一文字、とってきた名前なのだ。
小学生の頃、名前の由来を作文に書く宿題が出たとき。お母さんに聞くと、家の前に川があって、その周りの木が綺麗だったから、と言われた。わたしは川を囲む美しい樹木を想像して、わーなんて素敵! なんて思った。幹の細い木が影の中をぬって、水流が耳に微かに感じられるような、静かで神秘的な景色。少し遠くへ出かけたときにそんな景色を見つけたら、わたしの生まれたところってこんなのかしらとしみじみした。
ある日にやっぱり1番下の妹が同じ宿題を出された。8歳はなれた妹の名前は、わたしも一緒に考えた、かわいらしくて賢い名前だ。わたしとお母さんが、彼女の名前についてあーだこーだと述べているとき、ふと、1番下の賢い妹は、「お姉ちゃんの名前は、お母さんから一文字、お父さんから一文字とったんでしょ」と言った。わたしは、あら、違うよと答えた。たまたまだよ、と。そうじゃなくて、わたしの生まれた場所の風景なんだよと。賢い妹は、そんなん偶然なわけないよ、と笑った。お母さんはなんとなく居心地悪そうに、「まあ、生まれた場所のことも、嘘じゃないの」もごもごつぶやいた。お母さんがそんなふうに歯切れ悪くもじもじして、わたしはすっごくびっくりした。お母さん、照れてる!
それからわたしは、自分の名前の由来を思うたびに、まだわたしが生まれていない頃のお父さんとお母さんを想像するようになった。お父さんとお母さんはまず間違いなくテンションが上がっちゃって、ちょっと恥ずかしいことだとも考えながら、自分から一文字、相手から一文字とった名前を、生まれてくるわたしにつけようと話した。そして、本当につけちゃった! それを恥ずかしがって、または他の妹たちに後ろめたくて、わたしにすら黙ってるなんて。わたしは自分の名前さえあれば、愛しくてかわいらしくて、愛された思い出にかえるのだ。