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防災科学技術研究所 第32回共創考究会参加報告

2024年10月3日(木)、茨城県つくば市で防災科学技術研究所(以下、防災科研)の第32回共創考究会「データにより加速するマルチモーダルAIの防災減災活用~PART2~」が開催されました。

※第31回共創考究会「データにより加速するマルチモーダルAIの防災減災活用~PART1~」の詳細は以下の記事に掲載しています。

弊社(以下、TdR)は過去から防災・減災領域のR&Dテーマの一つとしてAI活用を進めています。
企業財産本部では社会経済物理・データサイエンスを専門とするTdRの矢野 良輔を中心に産学連携の研究活動を深めています。

第2回となる今回は当社(TdR)と共同研究を行っている、水野貴之氏(国立情報学研究所准教授)と北野慈和氏(電力中央研究所主任研究員)に外部有識者としてご講演をお願いしました。


リアルな人々の移動を生成する革新的AI技術

水野貴之氏は、様々な社会経済ビッグデータを用いた先駆的研究をしている研究者です。TdRとは、サプライチェーン領域で共同研究を進めており、様々な分析の指導をお願いしています。今回は、研究テーマの一つとして人流ビッグデータを用いたAIモデルの構築についてご紹介いただきました。
研究では位置情報データから移動軌跡(人流)を生成するAIモデルの構築を目指しています。モデル構築には、昨今の生成系AIの基盤技術であるtransformerを応用しています。構築されたモデルを活用すれば、プライバシーの問題から利用が制限される実データではなく、AIが作り出した人流で、多くの問題を予測、推定することが可能になります。
平時だけでなく、有事の人流を生成できるモデル構築に向けて、先日の能登地震における実際の人流データでは、場所によって人流に違いがあったことについてもご説明いただきました。
災害時に人々がどのように行動変容すべきか、など新たな示唆を多く与える研究でした。

水野貴之氏(国立情報学研究所)のご講演の様子

数値気象モデルによる長期・高解像度ダウンスケーリング計算結果を活用した耐風設計のための基本風速マップの整備

北野慈和氏は、電力中央研究所サステナブルシステム研究本部 気象・流体科学研究部門に所属され、電力設備への流体影響評価などに精力的に取り組まれています。
本会では、強風が電波塔に与える風荷重を精密に評価することの重要性を指摘されました。
一般建築物で利用される建築物荷重指針の基本風速マップでは、大山脈等の地形が考慮されていないため、四国山地の吹きおろし風で山地に建てられた電波塔が大きな影響を受けた実例があります。特に、風向が電線と直交する場合は鉄塔に大きな負荷がかかります。そのため、風向ごとの風速マップ評価の手法についてご紹介いただき、風向ごとに設計外力を定めることで設計の合理化が可能になる、とご説明いただきました。
都市部だけでなく、地方部山間部についても同程度の精度で風向ごとの風速マップを過去60年分作成されており、山間部に設置される風車や太陽光パネルなどの電力設備などに対しても、この風速マップの活用が期待されます。

北野慈和氏(電力中央研究所)のご講演の様子

スマホAI路面判定試験システムを用いた実証実験

防災科学技術研究所/雪氷防災研究センター、センター長の中村一樹氏には、積雪路面状況を自動で判断するAIについてご紹介いただきました。
特に、長岡市や札幌市で実証実験中の、スマートフォンを用いた路面状態画像判定AIの有用性についてご紹介いただきました。
乾燥、湿雪、水たまり、凍結、圧雪といった道路上の状態を分類するだけでなく、路肩の雪や道路幅なども検知できるAIであり、結果がリアルタイムに地図上に表示される実用性の高い研究をご紹介いただきました。

まとめ

総括として、TdRの矢野から今後の防災面でマルチモーダルAIが目指す方向をお話ししました。2回にわたる共創考究会で、経済、ロボット、人流、モビリティ、エネルギー(気象)という観点で、マルチモーダルなデータを防災減災にどう活用していくかを議論しました。
異分野の研究者でも、課題意識の多くは共通していることに気づかされました。防災減災領域におけるデータ利活用に向けて大きな示唆がありました。

文末になりますが、ご協力いただいた関係者の方々にお礼を申し上げたいと思います。TdRはこのような社会課題の多角的解決に向けて、今後も産学の連携を進めていきたいと考えています。

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