【三題噺】偽物の場所
三題噺とは、三つのランダムなお題から即興で話を作る落語の演目の一つです。ショートストーリーとして三つのお題からほぼ即興で書きました。
【お題】
一、無人島
二、偽物
三、小刀
目が覚めると、そこは見渡す限り海の孤島だった。頭が痛い。昨日自分が何をしていたのか、まったく検討がつかない。
とにかく、周りには海があり、木々が生い茂っている森があり、テレビでよく見る「無人島」で目が覚めたらしかった。
どうしたらいいんだろう。
早く、元の自分がいたところに戻る方法を見つけないといけない。私が何をしていた人なのかも分からないけれど。
島を散策していると、小刀を持った男が見えた。彼は、その小刀を使って森の草を刈ったり、実を食べたりしているように見えた。
よかった。無人では無かったようだ。彼に助けを求めれば、なんとかなるかもしれない。私は彼の元に小走りに走っていき、声をか
けた。
「すいません、ここはどこですか?」
彼は呆れた顔で何も言わない。
懲りずに、私はもう一度彼に話しかけてみた。
「すいません、本当にここがどこなのか、分からないんです。元いた場所に戻りたくて・・・」
彼はやっと口を開くと
「おまえが望んだんだろ。」
と、言った。望んだ?私がこの島に来ることを?そんな記憶はまったくない。
「いえ、そんなわけないです」
私が答えると、彼は持っていた小刀を勢いよく地面に刺してぐぐっと手前に引いた。地面には線が引かれた。彼は小刀を地面に置き、
その線に両手をかけて引っ張る。すると、信じられないことに、地面の奥に空が広がっていた。
「ここはな、偽物の場所。」
彼はそう言う。
私は何故かわからないが、ぞくぞくと寒気がしてきて、鳥肌が立ってきた。彼の次の言葉を聞きたくない気持ちになっていた。だが、
彼はそのまま続けてしまった。
「楽になれる、何も無い場所に行きたい。そう思った奴が最終的に来る・・・おまえらの言葉で言うところの偽物の天国だ。おまえ・・・
自分から死んだろ?決められた死に方しないと、お偉いさんが通さねぇからさ、ここに送られるわけ。」
私は、やっと理解した。
私はここに来る前、ビルから飛び降りた。
この小刀で開けた空を落ちていった感覚を思い出し、肌がぞわっとする。
「こんなところに来るとは思わなかったんです。どうしたらいいんですか?」
私は、彼に訪ねた。
「元の世界には戻れねぇ。ここは無人島みたいに見えるが、中には同じようなやつらが暮らしてる。この世界でまた人間関係やり直すのも手だろうな!」
彼は明るく言った。私は昔の気持ちが沸々と湧き上がるのを感じ、言葉はもう意識せず出ていた。
「私は・・・本当に死にたかったんです。偽物の中で・・・生き続けても意味ない・・・また同じようなことで悩んで、死にたくなる!!きっとその繰り返し・・・!?きちんと・・・ちゃんと死にたかった!!!」
「・・・おい、偽者。おまえがちゃんと生きないって決めたんだろ。俺にはここでの本当の生き方しか教えてやれねえよ。」
私は、生きる場所も死に方も、死んだ後の場所も選べないんだ。そんなのって・・・
「・・・私はちゃんと死にたいって決めたし」
私は地面に置いてあった小刀を取り、自分の首に突き刺した。
男が止めに入る途中の姿だけ見えて私の視界は暗くなっていった。
「ったく、なーにが、ちゃんとだ」
「はぁ、また偽の死に方したな、あいつ」
目が覚めると、そこは見渡す限り海の孤島だった。頭が痛い。昨日自分が何をしていたのか、まったく検討がつかない・・・・・・
おわり