わたしにとってのクジラ
大学3年生の夏、なにもない1週間をそっと、大事にとっておいた。
どこか遠くへ、全く知らない地へ足を運びたい。
すぐ近くのあの人を、大切に思うことを末長く積み重ねていきたい。
『旅する木』を読んだとき、そんな思いを抱いた気がする。
彼が好きだと語るアラスカのクジラ。
彼は重ねてこう綴る。
ほんの数分であたり一面霧に包まれる山の中で、アスファルトの道を進む人がいる。進む先に暮らしがある。
出発準備
まっさらなまま、大事に守り続けた1週間をどう過ごすかを考えていた。
家にこもってなにかに没頭
バイトに明け暮れる
瀬戸内の島旅
中国ダーツの旅
ベトナム縦断旅
台湾
▽
1と2:1日中家にいると、ランニングに出る(そんなこと滅多にしない)、夏が大好きでどこへでも駆け抜けて行きたいわたし、には難しかった。
3:島を旅して巡る、あこがれ。
4:一番わくわくだった。ただVISAの手配などが大変そうだったのと、動き出しが遅すぎて準備できなかった。将来やりたいことに加えることにした。
5:航空券が安い、圧倒的に。縦の長さを徐々に体感できるなんて、楽しそうすぎる。
6:ご飯が本当においしそう。
▽
選ばれたのはこちら
「ベトナム、できるだけ中国に近づく」
中国に行きたいとい思いを捨てきれず、航空券が安く一度も降り立ったことがないベトナムに行くことにした。
ベトナムの神山
ベトナムといっても、縦断計画も案の一つとしてあった通り、南北に長いため、どこに行くかは吟味しなければならない。
目をつけたのはベトナム北部。
棚田。急峻な地形で暮らす人々の生活。
大学の研究室で徳島県神山町、四国山地を通る川沿いの谷の町を対象に、調査研究を行っている。
棚田が美しく、訪れるたびにその景観に圧倒される。ちょうど8月も調査合宿をしていた。
見に行くべくは、ベトナムの神山。
ふりかえると過酷な旅程
0日目:滑り込みでテキトーかつ適当な Ha Giang Loop Tour に申し込む。
1日目:ハノイに到着。友人と合流。早速雨の洗礼をうける。夜、いけいけ欧米人らとともに夜行バスに乗車。深夜にホステルに到着、一旦就寝。
2日目:Tourのお兄さんが迎えに来てくれて朝ご飯を一緒に食べてくれる。いざ出発。休憩所から見えた民家の佇まいがめっちゃ神山だと思った。
3日目:あそこ中国ってくらい中国に近づいた。
夜ご飯を食べた後2,3軒目でカラオケできるお店に入った。みんなシャイすぎておどおどしながらも結局楽しく何曲かみんなで歌った。
4日目:地元の子どもたちに導かれてミニハイキング。
そして最後の夜。ドライバーに鬼ほど飲まされたハニーウォーター(とうもろこしの蒸留酒)。
5日目:
最後の最後まで更新される言葉が出なくなるほど美しい眺望。
そして街中に戻ってきてマーケットをうろうろ。まとめ買いしか許されない雰囲気漂うマーケットで桃をゲットし、ナイフなんてもったいないから歯で皮をむき、なんとかフレッシュな桃を完食。夜ご飯で入ったフォー屋さんはまるっきり英語が通じないため身振り手振りでおいしいフォーにありつく。お会計で大きなお札しか持っていなかった私に、大サービスで半額以下くらいの値段で食べさせてくれた。あったかい。
6日目:早朝3時ごろにハノイに到着(予想の2時間早い)。せっかく夜行バスに乗ったのだから宿に泊まるという手段をとりたくなく、夜道におびえながら24時間営業のおしゃカフェを発見し、一息。残りやりたいことをやりつくし、食べたいものを食べつくし、帰宅。
初めてのツアー
少人数でとっても楽しい Loop Tour だった!前日人数足りないからキャンセルされるかもしれないと言われ怯えていたけど、ちょうどいい人数になった模様。
フランス人カップル、イギリス人カップル、オランダ人姉妹。みんなちょうどいいくらいにシャイで、社交的で、居心地のいいグループだった!
そしてわたしは、人見知りであることをつくづく実感し、悲しくなった。旅先での出会いにゆるやかに身を委ねることができず、カチコチになってしまう。乗り越えたい壁。
わたしにとってのクジラ
ここで暮らしが営まれている。
急な斜面が一部、並行と水平が順番になって、手入れが行き届いた棚田。
その周りで暮らす人々。
ほんの数分であたり一面霧に包まれる山の中で、アスファルトの道を進む。
バイクや車が通るうねる道に、座っておままごとをする。
大きな岩の影で雨宿りをする。
雨が止んですぐ、ぬかるんだ道を籠を背負ってサンダルで歩く。
この瞬間は、なんでもないただそれだけのこと。
わたしが毎日を生きているという、なんでもないただそれだけのことと、並んで起こるということ。
この事実が、わたしがいつどんなときにも、そこにいていいと思わせてくれる。
美しいものばかりでもなくて
Ha Giangはアジア人の観光客は少ないが、欧米人には大人気の観光スポットだ。
わたしが今回体験したLoop Tourをいろんな旅行代理店が企画している。二輪車を自分で運転できるコースや、運転手の後ろに乗るコース、日数の選択肢も多い。
道路はアスファルトで綺麗に舗装されていることが多く、ところどころ絶景スポットが堪能できる売店付きの休憩所が設けられている。
2日目に訪れた休憩所。なんだか少しぎこちないメイクをした少女が美しい花々を入れた籠を背負っている。
後ろに広がる眺めのいい景色を背景に写真を撮る観光客。少し近づいてちゃっかり写真に何の気ない顔で映り込む少女たち。ときには一緒にいるお母さんらしき女性らに促される。
観光地となった場所で手っ取り早い稼ぎ方。
この生活の方法を選ばざるを得ない状況を今、わたしがここでつくっている。
見える景色が美しく、そこで営まれる暮らしは工夫が凝らされたもので、その姿を見にいきたいと思ったら。いやなものを見てしまった、そう思ってしまう自分に嫌気がさす。おもしろそう、たのしそう、この純粋な気持ちと裏腹にいろんな思いがじわじわと景色の明度を下げていく。
この場所に来ることができて、この景色を見ることができて、本当によかったと思う。
ただ、この場所の元の姿を想像してしまうわたしの矛盾に目を背けずにはいられなかった。
すべてが美しいなんてことはなくて。
そんなことを思いながらも、これからも見知らぬ地へ、素直な気持ちで訪れるのだろう。
ここで暮らしが営まれている、それを知っているだけではものたりなく、この目で確認したくなる、それがわたしがわたしでい続けることができる一つの大切なもののような気がするから。