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Ultima Onlineの思い出3

第1回でも書いたのだが、UOの世界には普通にPKがいた。

PKというのは、今ではあまり馴染みのない言葉かもしれないのだが、英語で言うところのPlayer Killerの略称で、つまるところ、「プレイヤー殺害を目的としたプレイヤー及びその行為」のことである。

DiabloやらUOやら、ネットを介して多人数が同時に遊べるゲームには、常にこのPKが存在した。これらのゲームは基本的にはプレイヤーが協力してNPCであるモンスターに挑むというのが骨子ではあるのだが、そこはやはり血の気の多いというか狩猟民族というか、闘争本能高めのアングロサクソンどもがデザインしたゲームなので、対プレイヤー戦闘のシステムも当然のように存在していたのである。

どちらかというと農耕民族よりの日本人たる私は、このPKというシステムは基本的に嫌悪していたのだが、ただ、当時の概念としては「マルチプレイに押し付けPKはいて当然である」という常識に縛られていたので、「あ~あ、PKのいない平和なゲームがしたいもんだよ」とはあまり考えなかった。焼魚には骨が付いていることが当たり前で、「あ~あ。骨のない焼魚が食いてえもんだよ」などと思わなかったことと似ていると言える。

だが、既に時代は令和になり、スーパーにも「骨撤去済みサバの塩焼き」といった風情に欠ける商品が並んでいるように、昨今の健全なMMOでは、PK行為というのは雁字搦めに枷を嵌められるのが通例なようで、「特定のエリア内だけ対人戦闘が行える」とか「相手に戦闘を申し込んで受け入れられたら戦える」とか、まあ双方の了承のもとでないと対人戦闘は行えないものが大多数であるようだ。

だが、さすがというか、やはりというか、UOにおいては、エリアがどうとか、相手の了承がどうとか、そういう七面倒なことは一切関係なく、いついかなる時と場所でもプレイヤーを攻撃することができた。もちろん相応のペナルティはあるにはあるが、これといって致命的な制限でもなかったので、ごく普通に、リアル世界でいうと野良猫を目撃するくらいの頻度だろうか、それくらいの感覚でPKは我々に襲いかかってきた。

一応、簡単にUOのPKシステムというか、対プレイヤーにおける戦闘や窃盗などの加害行為システムについて触れておこう。

UO世界では、プレイヤーは基本的に「青ネーム」と呼ばれる立ち位置を取る。この青ネームは、善人であることを示し、青ネームへの加害行為はシステム上犯罪として扱われる。

そして、犯罪行為、つまり青ネームへの加害行為を行うと、名前は灰色になる。この灰色は「あなたは悪いことをしたので一定時間の罰を与えます」ということになっている。灰色ネームの何が罰になるかというと、灰色というのはオークや羊やそこらへんの馬やクマや、はたまたダンジョン内にいるいろいろなモンスターとか、要するに「殺してもペナルティがない」という存在の印なのである。ペナルティがないから、攻撃しようが殺そうが身ぐるみ剥がそうが一切罪に問われない。青ネームの人間が灰色ネームを殺しても、それは正当な行為であり、正義なのである。

とは言え、青ネームを保っている連中は基本的に善良なプレイヤーなので、フィールドで灰色ネームを見かけると、基本的には警戒しつつも、積極的にぶっ殺して「剥ぎ取りチャン~ス!」とばかりに身ぐるみ奪おうという人はあまりいなかった。

まあ、灰色ネームは割と軽い罰なので、時間経過で結構すぐ青ネームに戻れる。別に善行を重ねるとか、協会に寄付するとか、政治家にパーティー資金を援助するなどの行為は必要ない。

さて、青ネームへの加害行為で灰色ネームになると書いたが、ことはそこで終わらない。加害を続け、というか要するに攻撃しまくって青ネームをぶっ殺すと、晴れて赤ネームになることができる。これは「殺人者」の印であり、完全なる悪人の印である。こうなると普通の街には近づけなくなる。街には無敵の衛兵が常駐しており、赤ネームが街に入るとどこからともなくワープしてきて一撃で葬り去るのである(一応、赤ネームでも使える街が辺鄙な場所に一つあった)。また、通常、プレイヤーは死ぬと幽霊になって町の教会やフィールドをたまにうろついているNPCヒーラーに復活させてもらうのだが、赤ネームだとこれらが利用できなくなるので、復活には仲間の魔法を頼ることになる。

赤ネームの人たちはなぜか服装も赤ローブが多かった。

ただ、UOでPKを好む連中というのは、もうすでに一財産築いた連中ばかりで、またPK同士の横のつながりなんかも結構強かったらしいから、上記の「街が使えない」とか「野良ヒールが期待できない」みたいなペナルティはほとんど意味をなしていなかったはずである(知り合いに純然たるPKはいなかったので、これらのことは知り合いの知り合いの、みたいな又聞きになってしまうが、まあ多分合っていると思う)。

最低限の装備だけを持ってプレイヤーを殺してまわり、うまいこと戦利品が入手できれば自宅に帰って保管するし、もし返り討ちにあっても仲間のアカウントの別キャラで蘇生してもらえば何の問題もなかったのだ。

とはいえ、初心者の間はあまりPKに会うことはなかった。なにしろ街のすぐそばで羊を殺していただけであり、ろくな金も装備も持ち物も持っていないのはひと目で分かるわけだから、PKにしてみれば、街の衛兵の件もあって、わざわざ殺そうと思うような獲物ではなかったわけである。

また、赤ネームになってまでPK道を邁進している連中というのは、別に他人のアイテムがほしいとか、あわよくば死体からソイツの家の鍵を奪って溜め込んだ全財産を根こそぎ奪ってやろうとか、まあそういう面も少しはあったのかもしれないが、基本的には「人を殺すのが楽しい」という、言葉にしてみると人格破綻者のようなモチベーションでプレイしていたのだと思う。今でこそ基本無料で様々な対人ゲームがあるが、当時は人対人かつ1対1から複数入り乱れての大規模乱戦までが楽しめるゲームはあまりなかったから、要するに「対人戦闘がしたい」という、ある意味では純粋な動機からのPKだったのかもしれない。

で、赤ネームはそういう感じで、初心者狩りのような行為も少なかったし、そもそも名前が赤いから見かけたら全力で逃げればいいわけで、私自身も赤PKに狩られたという経験はほとんどないのだが、実はUOにはもう一種類、実にろくでもないPKがいたのである。

それが灰PKである。

これは自分が灰ネームになってPKをするのではなく、「青ネームを様々な手管を巧妙に使いこなして灰ネームに変え、自分は青ネームのままソイツを殺す」という、今で言う「煽らせ運転をして相手が怒り狂って煽り運転を始めたらそこからドラレコに録画してYoutubeで再生数を稼ぐ」みたいな卑怯千万な輩のことである。

UO世界では、意図せずに犯罪行為に手を染めてしまうケースというのがいくつかある。一番よくあるのは、「己の出した魔法で赤の他人が害される」というやつで、たとえば「ファイアーフィールド」という炎の壁を出す魔法があるのだが、これを「しめしめ。オークが壁の向こうで列になってやがる。範囲魔法で一網打尽だぜ」とばかりに放ったとする。そしたらそこへ用もないのに知らん奴が一瞬だけ突っ込んできて、ちょびっとダメージを受けると、それでもうこちらは「善良な青ネームに魔法でダメージを与えた罪」で灰ネームになってしまうのだ。

「俺の魔法がおかしいって、弱すぎって意味だよな?」「うん」

これはフィールド系の魔法全般に言えることで、だからうかつにフィールド魔法を出すことはあまり頭の良い行為ではなかった。

また、ブレードスピリットという剣の精霊を召喚する魔法もあり、この精霊は中位魔法のくせにめちゃくちゃつええのだが、頭がパッパラパーなので呼び出したこちらの命令なんぞどこへやら、オークだろうが鹿だろうがドラゴンだろうがプレイヤーだろうが近づくものは片っ端からターゲットして襲いかかるというAIなんざクソ喰らえという趣きの無差別通り魔のような精霊だったため、「周りに人もいなさそうだし、BS(BladeSpiritなのでこう呼んでいた)で楽して狩るか」とか呑気に考えてうっかり召喚したりすると、またどこからともなく用もないのに知らんやつが現れてBSからターゲットされるまでわざわざそこら辺に佇んだりするのである。自分が出したBSがその知らんやつをターゲットしてしまうとやはり「善良な青ネームを戦闘ターゲットにした罪」で灰ネームになってしまうのだ。

見て分かるようにコイツは脳も耳もない。パッパラパーなのも仕方ない。

青ネームを灰ネームに変える手段は他にもある。

オーク砦のような敵も味方も入り乱れるような場所で、素っ裸でそこらじゅうをうろつき回って殺されまくって自分の死体をそこら中に撒き散らしておくと、「やった! 初めて1対1でオークを倒した! 死体からアイテム回収だ!」とか目の前の戦闘に夢中になっている新人がオークの死体をダブルクリックするつもりでうっかり青ネームの死体を開いてしまう事故が起こることがある。これも、「善良な青ネームの死体を漁った罪」で、知らぬ間に灰ネームになってしまうのである。UO界では、「あなたは今他人の死体を漁ろうとしています。本当にいいですか? はい/いいえ」みたいな過剰な親切は皆無なので、まあこういうことは起こりがちなのだ。

あとは乱戦の場へこっそり混ざって執拗にまとわりついて自分がターゲットされる操作ミスを誘うような原始的かつうっとうしいやつもいたはずである。

で、とにかくまあそうやって相手を灰ネームにしてしまえば、正義の名のもとに殺戮許可証が発行されたようなもんなので、「人は殺したいけど赤ネームにはなりたくない」といった、「成績は上げたいけど勉強はしたくない」「痩せたいけど食べたい」「フォロワーはほしいけどフォローはしたくない」みたいな姑息な輩が、ここで挙げた灰PKなのである。

ちなみにMPKというやつもいて、これは「MonsterPK」なのだが、要するにダンジョンのようなモンスターがじゃうじゃいるところで自分が囮になって大量のモンスターを集め、その御一行を引き連れて別プレイヤーのところへなだれ込み、パニックに陥った現場を尻目に自分はハイドとか隠れ身で隠れた上で何事かと慌てふためいている相手がモンスターに蹂躙されるのを待つという迷惑極まりないPKである。

総じてこういった連中は、赤PKのような北斗の拳的暴力がすべてを支配するのだ思考とは異なり、なんつーか、他人が困ったり悲しんだり怒ったりすることイコール自分の喜びである的な、うすらねじまがったモチベーションを持っていたのに違いない。いや、多分ちがうとは思うのだが、私自身、赤PKなんぞよりもこういった迷惑系Youtuberみたいな連中に煮え湯を飲まされた経験の方が圧倒的に多いため、どうにも擁護する気がしないというか、どうしても冷たい目で見てしまうのである。

大体、こやつらは、「ちきしょおおおおお。やられたああああ!」とかこっちが怒髪天を衝いたとしても、そもそも青ネームなわけなので仕返しができないのである。今だったらスクショでも取って匿名でSNSにアップしてあることないこと罵詈雑言を並べ立ててやるところだが、当時はそんなもんもないし、まったく腹立たしい連中なのである。

ということで、話を私自身に戻そう。

前回、意気揚々とオーク砦で絶倫オークどもを狩り殺して捨てるほどオークマスクを拾い集めていた私だったが、何回目かの遠征のとき、この場所で初めて灰PKに殺されたのである。

被るとオーク面になれるオークマスク。

初めは何がなんだか分からなかった。なぜか知らんが、青ネームの見知らぬ男が私をゲシゲシ攻撃してきて、そもそも「プレイヤーに攻撃される」という経験が初めてだったこともあり、「なに? なんなの? なんでこいつ俺を殴ってんの? これPKなの? でも青ネームじゃん?」と、もう何が何だか、何が起きているのかさっぱり理解できなかったのだが、そうやって困惑しているうちに、大して戦闘スキルが充実していない私はコロッと死んでしまったのである。

UOでは死ぬと肉体はそこに置いたまま幽霊になるという話は以前したと思うが、私も例外なく死んで幽霊になった。ほんで、私を殺したそやつが私の死体を漁るのを呆然と眺めた。オーク砦には私の友人であるNとSも一緒にいたはずだが、彼らも恐らく何が起きたかは分かっていなかっただろう。

友人たちが高レベルスキルを要求する蘇生の魔法を使えるはずもないので、仕方なしに私は徒歩で街へ戻り、生き返り、全裸でオーク砦へ取って返した。死体の中身はあらかた持ち去られていて、残っているものはどこでも拾えるようなしょうもない武器やオークマスクだけであった。

結局、その時に何が起きたのかというのは、後ほど知った。我々の指導員である口の悪いAにこの出来事を話した時に、この世界には灰PKというやつがいて、初心者を狙っているということを聞いたのである。

そんなもんがいるなら先に言っとけやとAに文句を言いたかったが、それよりも何よりも、UO界で「プレイヤーに殺さた」という経験の衝撃はかなりのものだった。

それまでもDiabloなんかでPKには頻繁に殺されていたし、先に仕掛けてきたしょぼいPKを返り討ちにすることも少しはあったのだが、DiabloでもPKというのは、「私のキャラが倒された」という感覚であり、まあ言ってみればアクションゲームで1ミスしたときとそこまで大きな違いは感じなかった。

ところが、UOで殺されたときは、自分でも不思議なのだが、「自分自身が殺された感」が強烈だったのである。UOのプレイヤーキャラというのは別にリアルでもないし、ボイスもないし、今のMMOならヤケクソみたいに盛られている各種モーションなども一つも持っていない。にも関わらず、私は無意識のうちに、あたかもプレイヤーキャラを私自身の分身であるかのように感じていたらしいのだ。

これは恐らくUOというゲームの世界の作り込みが凄まじかったからだと思う。一つ一つの要素はもちろん現実に比べれば簡素化されていたが、とにかくUOにおいては「ここは一つの世界でありあなたは住人である」という刷り込みが徹底されていた。だから、プレイヤーもゲーム内では「アバター(分身)」という名目で扱われていたのであろう。

私は比較的初期にUOを始め、大きな転換を迎えた3Dクライアント導入のあたりで辞めてしまったプレイヤーなのだが、その後にいろいろなMMOを渡り歩いてみても、UO以上に「世界で暮らす」という感覚を味わったゲームはないと断言できる。

ちょっと長くなりすぎたので、今回はこの辺で。

次回は、初めての家購入と、恋愛詐欺にあった話でも書こうと思っている。

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