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Ultima Onlineの思い出2

すっかり更新がご無沙汰であった。

なんかnoteからの通知で、「11月中に記事を書けばうんぬんかんぬん」とかも来ていたのだが、仕事や私生活が慌ただしく、こちらの更新も、「あー。更新しないとなー。こんな俺の他愛もない話でも、読んでくれる人がこの地球上にいるんだからありがたいことだよなあ」などと頭の片隅にはあったのだが、日々の忙しなさに紛れているうちにあれよあれよこんなに間が空いてしまったのである。

でまあ、せっかくだからUOの話の続きをしよう。

デルシアの街で馬と別れて悲しみに暮れていた私だったが、すぐに馬なんぞそこらじゅうにうじゃうじゃいることを知り、というか馬どころかラマに乗っている人もいれば、恐竜チックな爬虫類に跨っている人もいて、この世界ではみんな何かに跨るのがノーマルスタイルなのだと思い知らされた。

こちらが騎乗用ラマ。喜ぶ気持ちは充分に分かる。

さて、その後、私と同時期に始めた二人の友人(もちろんリアルの友人ではなく、顔も声も年齢も職業も知らないネット仲間)とともに、デルシアの街を拠点にいよいよ冒険生活を始めることになった。

とは言え、当時のUOは近代化した昨今のMMOのように「こなしていくと装備一式が揃う初心者クエスト」とか「町の住民の簡単なおつかい&討伐クエスト」みたいなもんは一切なく、着の身着のままで放り出された後は、「どうぞ・・・存分に夢を追い続けてください・・・! 我々は・・・その姿を心から・・・応援するものです・・・・・・!」というなかなか過酷なゲームスタイルだったので、我々初心者ズッコケ三人組も、「さて何をどうしたらよいものか」と少々困惑気味であった。

そもそもUO自体、世界としてのゲームシステムだけは異様に作り込まれてはいるものの、ではそこで何をするかというのは完全にプレイヤーに任されていたのである。だからして初心者は手探り状態でアレコレ試してみながら、徐々に自分の目的を見つけていくしかなかったのだ。

そこで我々は、仲間のうちの先達者である口の悪いいけ好かない野郎(Aと呼ぶ)にアドバイスを求めた。すると、「おめーらはてんで雑魚だからまずは町の北にある野原で羊を殴ってステータスとスキルを上げろ」と言われたのであった。

当時のUOは、レベル制のRPGではなく、取った行動に応じてステータスとスキルがじわじわと上昇していくいわゆるFF2方式だった。

ステータスはうろ覚えだが、確かHP(体力)とMana(魔力)が基本ステータスで、そこに加えてSTR(腕力)とINT(知能)とDEX(器用さ)があったと思う。体力を使えば体力が上がり、腕力を使えば腕力が上がり、と、普段の行動に応じて能力が上がっていくのである。

だから、山で木を切っていると腕力が上がりつつ伐採スキルが上がり、魔法を唱えればINTが上がりつつ詠唱スキルが上がり、剣でこざかしく戦うとDEXが上がりつつ剣術スキルが以下同様、などとなるわけで、とりあえず雑魚中の雑魚である私達は、死ぬ恐れのない相手と戦って体力や腕力を最低限のところまで上げなければ、冒険のボの字もないわけなのだ。

ちなみに、ものすごいうろ覚えなので間違っている気もするのだが、HPとManaはそれぞれ225だか256だかが上限で、STRとINTとDEXは合計225が上限だったはずである。加えて、山ほどある各種スキルは合計700が上限だった(これは間違いないはずだ)ので、まあ序盤は何がどう上がっても特に問題はないのだが、キャラの完成に向けては、「STRとINTを100に保ってDEXは25に止めておく」ことと「スキルは有用なもの7つを100にして、その他は0のままにする」ことが基本だった記憶がある。

これは要するに、「何も考えずにアレコレ手を出してスキルがあれもこれもとちょっとずつ上がっていくといずれ合計700の上限に達して、その後は何かが上がるたびに何かが下がるという地獄のバランス取りが始まる」ということを意味していた。スキルの上昇は取る行動を制限することである程度調整はできるのだが、下がる方は自分では何の介入もできないため、下げたいものは下がらずにせっかく上げたものが下がって悔し涙を流すといったことが日常茶飯事で、7つを全部100に揃えるというのは初期のUOでは結構大変なことだった。

しかも初期の頃は、「スキルは周囲の影響も受ける」という不必要にリアルな仕様だったため、銀行前で楽器をかき鳴らす奴がいるとその影響で上げたくもない演奏スキルが上がって地獄の思いで100まで上げた詠唱スキルが下がるようなとんでもねーことも起きていた。スキルは0→1は簡単だが、99→100はとんでもねー鍛錬が必要なため、このスキル関係で枕を濡らした人も多かったはずである。

まあ運営側もさすがにこの仕様は鬼畜すぎると反省したのか、早いうちにスキルとステータスにロックできる機能が付いたので、それ以降はスキル上げは割と気楽に行えるようにはなった。

さて、話を戻そう。

いけ好かないAのアドバイスを受け、私と友人二名(NとSと呼ぶ。Nはサイコパス気味の狂人で、Sは紳士的な常識人であった)は、言われた通りに原っぱへ行って、そこで平和に草をもぐもぐしている羊に向かって血相を変えて襲いかかった。今考えれば、我々は貧相な服装に加え素手だったから、なんというか、教養の欠片もない飢えたバーバリアンが食料を求めて手当たり次第に殺戮を始める、みたいな恐ろしくもアホらしい絵面だった。

当時のUOの戦闘は、「殴りたい相手をダブルクリックして戦闘モードに切り替えたら後は近づいてボコスカしたりされたりする」といった粗削りなシステムだったと記憶している。ちなみに、戦闘モードに切り替えるとキャラ絵もそういう感じになり、素手だと両手を振り上げた滑稽なポーズになったはずだ。

したがって、画面の中の私は両手を振り上げ、ターゲットたる羊ににじりにじりと近づき、近づくや否や自慢のゲンコツで羊の撲殺を目論むという狂気に満ちた戦闘スタイルを披露したのである。

もちろんNやSも同様だった。Nは倒した羊の死体を過度に解体してみたり、死体を並べて地面に字を書いたり、その狂気性をここでも発揮していた。Sは淡々とした態度で、流れ作業の工場仕事のように粛々と羊を処理していた。Sは親しくなったあとも常に「~です/ます」で話すやつだったので、あからさまにキチガイめいた挙動を嬉々として繰り返すNにも呆れたが、その一方でSもSでなんか冷静な殺人マシーンみたいで恐ろしかった。

グレーの芋虫みたいなのが羊である。上では生体1、死体4である。

さて、羊の群れを襲う血に飢えた三人の初心者だったが、じゃあこれでステータスがじゃんじゃん上がるのかというと、これがまたちっとも上がらねーんだよホントに! もう遠い昔なので詳細はろくに覚えていないのだが、もうマジでぜんぜん上がらないのである。ステータスもスキルも、もう本当にぜんぜん上がらないの。羊百匹殺してやっとSTRが2上がったとかそんな感じ。しかもですよ? スキルは上がってもですよ? なんとこれが0.1刻みなんですよ。

これはUOに限ったことではないと思うのだが、昔のゲームは全体的に厳しかった。懐も広いが闇も深い、みたいな感じで、とにかく時間のかかることをむやみに要求されたような気がする。

そんでまあ嫌だったらやらなきゃいいだけの話なのだが、なぜか当時のプレイヤーはそういう悪辣非道な仕様に特に文句も言わずに唯々諾々と従っていたというか、むしろ喜んでその苦行に身を捧げていた。

UOの話が一段落したらEverQuestの話もしようと思うのだが、EQなんてもうホントとんでもない鬼畜仕様だった。だって、一ヶ月かけて貯めた経験値が2~3回死ぬとオジャンパーなんですよ? 許されないでしょ普通? でもなぜか皆受け入れていたんだなあこれが。もちろん高レベル帯の話ではあるのだが、本当にあの瞬間の虚脱感というのは凄まじかった。悲しいとか辛いとか通り越して、心が真の虚無でしたねアレは。

令和の今だったらこんな苦行は速攻で飽きられてSNSで炎上しますよ。

でも当時の我々は偉かったというかアホだったというか我慢強かった。幸いなことにチャットは日本語でできたから、しょうもないことを話しながら延々と羊を殺しまくったのである。もちろん羊殺しばかりではあまりにもつまらないので、時には銀行の前で人物観察をしたり、落ちている服や帽子を拾って身につけてみたり、どこかの誰かが出したゲートに入って即死したり、羊狩り以外のこともそれなりには嗜んでいた。

また、AのツテでAの所属するギルドに入れてもらった。Dというギルドで、ギルドマスターはGという名の常に骸骨仮面を被ったままの正体不明な人物で、ギルド加入の際に挨拶したのだが終始無言であった。なんだこいつ、と思ったが、まあネットには変人のほうが多いくらいだから、まあこの人はこういう人なのだろうと考えるようにした。

で、それはそれとして、案内されたギルドタワーには圧倒された。

UOでは金さえあればNPCから家の権利書が買える。後はそれを持って家が建てられるだけの空き地を確保すれば、土地は無料なのでそこに自宅が建てられるのである。家はこじんまりとしたちっこい家から、誰が買うんだという目の玉が飛び出るような金額の城までいろいろあるのだが、ここギルドDではギルドの拠点として、2番目だか3番目だかに値の張るタワーと呼ばれる建物を所持していたのである。

タワーはこんな感じだったと思う。

だから多分このギルドはメンバーも多く活動も活発だったのだろう。「だろう」というのは、加入こそしたものの特にギルド活動に参加するでもなく、そもそも何をするギルドなのかもよく分かっておらず、本当にただ所属していただけだったからである。メンバーの何人かとは親しくなったが、全部で何人いるのか、普段何をしているのか、などは全く知らなかった。

さて、そうこうしているうちに、上がりにくいステータスもまあなんぼかは上がって、もうこっから先は羊では上昇が見込めないというところまで来たある日、我々はAのアドバイスで「オーク砦」というところに行くことになった。

こんな感じのところにオークがいっぱいいる。

オーク砦というのは、そのまんまだがオークの砦であり、初心者に毛が生えたような連中のトレーニングスポットとして人気を博していた地上施設である。オークと言えば昨今は豚のような顔と腹で何かといえば他種族のメスをさらって子どもを産ませるというよう分からん生態の魔物として描かれているが、UOのオークは別に豚っぽくもないし女性プレイヤーを拐かして種付けをするといった暴挙にも及ばない。

Aに連れられ、我々はオーク砦に赴いた。

そこにはいるわいるわ、灰色ネームのオークが所狭しと蠢いていた。と同時に、我々と似たような背格好の恐らくは駆け出し冒険者のようなプレイヤーも数多くいた。

オークは人間とは敵対しているので、こちらから襲わなくても近づくと向こうから積極的に戦いをしかけてくる。で、UO内ではこの「近づくと」というのは障害物を無視して測られるので、砦の内部のオークどもは、壁を隔てて外にいる我々に反応して、襲いかかろうと蠢いているのである。

ちなみに羊は温厚なので向こうからは襲ってこない。まあだからこそ初心者の戦闘訓練に適しているのだが。

基本的にNPCモンスターはアホなので、壁だの曲がり角だのがあっても男塾名物直進行のようにまっすぐこちらに来ようとする。だから引っかかってその場で延々と足踏みをする。そこでそういうやつを飛び道具で殺したり、ヒットアンドアウェイで殺したり、あるいは大勢で寄って集って殺したり、ときどき壁越しで殴れる場所があったりするのでそれを利用したり、まあ要するに殺すのである。

こんな感じである。握手会のオタクのようだ。

初めての本格的な戦闘だったが、別にタイマンで死ぬまで殴り合うみたいなことはないので、実に順調にオークは狩れた。しかも、オークは羊と違って、倒すと金や武器を入手できるので、その点が実に助かった。

UOにおけるいわゆる「ルート(戦利品を拾う)」だが、このゲームでは倒した死体をダブルクリックすることで可能である。死体をダブルクリックすると、そこには「開いた死体」が現れる。その開いた死体の中には、そいつが生前所持していたものがそっくりそのまま入っている。

UOではこういったアイテムの扱いが一風変わっていて、とにかくあらゆるものが「マウスでつまめるオブジェクト」になっている。で、それをマウスでつまんで、自分のステータス画面(UOではペーパードール、通称PDと呼ばれていた)にあるカバンの中へドロップすれば、それすなわち拾ったことになるのである。リアルといえばリアルなのだが、実際はクソめんどくせえ仕様だったとしか言いようがない。

これがPD。自分の鞄もダブルクリックで開ける。

ほんで、自分の鞄の内部も、拾ったものを適当に放り込んでおくとアイテムが重なりまくって何が何だかわからなくなってしまうので、ある程度整理しないといけないのである。鞄の中に鞄を複数置いて、「えーとこれは武器でこれは消耗品でこれは金でこれは秘薬でこれは予備のルーンで」みたいな。

これは余談だが、当時のプレイヤーの中には、PKに殺されたときの最後の自衛手段として、「空けたら大爆発して周囲の物を殺害する」といった恐ろしい罠の箱を持ち歩いている人も結構いた。PKはこちらを殺した後、当たり前だが戦利品を漁るためにこちらの死体を空けて荷物を物色する。その際、気づかずにその罠の箱を開ければ、罠が発動して憎きそのPKを道連れにできるという作戦である。まあこちらはすでに死んでいるので、相手が死んだからどうという話でもないのだが、UOの世界ではPKは生き返るのが結構手間がかかるので、相手が復活しないうちに急いで舞い戻れば荷物の確保ができるという目論見である。もちろんお察しの通り、うっかり自分で開けてしまい意図せぬ自殺をしてしまう粗忽者も少なくなく、また自分一人で爆死するならまだマシなのだが、銀行で荷物整理しているときなんぞに爆発しようもんなら、そこら中にいる善良なPCもNPCもまとめて大量爆殺なわけだから、ハイリスクハイリターンというか、リスクとリターンの釣り合いがいまひとつ納得いかないというか、まあ定番とまではいかない戦法ではあった。

さて、そうしてオーク砦でオークの殺害に興じていた私達であったが、ここで初めて私はUOプレイヤーの悪意に触れることになった。

冒険の開始からこの日まで、基本的に会う人全てが善人だったため、私はこの世界にも悪意が存在しているのだという当たり前の事実を忘れていたのだが、やはり人生そう甘いものではなかったのである。

ということでこの話はまた次回へ続きます。

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