【起業ノウハウ】一戸建て賃貸業⑻相続不動産の目利き
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最初から読み返す【起業ハウツー】一戸建て賃貸(その1)
前の記事で「一戸建て賃貸ビジネスの真髄は、売主の契約不適合を免責して、相続不動産を格安で直接買い取ることにある」と申し上げました。
本稿では、そのために不可欠な相続不動産の目利きについて、私なりの経験則をお伝えします。
一戸建て賃貸は、免責で売主に歩み寄る
不動産の売買は、およそ取引の1回性が高いものの、相手との信頼関係が極めて重要となります。
ゆえに、相続物件の価格が安いからといって、売主の満足度が下がるかというと、そうでもありません。信用できそうな買主といった要素が、売主をより納得させることがあるのです。取引後にも何かと声を掛けていただき、新たなチャンスが生まれることもありました。
令和4年度民法改正において、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更された背景は、もし何か不適合があっても、相互の信頼関係さえあれば追完または代金減額により売買取引を完了させることができる、すなわち提訴せずに話合いで解決できるという民意が表れていると理解しています。
宅建法の契約不適合責任の考え方
仲介業者は、第三者的立場で土地建物を仲介し、一般に公正妥当と認められる売買契約書類等を作成することで、所定の手数料を得ます。
それら書類のおかげで、売主は説明責任を果たし、買主は予見性を担保し、土地建物の契約不適合が払拭されるという媒介制度設計となっています。
一戸建て賃貸の契約不適合責任の考え方
他方、一戸建ての賃貸業者は当事者の立場にあり、リメンド(reMend)を前提としていますので、土地建物に不適合があっても、自前で解決するものとして直接売買します。
したがって、交渉の場にて、土地建物の売買取引は売主が素人、かつ買主がプロという問題点を自ら明らかにしたうえで、もしも未知の不都合や不具合があっても、あらゆる責任は買主が背負い、物件の全てを引き継ぐことを申し上げます。
わざわざ標準売買契約書に担保条項を留保しておき、後で売主に責任を取らせる、すなわち素人を騙し討ちにするようなことは一切しません。
その証として、私は特約条項にその旨を明記し、「フェアにやりたい」「すべてをお引き受けします」と申し添えます。
目利きという経験則が不可欠
さて、相続不動産を自己責任かつ直接売買で引き取る以上、一戸建て賃貸の仕入れは、修理費用及び月額家賃の目利きが必要となります。
まさに経験則という言葉が相応しく、自らの体験で培った物件の見方こそが、結果的に収益還元率を上下させるのです。
修理費用の見積り(長文注意)
第一の目利きは、修理費用の見積りです。
物件を見ただけで判断するスキルであり、現用か補修か、修繕か交換か、自前か外注か、などと各箇所を確認して全体の修理費用を概算しなければなりません。
土地建物は一戸ごとに異なるものなので、コツとしては、自分がもし住むならと基準に据え、やや多めに費用算定するところにあるでしょう。
躯体
・汲み取りの家屋は、例外なく上水道の鋼管も劣化しており、パスです。よほど立地がよければ水洗化のうえ給水管を交換しますが、指定水道業者を手配して1百万円超の投資となるため上級レベルにあたります。駆け出しのころは手を出すべきではありません。
・塗装は、どの指南書でも最も効果が高いとしていますが、自分でやるか外注するか迷います。外注において必ず見積合わせが不可欠なのは、塗装会社により施工内容と請負金額がまちまちとなる分野だからです。きっと地域ごと頼りにできる塗装業者は見つかるはずなので、飛び込みでも信頼関係を築きましょう。基本的に施工水準は10年もてばヨシとします。
・自分で塗装する場合には、流行りの細いローラーを採用し、塗料はアサヒペンを推奨します。プロが言うにはN本ペイントはダメとのことで、ホームセンターのOEMも日ペばかりでした。
・屋根の塗装は、足場込みで1軒分30万円前後であれば相場となります。
・外壁の塗装は、外注では面積が広いため高くつき、自前でやれば安上がりとなりパッと見では遜色のない仕上がりとなるでしょう。事前にマスキングしてシーラーを付け、水性塗料を2回塗ります。
・屋根の痛みは要注意で、室内の天井及び屋根裏から点検します。雨漏り・スガ漏り・結露の痕跡を見逃してはいけません。もしあれば、修理が困難なため、地味にダメです。そもそも解体すべき建物なので、解体費用を差引き、ほぼ捨て値でないと賃貸物件として仕入れできないと売主に説諭しましょう。仮に漏れ場所が特定できていれば、屋根の塗装業者へまとめて修繕するよう手配します。板金業者は引き受けるところがないのではないかと思われました。
・部屋の臭いは壁紙を張り替えれば止まりますが、汗をかいている状態すなわち石膏ボード内の断熱材に問題がある場合には黒カビが再発生します。壁をはがしてグラスウールを入れ直すことは自前で施工できる部分ですが、水回りは面倒くさく、一度シンクや洗面台を撤去するという管工事の技術も要します。
・玄関や廊下の古い臭いは、化粧ベニヤが原因です。水性木工塗料を塗れば止まりますが、シーラーもしくはプライマーを塗って色止めしてから壁紙をはる方法が見栄えがよくなります。
・FァブリーズやRセッシュのような消臭スプレーは一時的な効果は高いのですが、しばらくすると元に戻ります。
・壁紙の施工は、いい糊を使えば貼りつきが良くなり作業効率が上がります。
・天井は、ダイケン製ダイロトーンで決まり。この建材の優れたポイントは紙板なので軽く、一人で施工できるところにあります。
・床の傾斜または床材の腐食は、いい意味で誤魔化しが利く分野です。基本的に、昔の家は土の上に立っているため水平ではありません。施工方法として、レーザー水平器を当てて床を上張りします。
・畳の部屋はフローリング化が実に簡単で、小垂木と30ミリのスタイロフォームⅠBを敷設し、小垂木の下にスペーサーを入れます。そして杉板を捨張のうえフローリングを貼りますが、杉板の省略もありです。
・もしフローリングの部屋が窓側から腐っている場合には、フローリング全体を上張りします。取り合いと呼称される厚さの問題があれば、部屋の床ごと外し、大引・根太から調整材を入れ水平を取り下張り材を貼ります。厚さに無理があれば引き戸やドアを削ってしまいます。
・床の自前施工については、許容範囲であるラティチュードが広いので緩い施工になると私は思います。余談ですが、デジタル水準器は高精度なので、中古物件で用いると、すべての箇所が傾いており、修理してもなお傾いているため水平はある程度のレベルで一杯だとうんざりするでしょう。
・外窓は交換すると高級感が出ますが、自前で施工できない分野なので外注先を見つけましょう。市外の専門業者も頼りになります。網戸も付属していて助かります。
・内窓はYKK製プラマードUの型ガラスを推奨し、Low-Eタイプは少し高くなりますが結露が減り快適です。内窓のみは自前施工できるものの、何故かフレームがおかしくなるので、外窓とあわせて専門業者に頼む方が楽でしょう。窓とかドアとかの「建具は本当に難しい」です。
電気
・基本的にVVFケーブルやパネルは直射日光を受けないので劣化せず、耐久性はJIS基準であることから、さしあたり取換えなくても信頼性が高いです。
・ただしパネルのデザインが古臭くなるため、物件取得時には全交換することで、前の住人の気配を消すことができます。ことさら電気系統は前の住人の気配が残りやすいので交換すべき、とコメントしておきます。
・屋内コンセントについて、2口タイプは使い勝手が悪いので3口タイプへ私は交換しています。
・勝手口を塞ぐ場合、私はサイディングを使用するのですが、防水外部コンセントを設置するようにしています。屋外の電源は、家全体の使い勝手をとても向上させます。
・電材は、パナソニック系と東芝系がありますが、パナのほうが入手が容易で、フルカラーよりコスモシリーズがお勧めですが、たまにパイロットランプの暗いロットがあります。
・Eルパ社のFモールは、表示シールがきれいに剥がれません。両面テープも強力すぎて貼り直しできません。クソみたいな製品で、自社製品が現場でどのように扱われているのか、想像力の欠如したメーカーです。もっとも、金具やリメイクシートにも同様なクソメーカーが跋扈しています。
・OHM電機のFモールは、コメリで手に入り、申し分ありません。出隅や入隅のパーツも豊富です。
・LEDシーリングライトは、パナソニックかNECで決まり。製品に間違いがなく、調色なしや中古でも差し支えありません。特にNECのリモコンは優れており、信号が強いので設置場所を選ばないほか、後部ラッチにネジ止めできるためリモコンケースがなくても壁に設置できます。パナソニックにケースがない場合は、クラレ製マジックテープを貼ります。他のメーカーはいろいろと使いづらいのでパスします。
・LEDペンダントライトは、主として台所と和室に設置しますが、ヤマゼン社とコイズミ社がメジャーです。中古の場合は、ホームセンターでヒモを買って交換します。ホタルクスの製品も悪くありませんが、行灯が薄く、やや眩しく感じました。
・パナソニック製ドアホンを推奨します。アイホン製インターホンは耐久性に問題があるようで、親機が壊れているものを一式交換することが多かったためです。
設備
・毎日使うものなので、まず水回りを重点的に整備します。女性に気に入られるような最新かつ快適な設備を導入しましょう。一般的に、内覧でドン引きされてリーシング失敗するときは、だいたい水回りに敗因があったとご理解ください。
・台所は混合栓が主流です。私は馴染めないのですが、若い世帯にはディフォのようで、昔ながらの水道栓温水別には違和感があるようです。交換そのものは簡単な施工なので、借主の言うとおりにしましょう。浄水器内蔵タイプが便利だと思いました。
・台所シンクには、調理台と洗い物台の2つが必要です。いわゆる公団型と呼ばれる105~120ミリのタイプには洗い物台がありません。その場合は、クリナップ製ステンレスパイプ棚を上部に設置します。
・北海道の場合、2階の暖房が必要なので、オイルリフター(サーバー)の設置を検討します。管工事のなかでは簡単な分野で、2階に煙突がある場合は灯油ストーブの設置が簡単にできます。
・FF式ストーブを2階に増設する工事は、ダイヤモンドコアドリルで壁をブチ抜くのですが、意外にもプロパンガス会社が得意な地区がありますので、積極的に尋ねてみましょう。
・トイレは、温水便座を新規に入れ替えるべきだと思います。ウォッシュレットとはTOTO商標ですが、INAX製シャワートイレにしろパナソニック製アラウーノにしろ、いまどき温水便座にしていない物件は貸主の怠慢とみて間違いありません。借主の立場になって考えてみれば、いかに快適か思い起こすべきです。また、古いタイプは便座の横にスイッチがありますが、男性の尿が跳ねて付着するので、交換するからにはスイッチ分離式を選びましょう。
・温水便座には、瞬間式と貯湯式の2種類があります。瞬間式は高価ですが、使い勝手がよく消費電力が低いです。貯湯式は比較的安価ですが、一定量のお湯を温め続けるため消費電力が高くなります。
・温水便座のフチナシタイプは高級品ですが、メンテナンスに優れた傑作だと思います。
・トイレロールは2連装を採用しています。TOTO製の端がカーブしているタイプは落下防止で良かったものの、現在はINAX社ともフラットタイプのみが流通しています。モノタロウでINAX製が安く手に入りますがロールの交換部分に難があるため、私はアマゾンでTOTO製を入手しています。
・台所や洗面台の排水ホースが、VU管にそのまま入れてあるパターンが散見されます。下水の臭気が溜まり湿気で黒カビが発生しないよう、下水道シールリングを入れましょう。
・風呂場の床がタイルの場合、フクビ製あんからマットを施工します。厚さ4ミリありますので、私はパテを入れずに直接貼っています。
・シャワーヘッドも節水タイプに交換します。使ってみるとわかるのですが、たおやかな水流に慣れてしまうと、ほかのシャワーが許せなくなります。プラスチック面よりもステンレス面の方が細くて快適です。元栓の位置が低いと感じたらストップ機能付きを選びましょう。
・風呂場とトイレには排気ファンを設置し、第3種換気の要件を満たします。
・灯油ボイラーは、減圧式と直圧式、壁掛式と床置式、煙突式とFF式があります。追い炊き機能のあるタイプに交換したいものの、機種選定と設置工事は協力会社のアドバイスが欠かせません。
・減圧式ボイラーは、追い炊き不可なタイプが多く、工事代金が高くつきますが、ステンレス缶のため地下水汲み上げ地区では必須の装備となります。
・普通の上水道が使えるとき、私は直圧式を採用しています。減圧式は、逆流防止弁、減圧装置、サーモスタット混合栓など付属装置が高価で、しかもボイラー缶の温度維持のため燃料を浪費する設計だからです。
・Cロナ社は、自社のボイラーが壊れても修理しようとしません。私が協力会社経由で修理要請したにもかかわらず、設置状況が悪いと難癖をつけて断ってきました。私は自前修理を決断、直圧式煙突ボイラーUKB-SA380MXを分解のうえ、燃焼センサーを清掃して再稼働させました。もはやE4エラーは恐れるに足りません。
・さらにCロナ社はアグレシオのCMでトップブランドだと吹聴していますが、業者からは壊れやすいと聞いています。
・私のFFストーブFF-VG42SAの表示パネルが故障したり、半密閉ストーブSV-V45M63の塗装が剝げる耐久性を何だと思っているのか、トップブランドとやらに腹が立ちます。
月額家賃の見込み
第二の目利きは、借主の月額家賃の見込みです。
本編その1で申し上げた、各市の簡単なデータ分析のスキルを生かし、SUUMOを見て幾らでリーシングできるのかを総合判断します。
月額家賃4万円
・一戸建て賃貸は、基本的に4万円をベースに、世帯の方が住んでみたいと思える場所、間取り、家賃となるか検討します。
・世帯には「こういうのでいいんだよ」という線引きがあると記しましたが、リメンド(reMend)は「あったら嫌だ項目」を減らすことに軸足を置きます。
・躯体・電気・設備は、もし自分が4万円で住むならという想定で点検してみましょう。
・最近の傾向はペットであり、室内向けの犬猫を飼っている方が多いことを知りました。大家が口うるさいことを言えば残留アレルゲンとか出てくるのでしょうが、数年後の見ず知らずの人のために、いま賃貸を渋る必要はないのではないかと思い直しています。なにしろ、ペットを飼っている世帯は奥床しく、賃料アップを受け入れてくれるためです。
・さらに、北海道のトレンドは駐車場2台分です。夫婦共働きの世帯は車2台持っていますので、駐車場2台分無料という求心力は他を圧倒します。
・冬期間の除排雪代金が必要な地区もあり、受益者負担なので契約前に丁寧な説明が必要となります。
収益還元率20%
・収益還元率は、①土地建物の取得価格、②修理費用、③月額家賃、の3母数により率が変動します。
・上記の②修理費用と③月額家賃が決断できれば、おのずと①取得価格が浮き彫りになると思います。収益還元率20%を常に意識しましょう。
・一応の目安として年間収入48万円と見込むことから、物件は修理費込みで240万円とします。
・もっばら、土地建物は60~120万円で仕入れることになるのではないでしょうか。(物件の取得価額120万円+修理費用120万円)×収益還元率20%=48万円という計算になり、この場合は物件を月額4万円で賃貸することで達せられるからです。
まとめ
相続物件を見る機会を得たとき、誰しも興奮して、思わず欲しいと思い込んでしまう刹那があります。
しかし、買うという意思表示をする前に、リメンド(reMend)後の活用を数字へ置き換えて計算しないといけません。
ひと呼吸、おきましょう。
一戸建て賃貸は、リーシングに至ってこそのビジネスモデルだからです。
長文で細かく列挙しましたが、経験則というものは人によりけりだと承知しております。起業したての頃は、躊躇うことも多いし、感覚的に判断しかねる相続物件もあるかと存じます。
私の経験則は、主観的に迷ったら、ググって客観的データを用いることです。客観的に迷ったら、周りの人に教えてもらうこととしています。
次の記事では、相続不動産を直接売買するときの作成書類について、私の様式を公開するとともに、技術的な解説を記してみました。
続きは⑼直接売買の書類作成