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「ニュースの未来」からみる新しさ、取材記者と新規事業担当者

noteのオンラインイベント。石戸さんの誠実さと挑戦の姿勢に触れたことをきっかけに「彼の姿勢のかけらでも受け取らなければ」と思い立ち、読んでみました『ニュースの未来』


新しい、ってなんだろう

新規事業は、つねに既存事業と対比され、どこかに新しさを求められます。その点では、新しいことを伝えるNEWSにも、同じことが要求されます。

では、ニュースの「新しい」とはなんなのか。インターネットが普及して、1年前の記事が再び話題になり多くの人たちに読まれる現象を眼にし、彼は「新しい」を定義し直します。

読者は1年前の記事だから「新しくない」と考えたのではなく、自分が知らなかったこと、それまでになかった視点があればいつの記事でも「新しい」ものとして読んでくれる。つまり「新しい=速報のアップデート」ではなく、「知らないことを知ること=新しいこと」だったのです

ニュースの未来 p.66-67

ニュースが『速報』である必要はなく、読み手にとって「知らないことを知る」につながるのであれば、それは新しいニュースである。そう捉え直すことで、社会を独自の視点で捉え直す『分析』や、人や物事の動きに注目した『物語』にも、ニュースとしての価値を認められるのではないか、と。

新規事業も「だれもやっていないことを速く世に出す」という『速報』としての価値を求める見方があります。スピード感があり、刺激的で、周囲を驚かせる分かりやすい『速報系新規事業』は、若手の挑戦と成長の機会になり、価値があることは間違いありません。
加えて、これから価値を認められていくべきなのは、一見わかりにくい『分析系新規事業』や、共感されにくい『物語系新規事業』なのでしょう。業界構造を紐解き、独自の視点から最適化する。それはその業界に馴染みのある人達以外には、その新しさが伝わりにくい。特定の人たちに焦点をあてるシナリオは、ボリュームでターゲティングしてきたマスマーケティングと相容れず、共感されにくい。しかし、時代の流れに翻弄されず、地道で愚直な分析を重ね、物語を紡いだストックは組織にとって「知らないことを知る」「新たな意味を創る」ことに繋がるはずです

新しい、に取り組む人の条件

彼が新聞記者時代に経験し、ニュースを仕事にする上で欠かせない力として身につけたのはニュースを「おもしろがる力」と「取材力」でした。

より正確に言えば、単なる「好奇心」ではない、「思慮深い好奇心」です。他人の不幸に土足で踏み込むことをよしとせず、相手が語ってもいいと思えるまでの関係を構築し、「知りたい」を伝えること

ニュースの未来 p.123

人間にあたって、事実を調べ、見解を持つ力である、と。資料を探す、資料を読み込む。仮説を立てて専門家に話を聞く、当事者を探し当ててインタビューをする、何かを体験する・・・といった行為を組み合わせることで事実を探り、事実に対する考えを持つ。

ニュースの未来 p.128

どちらも新規事業に通じる技術です。社会に存在する課題を解決しようとするとき、課題という不幸を抱える相手から、その内情を教えてもらうことから新規事業も始まります。
はじめの原動力は「知りたい」という関心と好奇心であり、気がつくとそれが「自分たちが解決しなければ」という使命感や正義感に変わる。関心から関係をつくる、そのステップを飛ばした解決策の押し付けでは相手から拒絶されてしまいます。

新規事業でも、事実と見解・仮説の両方が必要です。「自分たちが考える仮説を検証したい」という想いに傾くと「仮説が正しくあってほしい」という希望になり、盲目的な「仮説が正しいことの検証」になりがちです。しかし始めに必要なのは「事実は何なのか」を確かめること。事実を集めるとたくさんの情報量になり、仮説の検証という目的からみると無駄な事実も多く含まれます。しかし「今の仮説は必ずどこかズレている」という確信をもっていたら、全ての事実に意味が生まれてきます

新聞記者の間には「十の取材をして、一を書くことが良い記事」という格言があります。これはその通りなのです。一見すると無駄だと思うことも多くを取材して、最後に残った一を書くことで、記事はより強靭なものになります。大事なのは、残った一を書くための分量を確保することと、捨てる9割を自分で選べることです。

未来のニュース p.165

事業企画書に使う事実はごく一部ですが、「この企画で間違いない」と思うためには、「この仮説以外の可能性はありえない」と思えるだけの事実確認が必要になります。次の挑戦者にとっても有用で再現性ある知恵を積み重ねて残していくには、取材力を鍛えることが必須です

新規事業担当者は、毎日取材を繰り返し実践できる新聞記者からキャリアをリスタートしてもいいかもしれません。