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回顧録その2:UltimaOnlineの思い出1

ということでOltimaOnline(以降UO)の話である。

UO自体、あまりにも偉大な存在であるし、プレイしていた人間も星の数ほどいるだろうから、いまさらUOの思い出なんぞを語られてもと辟易している人が大半だろうし、そもそも偉大な先人たちがそれぞれの視点から様々な思い出を語ってくれているだろうから、このnoteはあくまでも私の私的な思い出として、語ることを許してほしい。

一応、簡単にUOの説明をしておくと、人類史上に燦然と輝く、初めて成功したMMORPGがこのUOである。MMOというのはMassively Multiplayer Online Role Playing Game、つまり大規模同時多人数参加型RPGである。

それぞれのプレイヤーがゲームに接続しているか否かは関係なく、世界は常にそこにあり、モンスターはうろうろし、宝箱は出たり消えたりし、木も生えるしウサギも跳ねるし羊もメーメー鳴くという、要するにFF11とかFF14とかの大先輩なのである(と言ってもMMOのFFはどっちかというとEQ寄りの戦闘メインのMMOだから、UOの系譜というのは令和の現在ではほとんど存在していない。辛うじてMoE辺りが子孫と言えるぐらいだろうか)。

しかもこのUOは、よくあるRPGのように戦闘を中心に置いたダイナミクスになっておらず、鉱山で鉱石を掘り続けてもいいし、鍛冶職人になってもいいし、大工仕事に精を出してもいいし、ポーション作りに血道を上げて時には猛毒を回復薬と偽って大量虐殺を目論んでもいいし、羊を飼って羊毛で小遣い稼ぎをしてもいいし、商人NPCを山程雇ってデパートを経営してもいいし、結婚詐欺の技術を磨いてそこらのオタクをだまくらかしてもいいし、ドラゴンをテイムして連れ回してうっかり衛兵に殺されてもいいし、人通りの多いところで無闇に楽器を弾きまくってそこら辺の他人の音楽スキルを勝手に上げる嫌がらせをしてもいいし、他人の家が廃墟になるのを虎視眈々と狙って火事場泥棒で一財産築き上げてもいいし、「新規開店大セールです!」とか言いながら魔法のワープゲートを出して実は行き先は地獄のようなダンジョンの最奥地という極悪トラップを仕掛けてもいいし、初心者向けダンジョンを拠点にケツの青い新規参入者を殺しまくって嫌な気分にさせるPlayerKillerで背徳感を楽しんでもいいし、そういう邪悪な輩を殺しまくるPlayerKillerKillerの修行を積んでもいいし、対人戦に取り憑かれてギルドVSギルドの大規模戦争でアドレナリンを出しまくってもいいし、エロ小説を書いた本を売ることをライフワークにしてもいいし、釣りでも掏摸でも魔法でも剣術でも格闘でも交霊術でも宝探しでも、とにかくシステム上できることが異様に幅広く、まさにRPG本来の目的である「ファンタジー世界の住人の一人となる」ことが可能なゲームだったのである。

当時の私は、Diabloで知り合った友人たちと夜な夜な遊び呆けていた。ただし、別にDiabloをそんなに遊びまくったというわけではなく、Diablo自体はチートとハックの横行やチャットで日本語が使えないこともありやや敬遠気味で、じゃあどういうことなのかというと、その頃の私は(というかおそらく一般的なオンラインゲーマーは)、以下のようなスタイルだった。

まずPCを起動する。ICQも同時に起動するので、ざっと眺めて誰がオンラインで誰がオフラインなのかを眺める。そんでIRCクライアントのChocoaを起動して、いつものチャンネル*に入って「こん*」とか「おは*」とか「うむ*」とか適当に挨拶をする。まあ大体誰かしらそこにいるので、人が多ければ「SC*やろう」とか「AoE*やろう」とか「Dia*やろう」とか、誰かが誘ってくればやるし、自分でやりたいもんがあれば誘う。なんもなければネットでも眺めながら別の人が来るのを待ったり、誰かが何か言い出すのを待つ。そんでこういう、なんというか、一種独特な時間を朝方まで過ごし、眠くなれば「おや*」とか挨拶して寝る。

*チャンネル:要するにチャットの部屋。
*こん:こんにちはとこんばんはを兼ねた最強の挨拶。
*おは:おはようの意。夜でも使う。
*うむ:肯定にも否定にも使える最強の相槌。
*SC:StarCraft。超おもしろいRTS。
*AoE:Age of Emipires。おもしろいRTS。ここだけの話だが◯れだった。
*Dia:Diabloの略。
*おや:おやすみの略。チャット退室の挨拶。

要するに、大学生が特に何か目的があるわけでもないのにサークルの部室に毎日寄ってはうだうだと駄弁ったりスーファミやったり麻雀やったりカラオケ行ったり飲みに行ったりするようなもんで、とりあえず馴染みの酒場のごとく溜まり場となっているIRCのチャンネルに顔を出して、そこで管を巻いている自分と同じような暇人どもと手を変え品を変え日々遊ぶ、という毎日なのである。

多分、当時オンラインで遊んでいた連中は、その多くがこんな感じで何かしらのコミュニティに属していたと思う。ゲーム内で知り合って、その知り合いのコミュニティに入って、また別のゲームで知り合いが出来て、そんでまた別のコミュニティにも属して、みたいな感じで、閉鎖的なんだか開放的なんだかよく分からないような人間関係が当時のネットにはあったように思う。実際、こういうコミュニティは無数にあり、まあ中には入るのにしちめんどくさいようなものもあったのかもしれないが、その多くは来るもの拒まず去る者追わずといった、かなり流動的なものだったはずだ。まあ別に代表がいるとか会費を集めるとかそういう組織めいたもんではなく、単に時間と気の合いそうな仲間がとりあえず顔を出す場所、みたいなものだったので、現実の人間関係とは趣の異なる独特な人間関係であったことは間違いない。

で、そういうアホらしくも充実していた日々を過ごしていたのだが、その知り合いの中の一人が、「はやくUOやれよ」みたいなことを結構しつこく言っていたのである。私も含めて大多数は「えー? UO? なんかめんどくさそうだし、それに毎月金がかかるんでしょ? どうすっかなあ」みたいな感じであんまり乗り気ではなかったのだが、確かこういった話題が頻繁に出るようになった時期にちょうどUOの最初の拡張パックが発売され、今ならセットで買えばお買い得、みたいなパッケージが出たはずで、「そんならいっちょうやってみますか!」という流れになったように思う。

UOはDiabloと違い、普通に日本で売っていた。確かもう少し時代が進むとコンビニでも買えたはずだ。だから私も普通に買って、普通にインストールして、普通に開始した。ちなみに上でもちょっと触れたように、UOは月額課金制だった。金額は忘れたが、10ドルかそこらだった気がする。Diabloはプレイ自体は無料だったから、UOはこういう点でも少し敷居が高かった。

当時のUOはまだ日本語版というものはなく、チャットではUniCodeの日本語が使えてはいたが、システムやNPCのセリフは全部英語だった。もちろんUIも全部英語だったのだが、当時のオンラインゲームはそのほとんどが海外産だったから、あまりそのことに抵抗はなかった。むしろ、チャットだけとは言え日本語が使えることのほうが驚きだった。

これがUOだ。うじゃうじゃいるが、その多くの中身は人間である。

先行して始めている知り合いが「新大陸のデルシアっつー町の銀行にいろ。迎えに行くから」みたいなことを言っていたので、私はその新大陸とやらのデルシアとかいう街から始めた。

新規キャラクタは、始める街を選べて、そんで開始するとその街の宿屋に出現することになる。で、なんか「ぬののふく」みたいな装備だけを身に着けた私は、そのデルシアという街の宿屋に降り立つことになった。始めるときには簡単なキャラメイクがあるのだが、なんか適当にやったようで、私のキャラはハゲだった。まあキャラ自体が簡素なグラフィックだから、ハゲだろうがカッパだろうがロン毛だろうがそんなに違わないのだが。

で、生まれたてで右も左も分からない私は、慣れない操作に四苦八苦しながらも何とか宿から銀行に向かうことにした。ただ、ゲームがあまりにもカクカクなのは閉口した。よく言われる「水中」どころか、出来の悪いパラパラマンガのようなコマ送り状態なのである。今思えば通信環境が貧弱であるにも関わらず、常に双方向通信をしているようなゲームを遊んでいる上、グラフィックカードも積んでいないノートPCで遊んでいるのだから、ラグと性能不足でガックガクなのは仕方ないことなのだが、当時のボンクラな私は「このゲームおっせえなあ。もうちっとサクサク動けねえのかよ」と自分の回線とPCのスペックを棚に上げ、苛ついていたような気がする。

銀行に向かう途中、馬に乗ったPCと遭遇した。

私は「すげえ。このゲーム、馬に乗れるんだ」と、都会から北海道の学校に転校したモヤシっ子のように感激し、すぐに「俺も乗りてえ」と思った。当時の私はDiabloデビューしたての頃とは違い、見ず知らずの人でも平気で話しかけるスキルを身に着けていたので(というか、オンラインだと黙っている方がむしろ不気味だと思う)、そのお馬さんにまたがっている人をおいかけて、

私:すいません
馬:なんでしょう?
私:その馬はどこで手に入るんですか?
馬:始めたばかりですか?
私:はい
馬:じゃあこの馬あげますよ

みたいな会話を繰り広げた。

驚くべきことに、この初対面のどこの誰とも知らぬプレイヤーは、ぬののふくしか身に着けていない浮浪児のような私に貴重な馬をプレゼントしてくれると言うのだ。現実世界で馬といえば何百万何千万という代物である。そんな得がたいものを無償で提供してくれるとは、なんと素晴らしい世界であろう。常に薄暗く血と臓物と死体と樽と壺で埋め尽くされているDiabloの世界とはまるで正反対の、善意と好意で作られている輝かしい世界ではないか。

などということを当時の私が考えていたかどうかは覚えていないのだが、ともあれ、馬をもらった私はかなり有頂天だったと記憶している。だって馬だよ? いや馬そのものが嬉しいというのもあったのだが、何よりも「騎乗できる」という仕組みに感激していた気がする。実際、UOには馬の他にもラマとかオスタードとかナイトメアとか鎧トカゲとか持ち運び可能な透明な馬とかいろいろな騎乗生物がいて、レアな生き物に騎乗していることは一種のステータスでもあったのだ。

ちょっと時系列が前後するが、UO世界でいっぱしのベテラン面をするようになった頃、知り合いのテイマーから「漆黒メアほしい?」と言われたことがあった。漆黒メアとは、ナイトメアと呼ばれる馬型の魔物の中でもなかなか珍しい、本当に塗りつぶしたような真っ黒な色の騎乗生物である。

コイツは魔物の中でもかなり強く、そこらのテイマーではテイムするどころか殺されてしまうような魔物だったので、ナイトメアに跨るというのは一流テイマーの証であった(ちなみに動物を手懐けることを「テイム」と言うことはUOで初めて知った)。なにしろこいつをテイムするにはその苛烈な攻撃を避けることもさりながら、完璧に近いスキル構成が必要だったのだ。しかも、跨っているときはまあいいとして、ちょっと降りたりすると急にテイムが切れたりすることもあって、そうなるとこちらが死ぬのは必至どころかそれが町中だと衛兵に退治されるまでに多大な死者が出たりして、物騒極まりない生き物だったのである。

で、そういうナイトメアの体色は基本的に黒なのだが、時折ホントにまっくろけなやつがポップすることがあって、それが漆黒メアと呼ばれるレアモノで、それに跨っている人はめったにいなかった。

だから「漆黒メア乗る?」という誘いに対し、私は是が非でもと応じ、その日から急にテイマーのスキルを昼も夜もなくがんばって(主にマクロで)上げて、無事ナイトメアに跨ることができたのだった。ちなみに乗ったその日から私が死んでメアがどっかに逃げ出すまで、一秒たりともメアから降りることはなかった。なにしろ跨るためだけの最低限のスキルしかなかったので、降りたら反逆されることが目に見えていたからである。どうしても降りざるを得ないときは神に祈りながら厩舎に預けることもあったが、まあナイトメアにしてみれば私のような貧弱なスキルのテイマーに乗られているというのは屈辱の日々だったろうし、ましてや延々とずーっと乗り続けられてストレスも相当なものだったろう。

それはさておき、馬を無事に譲ってもらった若輩者の私は、馬にまたがったまま銀行を探してウロウロし、無事に銀行にたどり着いて友人を待った。先に始めていた友人(Aとする)と、私と一緒の時期に始めるはずの友人(NとSとする)をそこで待ったのである。

しかし、待てど暮せどそいつらは一向に現れず、私は銀行の前でうじゃうじゃといるプレイヤーたちをただ眺めていた。武器を売る人、アイテムを売る人、秘薬(当時の私には何のことか分からなかったが)を買うとしつこいくらいに連呼する人、何をしているのか知らんがサイコロを振っている人、全裸にオークマスクをつけて無言で壁を向いて立ちすくんでいる人、何やら楽しそうに会話をしている恐らくは友人同士、とにかくまあ「今この瞬間に日本中の人が同時参戦している」という光景に、私は心底衝撃を受けていた。

結局、「デルシアの銀行に来い」とほざいていたAはギルドの用事だか何だかで姿を表さなかったし、いっしょに始めることになっていたNもSもインストールだか課金だか何かがうまくいかなくてこっちも来なかったし、私のUO初日はそのまま特になにも起きないまま終わることになった。

ただ、強烈に「コレは面白そうだ」というインパクトがあった。Diabloどころではなく、数千人が同時に同じ場所でリアルタイムにゲームに参加するという人生初めての体験は、ホントに衝撃的であった。

ちなみにもらった馬は、翌日ログインしたらもういなくなっていた。後で聞いたところ、乗ったままログアウトするか厩舎に預けるかしないと、テイムした生き物はテイムが切れてどこかへ行ってしまうということらしい。せっかくもらった馬があっという間にいなくなってしまった私の悲しみはかなりなものだったが、「馬なんかそこらじゅうにいるぞ」というAの言葉で少しだけ慰められたことも間違いなかった。

・・・続く

(UOの話はいろいろ書きたいことが多すぎるので今回はここまでです)

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