VOL.10 私が“無農薬野菜”を信じない理由 ~地域移住のコレいい、コレあかん~
時々玄関先に謎の野菜が置かれていることがあります。ある意味ホラーですが、誰からの野菜かわからない以上無碍にもできないんだこれが。。。
さてさて。
地域移住のコレいいコレあかん、の今回のテーマはコチラッ!
「私が“無農薬野菜”を怪しむ理由」
またまた賛否を巻き起こしそうなタイトルですが、私が言いたいのは無農薬栽培がだめだとか、慣行農法がいいとかそういうことではありません。“無農薬野菜”という表記の規制であったり、そこに伴う信憑性の話となります。
消費者の方も“無農薬野菜”と表記があったら安心する方も多いかと思いますが、私からするとその時点で“買うに値しない”野菜となります。
そもそも「有機野菜」「無農薬野菜」「減農薬野菜」「特別栽培農産物」「栽培期間中化学農薬化学肥料不使用」と野菜に関する表記が多岐ありますし、そもそも無表記の野菜もあります。これらを正確に理解している消費者はいるでしょうか?
むしろよくわかっていない生産者すらいます。
このあたりの話を今回はしていきないなーと思っております。
① そもそもその表記はどういう意味なの?
(A) 有機(オーガニック)野菜
有機野菜とは農林水産省が定める有機JAS規格の条件を満たし、認定を受けた野菜となります。有機JAS規格や認定方法については話すと長くなるので割愛し、興味のある方は以下のリンクをご参照ください(農林水産省有機農業トップページ)。
ちなみに“有機野菜”=“農薬も肥料も使っていない”イメージがあるかと思いますが、有機JAS法で定めれられている自然由来の農薬や肥料は使用しても問題ありません。なお“有機野菜”の表記については「有機JAS法」にて定められており、例えば有機JAS認定を受けてないにもかかわらず「有機野菜」との表記で販売したり有機JASのロゴを使用することは当然法律違反となります。
表記の例は以下の感じです。
(B) 無農薬野菜
農薬を使ってなさそうな野菜のイメージを持つ方が多いとは思いますが、そもそも「無農薬野菜」と表記して野菜を販売することは、農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」により禁止されております。ですので「日本においては“無農薬野菜”という表記の野菜は存在しない」のが正解なのです(※一部ECや対面販売において謎の例外あり。最下部で少し触れてます)。
(C) 減農薬野菜
“定められている農薬の使用回数や使用量を少なくして育てた野菜”的なことをイメージされるのが一般的だとは思いますが、これも無農薬野菜と同じく農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」により禁止されております。
そもそも“減農薬”ってすごく抽象的でわかりにくいですよね?何を基準かもわからないし、結局は農薬使ってるし。
(D) 特別栽培農産物
この表記だけ見るとものすごくわかりにくいのだが、これは認められている。「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」では化学合成農薬及び化学肥料の窒素成分を各都道府県が定めた慣行レベルより5割以上削減して生産された農産物であり、ガイドライン上は第一者認証(国のガイドライン上であり、各都道府県で細かい制度がある場合もあり)である。要は生産者が責任をもってルールに準じて生産したと言えば特別栽培農産物と表記することが出来ます。但し都道府県での特別栽培農産物ブランドロゴなどを使用する場合には一定の認証許可が必要なケースもあります。
表記の例は以下の感じです。
↑福岡県の特別栽培農産物ブランドロゴ↑
(E) 栽培期間中節減対象農薬化学肥料不使用
もはや“呪文”のようだが、これも認められている。上記(D)の特別栽培農産物の中に含まれており、その中で節減対象農薬&化学肥料を全くしていない場合に表記が認められている。気づいた方も多いと思いますが、一般的に“無農薬野菜”と呼ばれる物は正確にはこのような表記となるわけです。
表記の例は以下の感じです。
その他似たような表記が多くあるかと思いますが、ここでおさえて頂きたいのは「表記なし」「有機JAS」「特別栽培農産物」しかないということです。それ以外はガイドライン違反、もしくは違法となります。
私が“無農薬野菜を買うに値しない理由”とはまさにここで、無農薬野菜と表記して販売するのはガイドライン違反ですからできません。なのにこの表記で売る理由は「生産者や小売り業者などが悪意を持って販売している」か「生産者や小売業者などがガイドラインや法令を知らずに販売している」の二択です。そのどちらにしても、生産するor販売する者として私は信頼できません。
② なぜこのような表記となっているか?
一言で言うと消費者を守るためです(余計分かりにくいやんっ!ってツッコミ待ちのようだが、、、)。
ちなみに皆さん“無農薬野菜”ってどのような印象を受けますか?
ほとんどの人が「全く農薬を使ってない野菜」といった印象を持つ方が多いかと思います。
でも本当にそうなのかと言うと、そうではないこともあります。
意外と「農薬」の意味合いが消費者と生産者で異なってくるんですよね。化学合成農薬のみが「農薬」と思っている方も多いのではないかと思いますが、農業で言う一般的な「農薬」には自然由来の農薬も含まれております。例えば「酢」とか「油」など普段食べるものが主成分のものや、もはや薬と言っていいのか「天敵」までもが農薬取締役法で農薬と定められているのです。
消費者「農薬を全く使っていない」⇔生産者「化学合成農薬は使っていない(自然由来の農薬は使っている)」ということも往々とあります。
また残留農薬(その野菜自体には農薬は使用していないが、元々の土壌に農薬の成分が残っていた)などの可能性や、さらに細かい話ですが農薬と肥料の違いも分かっていない消費者の方も意外と多くおられて、無農薬野菜(でも化学合成肥料は使っているよー)など、言葉尻を捕らえられるような表現にもなりかねません。
このような事実関係を生産者と消費者において共通認識を持つことができていない、つまり誤解を与える可能性が強いことが、“無農薬野菜”や“減農薬野菜”と表記することを禁じた一つの理由となります。
「特別栽培農産物(栽培期間中節減対象農薬化学肥料不使用)」や「特別栽培農産物(栽培期間中化学農薬〇割減・化学肥料〇割減」といった表記は長ったらしくて余計わかりにくいようですが、より正確に消費者に伝えるための表記なのです。
※なお栽培期間中とは、その生産者が「種(苗)を植え」「育て」「収穫し」「出荷調整(洗浄や袋詰めなど)し」出荷するまでの期間です。ですので厳密には上記のような残留農薬などは含まれていない表記となります。
③ でも何でいろんな表記であふれてるの?
世間的に認知されていないからが、一番の原因です。
結局は生産者(販売者)が行う商品と消費者とのマッチングですから、世間的に認知されていない正しい表記ではなく、世間的認知されている(やや誤解はあるが)正しくない表記の販売が手っ取り早いんですよね。なお“無農薬野菜”の表記はあくまで農水省のガイドラインであり法律ではありませんので、はっきりと罰則があるわけではありません。
ただ今のままでは“正直者がバカを見る”上に“いつまでたっても認知が進まない”ことになります。一時的には苦慮することがあっても正しい定められたルールに則って販売するのが生産者(販売者)の責務であるのは言うまでもない。情報の告知を徹底するのももちろん大事だが、生産者(販売者)がルールに則り正しい販売を行い続ける事が消費者の為になり、回りまわって自分たちの為になることは忘れてはいけない。
最後にですが、本文に少しだけ触れてますがいわゆるECサイトで生産者から直で購入できる場合には「無農薬野菜」の表記もOKというのが、農林水産省の見解です。理由は直接生産者に聞くことが出来るので誤解なく購入できるとのことですが、私は懐疑的に感じてます。
上記の通り、消費者を守るために表記の規制をするのである。消費者に正しい情報が浸透していない中「ECサイトでの無農薬野菜表記はOK」だが「小売り店での無農薬野菜表記はNG」と正確な情報をもとに買い物するとは考えにくく、余計表記による誤解が進む可能性が強いと考えられるからです。
あぁ、ややこしい。。。